第18話  作曲家

「契約出来ました」


 いったん外に出てもらった人たちを病室に戻し、伝えた。


 マネージャーの目が泳いでいる。


「最後のギャラは、まだ彼女に渡ってなかったらしいですね。それを渡してもらいましょう」


「いや、それは。華菜の口から直接きかないと」


「それは、難しいですが、彼女と本当に契約を結んだ証拠として、華菜さんとあなたしか知らない事実をお話するというのは、どうですか?」


「どういう事ですか?」


「まだ、十代前半でしたよね」


 マネージャーは、肩をがっくりと落とした。


「分かりました。お支払いします」


「現金で、お願いします。ところで、彼女に歌のレッスンをした方は、どなたですか?」


 マネージャーは、まっ青になり、逃げるように部屋を出て行った。


 その場にいた、彼女の友人が、教えてくれた。


 根津忠ねずただし


 僕でも知っている有名な作曲家だ。


 翌日、病院経由で呼び出されたのは、華菜のマンションだった。


 マネージャーと根津が、待っていた。


「このマンションは、マネージャーのものでは、ありませんね」


「鍵は、渡されているので」


「だから勝手に入っても良いのですか?」


 彼らの考えは、分かっている。僕が、どこまで知っているのかを聞きたいのだろう。


「金が目的か?」


 とても美しい曲を作る、ヒットメーカーから、初めて聞く言葉としては、いただけない。


 品の良い見た目と柔らかい物腰。


 どうやらテレビのイメージとは、ずいぶん違う男のようだ。


「僕は、ただのタクシー運転手です。じゅうぶんな報酬を頂いていますので、お金のほうは、苦労していません」


 苦虫をかみつぶしたような顔というのを根津で、初めて見た。

 面白いので、もうひと押ししてみた。


「あなたが、ロリコンの変態で、犯罪者でも、それは僕自身に関係ありません。お客様を目的地にお送りするのが仕事で、犯罪者逮捕は、仕事ではありません」


「やっぱり華菜に、手を出していたのね」


 どうやらマネージャーは、信じたくなかったらしい。





 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る