ログイン34 死ね!? 神の遣い人よ

「あ? 実戦だと? なんでこんな場所で俺が戦わなきゃいけなんだよ」


「お主の判断など聞いてはおらぬ。準備は済んでいるな、ヒール。そして、チェム」


「当然だぜ!!」 「問題ないです」


 礼央の話など、リーダー格の男以外の彼らには届いてすらいないようだ。リーダーの男の声だけが、彼らの鼓膜を震わせるような仕組みにでもなっているとでも言うのだろうか。そんなはずがないと思いながらも、礼央は無意識の内に、その考えで頭が支配されてしまっている自分がいることに気づいていた。


「かかれ、憂さ晴らしも兼ねてな!」


「おおう!!!!」


 開戦の合図が出るや否や、まず先陣を切ったのは筋肉質が特徴の男。目にも止まらぬ速さで背中に突き刺された大剣を抜き去ると、持ち前の筋力をフルに活かして地面を蹴り上げた。瞬間、発生するのは周りの空気をも吹き飛ばすほどの衝撃波。視認するのが困難な大通りに堆積していた微小の埃が、なす術もなくそれに釣られて空気中に舞い上がった。


「ははっ!! 神の遣い人様は、こんなに埃っぽい通りを歩いたことがないんじゃないのか!!?? ちゃんと清掃されて、チリ一つない清潔な場所しか知らないんだろう!!」


 視界が僅かに白色を含む灰色で埋め尽くされていく。同時に、巻き上げられた埃達が行き場を求めるように、礼央の目に侵入しようと試みてくる。目を細めても、間隙を縫うように前進を止めることはない。次第にこみ上げてくる強烈な痛みと、溢れ出る涙。しばらくの間は目の前の男から目を逸らすことはなかったが、赤みを帯びる瞳に耐えきることができず、ついに礼央は瞼を閉ざし、目の前を漆黒に染め上げた。


「閉ざしたな!! 戦闘中においてそれは、死へと直結する事象だぞ!!」


 唾を口から盛大に吹き飛ばしながら、咆哮を上げるヒール。彼は、間髪を容れず再度強く地面を蹴り付けると、加速を強め礼央との距離を一気に縮めた。もちろん、大剣を背中の後方方向まで振りかぶりながらだ。


「ちょっと! ヒール、そこまでやってしまうと!!!」


「ははは!! 死ね!!! 神の遣い人よ!!!!!」


 ヒールの表情に浮かぶのは、剣を振り下ろすことによる躊躇いではない。人の身体を斬りつけることができる快楽から生まれる快感だ。その証拠に、彼の口元は口角をこれほどまでかと言うほど上がり、不敵な笑みが垣間見えた。


 ブゥォォン!!!!!!


 大剣の重さに相まって、重量感のある音を鳴り響かせる。そして、灰色に染まった視界に亀裂を生み出すのであった。

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