第22話 進撃の家族

今日は身体を休める為に昼頃までぐっすり眠っていた俺は、携帯端末で昼食を頼んだ後…リビングのテレビを付ける。


『あの、伝説の冒険者達が復帰!? 現在、Bランク最難関とされたダンジョン”黄昏”にあの3人の冒険者が現れました!! 一人は若干17歳という年齢ながらに大手ギルド”ブレイバー”の副ギルドマスター候補と呼ばれた人物です! 彼女は突然とギルドを辞め、消息が断たれていましたが…驚きました」


へぇ~…17歳の少女という事は妹と同じ年齢なのだろうか?

それもあのギルドランキング1位とされた”ブレイバー”の副ギルドマスター候補とはこれは凄い事だ。


『そして、驚くべきことはまだまだあります! そう―――2年という月日の間で彼らの名を聞く事はありませんでした。 伝説の受付嬢”遥樺”とSランク冒険者候補と呼ばれた男”壮馬”。 あのコンビが帰って来たのです!』


遥樺に壮馬…どこかで聞き覚えのある名前だ。


『さらにさらにさらに!!! 驚くべき事はこれだけではありません――――なんと少女とあの二人は”家族”だったのです! 見て下さい!! 今、まさにあの誰もが侵入をこまねいた”黄昏”に侵入しようとする人影があります!!』 

「ぶふっ!!!!」


俺はテレビの映像を見て思わず飲んでいたお茶を吹き出してしまった。


「え? え? え? え? え!?」

『不死川ファミリー…いいえ、新クラン”スチールハート”が今まさに!! 新たな門出を迎えようとしているのです!! きゃぁ~!! カッコいい~遥樺様ぁぁx!!!』

「…え? まじで?」


周りのギャラリーの反応から察するに尋常じゃない事が解る。

男は優香を見て盛り上がり、女は親父を見て黄色い声援を飛ばす―――おまけにニュースキャスターは母さんにくぎ付けだ。


ピンポーン!

すると俺の家のチャイムが鳴った。


「なんだ!? ま、まさかもう誰かが嗅ぎ付けて!?」


慌てて玄関の方を見た俺は、扉の前にたった人物を確認するとゆっくりと玄関の扉を開いた。


「よ、よぉ…」

「なんだ。 カイネか…」

「なんだとなんだ!! ニュースを見て、んで…お前の反応やら色々心配してだなぁ!? ここまで来てやったんだろう!?」

「心配?」

「どうせ…お前の事だ。 あの三人がどれだけやべぇかわかってねぇんだろ?」

「ん? やばい?」


俺の反応を見たカイネは「やっぱりな」とだけ言うと、首を横に振っていた。


「なんだよ?」

「とりあえず邪魔するぞ」

「ん? あ、あぁ…」



―――――――――――――――――――――――――


そして…


「はぁ!? な、なんだよ!? じゃあ、あの三人はわざとBランクで留まってるって事なのか!? 冒険者組合がそれを許すってのか!?」

「いいか…創輔、レジェンドモンスターを狩った冒険者には莫大な富と名誉が与えられる。 だからこそ、冒険者組合の法律が適応されないんだ―――例えば、あいつらがBランク以上の冒険者に”なりたくない”と言えば、それがまかり通っちまうんだよ」

「んな、無茶苦茶な!」

「無茶苦茶だろうがなんだろうが…成立しちまうんだ。 レジェンドモンスターを狩った者ってのはそれだけの価値がある。 だからこそ、お前は現にそのヘンテコな力を持っているのにもかかわらず。 冒険者組合の監視が付かない訳だ」


まるであの三人が何かよからぬ事をしている様な言い方だ。


「ど、どういう事だ?」

「まぁ、ぶっちゃけて言っちまうが普通はな? 異端者には冒険者組合から監視が付けられるんだ。 だからお前みたいに自由に生きるって選択はほぼ無に近しい」

「まじかよ…」

「だが、お前の場合は別だ。 あのやべぇ三人の肉親であり、お前に手を出して雲隠れでもされてみろ? …冒険者も”力”を失っちまったら意味がねぇ。 たかが3人って思ったろ? 違うぞ? レジェンドモンスターを狩った3人ってのはな。 全ての冒険者のシンボルになるんだ」


つまり腫物っといても過言ではないという訳か…触れぬが吉…さらわぬ神になんとやら。


「そ、そんなにやべぇのかよ…あの3人」

「あぁ。 ギルドに入ってたのも、”あいつら”は仮契約していただけだ。 だってそうだろう? それだけ力があったらパーティーなんて組んだ方が損だし…アレらは簡単に他人を信用しねぇ。 悪さしようもんなら、こうだ―――」


カイネは自分の首を斬る様な素振りを見せ、そう説明する。


「えぇ…」

「まぁ、ちょっとばかり冗談だ! あいつらに手を出す様な連中は早々いねぇ。 だが、俺がここまで来たのはお前についてだ!」

「俺?」

「そうだ。 少ならからず、あの3人は注目や脚光を浴びている。 だからこそ、恨みつらみや負の感情を抱く者も少なくない。 いくら俺らの後ろ盾があったって限度がある。 だからこそ、そういう目を向けられることもある――――それだけは覚えておけってお節介だ」 

「そうだよな…わかった、ありがとう」

「気にすんなっ…」


ほんのり頬が赤い気もするが、彼女がまさかそれだけを言いにここまでやってくるとは…余程心配されているのかもしれないな。


「この後時間あるなら、飯でも食ってくか?」

「お、おぉ…そうする」


なんだか俺まで照れくさくなってきた。

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