第23話 来訪者

結局、昨日の夜―――家族が帰って来る事はなかった。

と悲しい事の様に言っているが…実際はダンジョン内部からの映像でそれはもう楽しそうな動画が届いたので俺は”がんばれ”とだけ伝えておいた。


ん? なんでダンジョン内から動画なんて送信できるんだって?

それは”Z”にある特殊な能力のせいだろう、普通であればこちらに干渉を遮断され電子機器など意味をなさないダンジョン内であっても”こちら側”つまり俺個人に当てた電子メールやデータ送信はZを介する事で可能となっている。


だからこそ、心配はなくこっちも気軽に出来るというものだ…まぁ昨日彼女にそれを話したのは間違いだと思った。

更に驚くべき事、そう…誰かさんのお陰で新たる事実が発覚したのだ。


『おいおい、こりゃすげぇぞ!! この番号にかけたら本当に出来たぞ! ほれ!!』


といい、声の主は俺にある映像を見せる。


「すげぇ、まじでダンジョン内の人間と”通話”出来てるのか?」

『半信半疑だったが、こりゃ相当やべぇぞ!? そうだな…もうちょっと実力が付いたらアレを頼めるかもしれねぇ…』

「おい…いまなんかよからぬ事を考えてるだろう!?」

『え? はぁ!? そんな訳ないだろう、気にすんな!』


相変わらず嘘が付けない人間というか、嘘が下手な女である。

それみたことか!! テレビ電話の画面が動揺で震えまくってるぞ!!


「まぁいいや…試したい事は試せたし。 切るぞ~」

『まぁ、待て!! そのなんだ? 武器の手入れをしながらでいい、し…折角だ!! 俺がダンジョンについて! 実技を交えながら! レクチャーしてやろう!』

「あ~はいはい。 わかったわかった。 さては…今日は一人だから構ってほしいんだろ?」

『はぁ!? んな訳ねぇだろ!! いいから黙って聞いとけ!!』

「うぃ~」



そこから結局、カイネがダンジョンを出る寸前までテレビ電話を繋ぎっぱなしだった俺はなんだかんだで気付けばお昼を過ぎていた。

なんというか、うちの家族共家族共で早朝から動画を送ってきたり…カイネはカイネで朝っぱらからメッセージを飛ばしてきたりで。

なんだかんだ家族とカイネは似たようなものがあるのかもしれない――――


「ふぁ~~~ねみぃ。 Z? 特に兵装に異常は無さそうか?」

『はい。 動作は良好です―――どうやらこちらも依然と同じく―――基本的なメンテナンスは自動で行われるようです』

「って事は、こっちは動作確認してやればいいだけか」

『そうなります』

「そうか。 んじゃま、出前でも頼んでおいてくれ。 Z…そうだな、俺の気分で」

『承知致しました』


後言える事があるとすれば、Zに備え付けられた標準機能が便利過ぎてどう化してしまいそうだという点だろう。

出前や携帯端末の自動送信はなんのその、今回の出前の注文さえも俺の施行を読み取り最適解を道びだすというもはやオーバーテクノロジー。


「結局使っちまうんだよな…これ…」


チュートリアル当初からZの機能に頼る事が多かったせいか、困ったときには常にZに何か頼んでいる様な気がする。

いや、そういう身体になってしまったといえばいいのか――――


「便利機能恐るべし!!」


それから暫くしての事である。

ピンポーン!

インターホンの音を確認した俺は、玄関へ向かう


「はーい!」


……おかしいな。 声がしない、出前であれば名乗る筈だよな?


「Z…」

『問題ありません。 来客の様です』

「ら、来客? 誰が? また、カイネか?」

『いえ、違います』

「違う? じゃ…誰だ―――まぁいいか」


ガチャ。


「はーい…どちら様……」


目の前の人物を見て、思わず俺は言葉を失った。


「その、久しぶりだね。 創輔…」

「真奈…なんでおまえが…」


以前にも増してかなり大人びた容姿に変化を遂げていた”元幼馴染”の姿を見れ俺は固まった。

彼女の名は”龍炎寺 真奈りゅうえんじ まな”幼少の頃から俺と苦楽を共にし―――そして俺があの時突き放した存在だ。


それよりも何よりも、俺は更に驚くべき事実を知る事となる。

まるで軍隊の服装、更には見ただけでも理解できる豪華な装飾―――極めつけは目立つような盾のシンボルだ。

あれは大手ギルド”ブレイバー”の紋章である。


「よかった。 ちゃんと生きてた。 久しぶりだね、創輔」

「………」


あれだけ俺が突き放しても尚、お前はまだ俺にそんな態度で接するのかと呆れる自分が居た。


「はぁ…なんだ? 何かようか?」

「えっと。 その…優香ちゃんにこれを渡しに来たんだけど」


そういうと、真奈は懐から何かを取り出すと俺に手渡してきた。

なんだこれ? アイテムBOX? なんでこんなもんを―――


「そ、それね? ブレイバーに居た時の優香ちゃんが持ってたアイテムBOXなの。 わけあって持ち出す前に出て行っちゃったから。 それで…その…届けに来たんだ」

「そうか。 んじゃ受け取――――」


ガシッ!

アイテムBOXを受け取ろうと手を伸ばした俺の腕を掴む真奈。


「っ…なんだよ?」

「今更だよね、ごめんなさい。 どんな面して来てんだって…私も思ってる。 けど、けどね―――次は」

「おい、何してんだ? 私の家で阿婆擦れ?」


突然の事であった。 いつもとは様子の違う妹が真奈の背中を掴むと思いっきり真奈を蹴飛ばした。


「きゃっ!!」

「あ、おい!」

「お兄ちゃん。 こんな奴、放っておいてお昼ご飯にしよ!」

「ま、真奈ちゃん…」

「気安く呼ぶな? お前なんて知らない、出ていけ!!」


今まで聞いたことのない様な声量で妹は真奈を怒鳴る。  


「…っ…わ、私は…」

「もう来ないで下さい。 お願いします―――もう、お兄ちゃんを困らせないで? お願いだから…」

「……っ……」

「お、おい…」



何も言うことは無く、真奈は俺に背を向けると何処かへ言ってしまった。


トンッ。


「ごめん、お兄ちゃん。 ちょっとだけこうさせて」


俺の胸に顔を埋めた優香は静かに目を閉じた。

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