第53話 イレギュラー

カイネside


目の前で行われている戦闘を見て、この場にいる腕利きの冒険者達は声を発することがなくなった。

いや、正確に言えば…あの光景を見てもなお”奴が異端者”だからという下らない理由で非難するものは現れないだろう。


ガインッ! ガインッ!


目にもとまらぬスピードで繰り広げられる近接戦闘、心なしか俺たちが戦っていた時よりもモンスターの姿が生き生きとしているようにも思える。

いや、そんなことよりも驚く点はまだまだある…レベルやあらゆる縛りから解放された”異端者”だとしても、あいつの成長スピードは尋常ではない。


おまけに、あいつは順当にダンジョンを攻略しているだけ。


「どう思う。 レイナ?」


俺は小さな声でレイナだけに聞こえるように小さくつぶやいた。


「はっきり言うと異常だね」

「異常…」

「私達と彼ら達はレベルっていう縛りがあるとはいえ、それでも私達や彼ら―――そしてそれは異端者であっても”限界は来る”ものさ」

「…どういう意味だ?」

「彼は”普通の人間”なんだよ」

「????」



何を言うのかと思えば、当たり前の事をどや顔で告げるレイナ。

いや、それは俺もわかっているし…家族の連中だって知っていることだ――アーマーが無ければ雑魚も同然、むしろ赤子よりもひ弱な存在である事は誰もが認知している。


「何が言いたい?」

「単純な事さ。 なぜ、あれもあれもあれもあれも――この場にいる”地球人”達は全員、私達の世界の住人に近しい存在となってるわけだ。 けど、なぜ”普通の人間”が”まだ”存在しているんだい?」

「そ、それはあいつにはアーマーが…」

「地球全体の”人間”はそうなったのにかい?」


そう、私達は水面下であらゆる情報を探って見たが―――この世界は愚か、向こうの世界にすらも”普通の人間”いわば、レッドレインが降る前に存在したはずの人類はもうこの世に一人とて存在していない。

新しく生まれる命でさえも、それは例外ではない――俺たち、女神の加護を受けしもの。


そして、神の加護を受けたとされる”異端者”共。

では、そうなれば――彼は、あいつは、いったい何の加護を受けたというのだろうか?


「————イレギュラー…」

「…イレギュラー?」

「少なくとも、彼に対しては個人的にだが…よくない力が働いているような気がするんだよね~」

「よくない力?」

「あぁ、理の外。 いわばルールからはみ出た存在がいたとしよう、ならカイネ? 君ならどうする?」

「それもちろん―――」


まさかと思い俺は目を見開いて、レイナをじっとみつめた。


「これは面白くなってきたね~。 こりゃ傑作だ! これはいよいよ世界が―――私達のほうのアレも、動き出す事になるだろうね~…」

「みょ、妙にうれしそうだな…お前…」

「はっはっはっ!! 私はねぇ~! 神とか女神だとかあんな胡散臭い連中ははなから信じていないのさ。 それがぶっ壊せるかもしれないんだよ? 君も理解しているだろう…ダークエルフの末裔ならば」

「………利用するっていうのか?」

「利用? 違うよ、これは”戦争”さ。 彼はいわば希望の種。 それをおいそれと渡してたまるか。 カイネ、君も備えるんだよ~…世界はこれから大きく動き出す」

「はぁ…力を貸してくれと素直に言えないのかよ、お前は…この年になってまで情けない」

「う、うるさいなぁ!? なんか意味ありげに言ったっていいだろう!? それっぽい雰囲気だったじゃんか~!!」


等といつものやり取りを始める俺達。

確かに、色々と思い出した今ならば…この世界の在り方を変えることができるかもしれない。

だが、それにはもう少し外堀を埋めていく必要がある…まぁ、あの男にはまだそのまま力を蓄えてもらう事にしよう。


「ともあれ、今こそ”世界を繋げる”時が来た。 カイネ…」

「えぇ、わかっていますとも。 ”姫様”、今こそアレを実行致しましょう」

「よろしい。 まずはあの3人とコンタクトを取りなさい、いいですか? くれぐれも悟られぬように」

「はっ。 ですが…」

「あぁ~安心ておk~。 あっちの許可は得ているから」

「はぁ…さすがは姫…」

「それじゃあ始めましょうか。 今こそ世界を…世界を~…アレする!」

「………」


途中まで真面目な空気だった所悪いのだが、俺はジッと細い目でレイナを見つめる。


「はぁ…この姫様は本当に何に影響されたんだか…」

「……もう1回ってあり~?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る