6 少女、思想、記憶。


 小さい頃、私は何も夢中になれることがなかった。ゲームも、遊びも……趣味と言えるものは何ひとつとしてなかった。

 親には度々、無個性だと言われた。


 何をやっても中途半端に終わってしまう。

 自分自身に嫌気が差していた。

 こんな淡白な自分が嫌いだった。


 何かに全力で取り組みたい。夢中になれることを探していた。運動も、読書も、時間を忘れてしまうほどの楽しさは見いだせない。


 ピアノ教室に通ったこともあった。

 私が「ピアノをやりたい」と言った時は、母は喜んで協力してくれた。なのに、なのに。


 ピアノ教室も億劫になり、いつしか通わなくなった。


 こうして、真っ白な日々が続いていた。


 母はすごく協力してくれた。

 私を想ってくれていた。


 なのに、それに答えられなかった。


 とんだ親不孝者だ。


 母はもういない。少なくとも、私を産んでくれた母は。私の目の前にいる母は、母ではない。それは、父が選んだ二人目。


 ……。


 母は、で亡くなった。

 それで不安定だった私を安心させるための再婚だろう。


 再婚を経て、お兄ちゃんに出会った。


 それから少しして、趣味も見つかった。

 不良という、キャラクター。


 無理矢理と言われれば、そうだ。

 でも、母のために。でいなくなってしまった母のために。

 そんな気持ちがあったのかもしれない。


 でも、不良というキャラが嫌いというわけではない。今までで一番熱中できる。


 ――――でも、だからこそ。



 不良キャラを嘘だと認め、友達に打ち明けるのには勇気がいる。

 それは私の心を覆う殻だ。閉じ込められる代わりに、私を守ってくれる。

 それを破る時が来たのか。


 一人であれば、そんなことをしようとは思わないだろう。でも、お兄ちゃんがいるなら……友達を信じられるなら……。


 ちょっとした雑音で途切れてしまいそうなほど、か細い声で。それを自分で噛み締めるように、呟いた。


「本当のこと、話して……みようかな」



 それに呼応し、兄は力強く言い放った。



「勇気出せよ、大丈夫だ。俺がいる」




 


 

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