第34話 レベルアップの謎

『ではまず、レベルアップと呼ばれる、現象についての説明を行います』


ここはある地下室で行われている秘密の会議。

特殊合金製の壁が周りを多い、色んな機材が部屋に散りばめられ、目の前には巨大なモニターが存在する。


「ん”~ん”~ん”~」


白いテーブルに腰を下ろした俺達4人の家族と―――


「ん”~ん”~ん”~!!!」


後ろには特殊な縄で縛られた1人の女性の姿が。


「よし、続けてくれ」


後ろを振り返ったのにも関わらず、何事も無かったかのように振舞う”全身黒いロングコート姿”の父。


「えぇ、貴女が入手したという情報。 是非私達にも共有して頂けるかしら?」


更にその隣に並ぶのは赤いライダースーツに身を包んだ我が母。


「ふっ。 私達の相手では無かったね…ふふふ」


同じく黒いロングコート姿の妹と――――


「ん”~ん”~ん”~!!!! ん”~!!」


滅茶苦茶縄で縛られている、レッドスコーピオンのギルドマスター”レイナさん”。

それはもう脱出不可能な位にグルグル巻きにされた状態で床に転がっていた。


「なぁ、そろそろ放してやっても…」

「「「駄目よ(だ)!」」」

「そ、そうか…」


しかし俺は違う、このコスプレ集団に呼び出されただけで上下黒のスウェット姿である。

何故だか、俺だけ場違い感が凄い。


『では、続けてもよろしいでしょうか?』

「「「どうぞ」」」

「お、おっけ…」

『まず、レベルアップと呼ばれる現状はどの様な方法で行われるのか、それは魔力による身体能力の強化です』

「魔力による身体能力の強化? そんな事、聞いたこともないわ――”身体能力を強化する”魔法とは別という意味よね?」

『はい。 身体能力を強化する魔法とレベルアップはまた別の事象です。 現に、あなた方はモンスターを倒す事で経験を得―――そしてレベルが上がるとお考えですが―――そもそも、経験とはなんなのでしょうか?』

「「「「…」」」」


言われてみれば、”経験値”ってどういうものなんだ?

モンスターを倒していれば、勝手にレベルが上がる―――というのは正直この世界の誰もが知っている事だ。


『ですが、現実はそうではありません。 ”女神による祝福”それを”レベルアップ”と呼称している。 間違いありませんね? 異世界人のレイナさん』

「なに!?」

「う、そ…」

「まさか…」


俺も含め全員が後ろを振り返りレイナさんを見詰めた。

しかし、彼女はあれだけ騒いでいたのにも関わらず急に静かになった…


『拘束を解いて構いません。 完全にこちらの部屋を隔離したので、逃げる事は不可能でしょう』

「解った」


親父はそれを聞くとレイナさんの拘束を解いた。


「あちゃ~…もうそこまで掴まれちゃってる訳かぁ~いやはや恐るべし”異端者”というべきかなぁ~?」

「どういうことだ? 説明してもらおうか? レイナ?」

「えぇ、詳しい話をお願いするわ」

「お~こわ! 流石は伝説の”暗殺ギルド”の元TOP…というべきかな~! まぁいいや、そうだよ~! ちなみに”ここは安全”かい~?」


何かを確かめる様に目を細めたレイナは目の前のモニターに向け言葉を放った。


『問題ありません。 我々は”女神”と無関係の存在です―――干渉はできないでしょう』

「それはいい~! まぁ~ひとつひとつ説明すると。 レベルアップという概念は女神の祝福による”副作用”ってやつだね! それに疑問を持てなくなっている―――モンスターを倒せば、経験値が手に入る! ”普通に考えて”おかしくなぃ~? 経験値って何? 目に見えない何かがあるのぉ~!? そんな馬鹿なぁ~!?」

「わざとらしい芝居は止めろ。 で? 結果は?」

「うっ…いじわる…」


いつにも増して凄まじい気配を放つ親父はもはや家にいる時とは別人といっても過言ではない。

おまけにレイナさんも、より胡散臭い雰囲気に変ったせいか…普通のやり取りをしているのにも関わらず何故か空気がひりついている。


「まぁ、そこの人? AI? なんだから解らないけどぉ~正解だね! モンスター達が身体に有している魔力を”食らう”事でこの世界の”人間”と”私達異世界人”はレベルアップというものを行い。 より強い魂、所謂身体を進化させる事が出来る訳ぇ~! まぁ、それもこれも”女神様”の干渉により、認識出来ない様になっているんだけどねぇ~!」

「認識できない?」


言われてみれば、今の今までレベルアップというものに何一つ疑問を感じた事は無かった気がする。 それが当たり前というか――常識というか。


「そう! ”私達”もここ最近まで、そこに疑問を持つ事がなかったんだぁ~! けどぉ~異端者なる人と会話をしていく内に思ったわけぇ~! あれ? なんかこの世界、変じゃない?って~!」

「なるほど。 だから”お前”はうちの息子に興味を持った訳か?」

「ご明察ぅ~! 君の息子ちゃんだけは、異端者の中でも異端中の異端―――女神の干渉を受けている様だけど。 それが嘘みたいに、今は剥がれ落ちてきている―――そして、私達異世界人ですら攻略出来なかったあのダンジョンを攻略したんだよぉ~? そりゃあ私達は君に目を付けるに決まってるじゃ~ん!」


え? どういうことだ? 元々の知り合いで、こういう流れになったんじゃないのか? ギルドと契約を結んだり色々と―――


「おまけに、何よりも…彼と関わった者は誰もが”現実”に疑問を持ち始めているんだよねぇ~。 貴方と貴女と君と!」

「「「い、言われてみれば…」」」

「まぁ、実は――それもこれもカイネちゃんのお陰なんだけどね」

「「「ほぅ?」」」

「うん、彼女が君に! 興味を持ち始めた事はいいとして! 正直異端者だかといってぇ~パッとしない顔だし?」

「「「うんうん」」」


おい。


「そこまで優しい! って性格でもない」

「「「うんうん!」」」


おーーい。


「これといってそんなに魅力的だとは思わないんだよねぇ~」

「「「うんうんうん!」」」


お前らは後でぶん殴る!


「けど、君と関わり始めてから”色んな事に”疑問を持ち始めた。 異世界の事、レベルの事、モンスターにダンジョンの事! そこからなんていうかぁ~封印されてた記憶が蘇ったんだよね! これは大発見だよっ! そして、極め付けはこれだ―――君と関わった存在は”何かに絶対に巻き込まれる”」

「ま、巻き込まれる!?」

「そう、まるで私達を排除しようとダンジョン内がおかしくなるの~! そこで確信したねぇ~…この世界と私達の世界。 相当やばくな~いって? あはははは!!!」

「「「笑ってる場合か…」」」

「まじそれ」


俺はそれだけしか言う事が出来なかった。 

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