5 妹の、本当。
『お金ないの♪』
さて、現状をおさらいしようではないか。
妹の友達が来るのは今週の日曜日。今日は金曜日。行動を起こすのは明日になるだろう。大事なのは、何をするか。どんな対策で妹の友達を欺くか。
俺は食卓で唐揚げを頬張りながら、真剣な表情で思案していた。
紗恵の顔もいつもより険しい。
兄妹揃って全力で頭を働かせていたので、会話は弾まない。
父、母、兄、妹。
家族が集う食卓の上には、なんとも重い空気と静寂が漂っている。
箸と皿がぶつかる音、コップを置く音。何気ない音がいつもより大きく感じられた。
違和感を察知した母が、我慢の限界といった感じで口を開いた。
「さ、紗恵? 学校はどうだった?」
恐る恐る聞いてきた。
何も事情を知らない母からすれば、重大なことがあったと勘違いするだろう(いや割と重大な事件なのだが……)
対して紗恵は……。
「普通」
あっけなさすぎた……。
こいつ面倒臭いからって一言で済ませやがった!! 余計に勘違いされるだろ!!
紗恵にそっけなく返事をされた母は、かなり傷ついたのか、それ以上話しかけてくることはなかった。
*
「ご飯でこんなに疲れたの初めてだよ!」
「馬鹿! 大声出すな、そんなの母さんに聞かれたらもっと落ち込むぞ!」
夕食後、俺は紗恵に部屋に来るように言われ、言われるがままに聖地へと足を踏み入れた。なんかもう、色々な意味で感動した。
いつ入っても『妹の部屋』とは良いものである。ああ、いい匂い。
……とはいえ、なぜ部屋に招かれたのか。
妹の友達への対策である。
金が無い以上、他の方法を考えなくてはならない。俺もあれこれ考えていたが、そこで、ふと思った。それまでの前提を覆すことを。
「紗恵、ちょっと思ったんだけどさ」
「何、お兄ちゃん、いい案思いついた!?」
「いや、そもそもさ、紗恵は家では不良じゃないだろ?」
優しく、問いかける。
「本当のお前はどっちなんだ?」
不良は妹の本当の姿なのか。
これは言ってみればコインの表裏のようなものだった。どちらが本当の沙恵か。
紗恵は困ったように首を傾げる。
「うーん、家ではありのまま過ごしてるから、本当の私って家での私?」
「なら、不良ってのは作ってるってことだろ?」
で、あれば……。
……言葉が出ない。言いたいことは明確にある。だけど、喉に栓が詰まったようにつっかえる。
「な……なら……」
「?」
何度も言いかけては止まり、やがて、やっと声を紡いだ。
「ならさ、本当の自分を隠す必要は無いんじゃないか? お前のことを尊敬してくれてる友達なら、きっと理解してくれると思うぞ」
……沈黙があった。長いか短いかと言われれば、それは分からない。
だけど、それは確実に俺を不安の底へと叩き落とす。
紗恵は俯き、動かない。呼吸が荒いのか、息をする度に肩が上下している。
(やっぱり、俺がこんなこと言うべきじゃ……)
「…………てる、よ」
ポツリ、と。
「私がみんなを騙していることだって分かってる!! でも、本当の私をさらけ出したら、みんなは、私の前から居なくなっちゃう。だから…………」
だから、バレる訳にはいかない、か。
確かに聞いた、妹の声。
不安という心の隙間から漏れ出た本心。
だから、俺は引き下がらない。
だから、それを逃さない。
だから……言ってやった。
「本当にそうか?」
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