第17話  悪魔

 夏の太陽が照りつける、コバルトブルーの海と真っ白な砂。


 笑顔で走る彼女は、とても眩しい。


 グラビア撮影で、訪れた海がよほど気に入ったのだろう。彼女の中に鮮明に記憶されている。


 さらに、深く。


 映画のシーンだ。これは、僕自身観たので直ぐに分かった。彼女の人気を決定付けたものだ。


 さらに、深く。

 妙に順調に、入っていける。自身の内側を見せるのだから、もう少し抵抗があっても仕方ないと思っていたが。


 歌を歌っている。しかし、周囲が、とても色褪せている。


 彼女は、歌が嫌いなのか?


 さらに、深く。


 歌のレッスンだ。デビュー前か?かなり厳しいのだろう。泣いている幼い彼女がいる。


 僕は、彼女の心のこの深さに、降りたった。


 彼女に近づこうと、踏み出した時、初めて気づいた。


 ピアノを弾きながら教えている男に、尾がある。

 気持ち悪くうねる尾が、まだ幼い彼女の身体をもてあそぶ。


 彼女の心の中の彼女に触れてみた。そのまま内側に入り込む。

 強い抵抗がある。しかし、死神の力は、それを許さなかった。

 

 入った。


 思わず目を背ける。


 彼女の心の中なので、イメージには違いないが、うねる尾と、耳まで裂けた口、テラテラ光る黒い悪魔に、犯され、むさぼり食われていた。


 彼女は、このイメージと戦うために、残り少ない気力を絞り出しながら、明るく笑っていたらしい。


 彼女の自殺は、気力を全て吐き出し、心の中が、空っぽになったということか。


 彼女の心の表層に戻ってきた僕は、気持ち悪くうねる尾を持つそいつを破壊した。


 虚ろな目をした華菜が、こちらを向いた。


「僕は、極楽タクシーの運転手です。契約書にサインを下さい。責任を持って極楽門までお連れします」


「私、自殺してしまいました。たぶん地獄行きです」


「関係ありません。どんな方でも契約していただければ、極楽門までお連れします」


「極楽に行けば、全て忘れられるかしら」


「あなたの心は美しい。そして、まだ幼いあなたをだまし、汚された肉体は、もうすぐ、無くなります」


「あの時の事を思い出すのは、とても辛い」


 彼女と契約を交わした。



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