ログイン35 光の行く先を遮るもの

 キィィィン⋯⋯ !!


 金属と他の硬い物質が衝突し合うことにより発生する金属音。思わず耳を手で塞ぎたくなってしまうようなそれが、音の発生源に近い位置に立っていた人から順に襲いかかる。まずは、発生源に近いと言うより、音を鳴らした金属を握っていたヒール。続いて、チェムと言ったように。音の伝播速度は、この大通りの中では遮る物質がないためか。速度を落とすことなく周囲にいた人々の鼓膜を震わせながら進行していった。


もちろん、ザキナと彼の動きに制限をかけているリーダー格の男にも。それらの音を聞くことに、誰の不自由もない。ただ、その場にいた人々全員に平等に音が降り注いだ。


「馬鹿が⋯⋯ 。なんのために打ち合わせをしたと思っているんだよ?」


「レオニカ様!!」


 ザキナの声が、降り注ぐ金属音をかき消しながら大通りの中を突き進む。自分の喉元に剣を突きつけられていることを、忘れてしまったような振る舞い。大声を出す際に少し前のめりになってしまったのだろう。先程まで肌色をのぞかせていた肌色の場所に、赤色の一線が滴り落ちようとしていた。


「おい、この筋肉馬鹿!! リーダーの話を聞いてなかったのですか!? 今、神の遣い人を殺して私たちに何の得があるのですか! 私たちの二年を! 無駄にするつもりですか!?」


 チェムが高ぶる感情剥き出しで、ヒールに詰め寄る。すでに、舞い上がった埃による灰色の視界は、腫れかけていたためかヒールが立っている場所はすぐに視認することができた。


動く事のない筋肉質の背中。ヒールも今頃になって、やってしまった行為に対して後悔しているのだろうか。しかし、後悔しても遅いのだ。一度取ってしまった選択は、元々あった形に戻ることはできないのだから。


「神の遣い人は生きていますか? まぁ、あなたの剣速と威力で切りつけられたら、無事では済まないとは思いますが」


「——っ」


「うん? 何か言いましたか?」


 灰色の世界が突如として吹き抜ける風によって、一気に色を取り戻していく。赤い夕日、光る街灯の青白い光、そして大通りに伸びる。高らかと伸びる人影は、確かにそこで立っている人の数を表していた。という形で。


「逃げ——」


 ヒールが振り下ろした大剣は、音すら切る速度で空を切った。もちろん、その奥に立ち尽くす礼央の命を狙って、だ。だが、彼の剣は礼央の命に届くことはなかった。それどころか、礼央の身体に触れることすら叶わなかった。


「よし、これであと一人だな。さっさとやって、早くザキナを解放してやらねーとな」


「ヒール!!??」


 いつも肌身離さず持ち歩いていたヒールの愛剣が、今では誰の手にも触れる事なく大通りの地面に転がり落ちている。光を反射するほど丁寧に整えられた銀色の光沢が、辺りの降り注ぐ光を全て反射させていた。


その中の一つの光。一番強く伸びる光の先に、一人の男が倒れ込んでいた。光の行く先を、山のように盛り上がる筋肉で遮りながら。



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位置情報ゲーム世界ランカー1位が、ゲームの世界に!?『1km歩くたび100,000経験値』の追加ボーナスは、彼にとっては余裕すぎる! 卵君 @tamago-re

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