第52話 合同クエスト

嘘っぱちの太陽の光が照らす緑一面の大地の上で、数十人という数が集まった冒険者達は各々話をしている。


「さて、今回集まってもらったのは他でもない。 我がギルド”レッドスコーピオン”が依頼した合同クエストの参加者達で間違いはないな?」


ゆっくりと頷く集まった腕利きの冒険者達、皆それなりの身なりで強度の高そうな鎧を纏う者や、動きやすそうな皮の鎧に身を包む者達。

周りを見て思うが、あまりにこっちの面子は軽装すぎるんでは? と感じてしまう。


1人は赤いロングコートに身を包んだ、いい年をした男と。

ボディラインがくっきりと見えてしまい逆にこっちが恥ずかしくなりそうな、ボディースーツに身を包む少女。

と思えば、魔女の様な紫色のローブ一式を全身に纏うそれなりの————


「創輔?」


何かを察知したのか、うちの母は細い目で俺を睨んで来た。


「はい…」


とここで合同クエストに付いての説明をしておこう。

合同クエストとは所謂”緊急時”に発令されるギルド依頼で、ランクに関係なく…ギルドが認めた冒険者達であれば参加可能というお祭りの様な依頼だ。

しかし、その実態は滅茶苦茶難易度の高いダンジョンへの救援&攻略を目的とした超高難度の依頼である。

その為か報酬はすさまじいと聞く。


「あ、あの、カイネさん。 失礼を承知の上で質問させて頂きたいのですがよろしいでしょうか?」


すると何かに気付いたのか、鎧をきた青年が列の後ろから手を上げる。


「いいだろう。 なんだ?」

「あの、そちらの方は―――なぜ、ダンジョン内でジャージ姿なのでしょうか?」


と指さす方向には当然の様に俺が居た。


「そ、そういえばなんでジャージ?」

「おいおいまじかよ。 ジャージ姿で来るか普通?」

「え? どこどこ!? 本当だ!」


等という声がちょこちょこ聞こえてくる。

だが、残念ながらお前たちは我が妹の計画した作戦にまんまと嵌っている事には気付いていないだろう。


「よっし…」


肝心の妹はと言うと小さくガッツポーズをしていた。


「あぁ、そいつか。 そいつに付いては気にするな。 じきに解る」

「――え? は、はい…」


納得できない様子で手を下げた男は終始俺の事を不思議そうに見つめていた。

無理もない、高難度のダンジョンに見知らぬ人間がサンダルジャージ姿で居たら、流石の俺でも一度は見る自信がある。


「さて、今回の任務は行方不明者の捜索&このダンジョンの調査だ。 気を抜くなよ? いくら精鋭のお前達とは言え、碌な報告が上がっていない――ーおまけにモンスターの実力は未知数。 心してかかれ」

「「「「「はい!!」」」」」


そしてある意味俺が波乱に巻き込まれる始まりとも言えるクエストが開始された。



―――――――――――――――――――――――――


「タンク! 注意しろ! 後衛! 身を守れ! 他の冒険者達にも目を配れ! あいつは未知数だ! 攻撃開始するぞ!」

「「「おぉ!!」」」


カイネがあらゆる冒険者の先頭に立つと、うちの家族や他の冒険者達を巻き込み———巨大なモンスターとの戦闘を繰り広げていた。

相手は見たこともない、ドロドロと皮膚がただれたドラゴンの様な存在だ。


「あれは、なんなんですかね?」

「さぁね~。 こっちはそれを調べる専門だからさ、Zちゃん? 相手の特性は分析できそうかい?」


メガネをかけたレイナさんはノートパソコン片手に何かを入力し始めた。


『皮膚の強度はそれ程ではありませんが、恐ろしい再生速度を有していると思われます』

「成程…だったら頭部の方もあまり効果的はないと?」

『はい。 ダメージは通ると思われますが、物理攻撃でのダメージはそれ程期待できません』

「エンチャントは?」

『全属性試してみるべきかと』

「んじゃ、そうするか。 カイネちゃ~ん? 武器エンチャントで一つずつ試してみて報告をお願い~」


とだけ告げると再びノートパソコンでの分析を開始した。

なんというか、凄まじい罪悪感だ…皆が家族が頑張っているというのに———肝心の俺はというと後ろでただただ目の前の景色を眺めるだけ。

なんでも家族曰く”ある種の保険”として俺はここにいるらしい———後は何かを企んでいるのか、カイネの奴が戦闘中にも関わらずチラチラこちらを見ている気がする。



――――――それから数十分後の事である。


「ふぅ~…ちょっと休憩だ」

「そうね。 魔力を回復するわ——」

「私も~…」


と、家族の3人は目の前でレジャーシートを広げるとあろうことかその場で寛ぎ始めた。


「え?」


そうこうしているうちに、他の冒険者達もカイネに何かを言われたのか…不服そうな表情でこちらへと下がってきた。


「ど、どういう事ですか!? ま、まだ僕たちは戦えます!」

「そうですよ! なんで、私達を下がらせているんですか!?」

「そ、それにそこの方々だって!」

「まぁまぁ~それは後で自分の眼で見ればわかるよ。 んじゃ、創輔くん。 準備よろしく」

「―――え?」

『さぁ~て! ここからが本番ですよ~ 準備万端!』

『私も何時でもいいわよ~?』

『それでは装着者ファクター。 装着準備を開始してください』


よく見れば、徐々に徐々に目の前の冒険者達もこちら側へ下がってきている。


「よし、おい! 創輔!! 時間稼ぎを頼む、お前もこいつとの戦闘データが欲しいだろう? 交代だ!! うりゃぁぁぁ!!」

『——————』


ドガンッ!


無言で倒れる巨大なドラゴンは未だ健在。

しかし、だからと言ってこのままとはいかず俺は休む冒険者達の視線をかいくぐりながら前で出た。


「あ、あいつ何を?」

「さ、さぁ? なにか特別なスキルがあるとか?」

「なにしてんだ!?」


大きく息を吸う。

後ろを振り返れば、今か今かと何かを待ちわびている様子を見せる家族達。

それとレイナさんに至っては俺に向かって親指を立てながら行って来いと言わんばかりの表情を向けていた。


「なるほど…どういう事ね。 だからアーマーを着るなっていったわけか」

「何してんだ!? さっさとこいって!」

「今行くって!! はぁ…んじゃ、いくか。 いやなんだよな~これ…ダサいから…すぅ~~~… いくぞ!! 装・着!!」


シ―――――――――――ン

「「「「「「??????」」」」」」



俺の『装着!』と言う叫び声だけが空しく響い渡る。

正直言って、死にたい位恥ずかしい。


装着者ファクター。 どちらを———』

「あ…ソードで」

『了解。 アイアン・ソード転送』


瞬間、俺の身体の周りを見慣れない”DANGER”という文字がグルグルと全身を囲む様に回り始めた。


「え? 何これ?」

『————専用演出です』

「え? 演出———」


ガシュン!!!


俺の目の前は何時もの様に真っ暗になった。



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