第2話 VR世界での出合い

気がつくと俺は東京スカイツリー駅の改札に立っていた。


上を見上げると天まで貫きそうなシルバーの槍の様な塔がライトアップされている。


帰ってきたんだ。

一瞬、感傷的になってしまったが約束の時間も迫っている。

俺はエスカレーターを上がってエレベーターホールへと向かった。

ソラマチでは楽しそうに買い物をする人々が・・・

“これってリアルに存在する人?こんなに利用者いっぱい居るの?”

エレベーターの順番待ちしながらそんな事を考えてしまった。


3分位待って俺の順番がまわって来た。

エレベーターに乗り込み、扉が閉まる。

上昇するGを身体に感じた。

俺はVRの世界のリアル感に少し驚いた。

展望フロアに到着し扉が開くと、どこからか淡いコーヒーの香りが・・・


俺は眼下に拡がる街並みの灯りと星空を見ながら、カフェに雪乃が居ないか探した。

まだ来ていない様なので、コーヒーを注文してぼんやり外を眺めていると・・・


「あの・・・? お一人ですか? もし良かったら一緒にお話ししませんか?」

不意に女性から声をかけられた。


エッ、ナンパ?

「スイマセン、待ちあわせしている人が居るので・・・」

と応えると


「そうですか、残念です。」

と離れて行った。


リアルよりもVRの方が安全だから女性から声をかけやすいという事なのか?

それとも、アプリ内のイベント?

意表をつかれイロイロ考えてしまった。


「あの? お一人ですか? 一緒にお話ししませんか?」

後ろからもう一度声をかけられた。


俺は・・・ またかと思って振り返った。

でも、そこに居たのは雪乃だった。

あまりにもビックリして不覚にも俺は涙をながしてしまった。


「何? そんなにビックリした? 嬉しかったの?」


「いやいや、あまりにも久しぶりな気がして・・・」


雪乃は俺の隣に座り一緒に夜景を眺めた。


「久しぶりだね。私も久々に会えて嬉しいよ。」

そういうと俺の肩に雪乃は頭を載せてきた。

彼女のシャンプーの香りがほのかに届いた。

「今日は月が綺麗ですね。」


雪乃の目にも月が写ってキラキラ輝いていた。


俺は雪乃の目を見つめながら

「ほんとうに月が綺麗だね。」

ってかえしたら・・・


「ふふふ どこ見てるの?」


「雪乃の目に月が写ってる。」


本当に他愛ない事なのに雪乃と一緒に居るだけで嬉しくて楽しかった。


「遠距離になってごめんね。離れ離れになっても俺を選んでくれてありがとう。」


「これからはこうして会う事が出来るから気にしないでいいよ。」


「でも、雪乃はなんで俺を選んでくれたの?」


「それはね・・・ 小4の頃私、上級生の子にいじめられていた事あったでしょ。」


「そんな事あったね。」


「その時翔くん私を庇ってくれたよね?」


「そんな事あったね。」


「翔くんなんて言ったか覚えてる?」


「必死になって助けようとした事は覚えているんだけど・・・」


「翔くんはね『雪乃は僕、いや僕達の女神様なんだ。僕達の女神様を泣かせるヤツは絶対に許さない。死んでも守ってやる。』って・・・」


「俺、そんな事言ったんだ。なんだか恥ずかしいな。」


「その後、ポカポカ殴られちゃて・・・ でも、最後に『雪乃、大丈夫だった?怪我してない?』って・・・」


「最後はカッコ悪かったよね?」


「私、翔くんのまっすぐなところにジンときちゃた。そして、翔くんのそばに一生居たいと思っちゃた。」


「えっ? こんな俺のそばに一生居たいと思ってくれたの?」


「そうよ〜 だから翔くんと離れたくない。」


夢の様な時間だった。

気がつけばアプリにログインして2時間が過ぎていて・・・


「それじゃ また明日ね。」


時間が二人を引き裂いていった。


VRゴーグルを外し暫く俺は余韻に浸っていた。

やがて心地よい眠気に襲われ・・・

今日はいい夢が見られそうな気がした。

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