第19話  ナイフ

 薄々感じてはいたが、信じたくなかったというところか。


 恋人かな?面白いので、さらに、もうひと押ししてみるか。


「彼女のレッスン中ですよね。デビュー前かな?まだ、あどけない顔をしていましたね。窓が近くにあったので、彼女の表情よくわかりましたよ。あれは、信じていた人間に裏切られた絶望と恐怖ですね」


 根津の手に、ナイフが光った。


「慣れない事は、やめた方が、よいですよ」


 そう言ったが、次の瞬間刺されていたのは、根津だった。


 マネージャーが、身体ごと飛び込み、彼女の持っていたナイフで、根津を刺したのだ。


 もちろん、飛び込んだ勢いで、根津の持ったナイフが彼女の腹部にも突き刺さった。



 何日か後に、読んだ芸能記事に、彼らは、長く内縁関係だと書かれていた。


 鳴かず飛ばずだった根津が、現在のマネージャー、紀美子が見つけてきた華菜をプロデュースした。それをきっかけに、彼の名前も売れたらしい。


 華菜からすれば、いちばんの恩人であり、最も憎むべき相手だったというわけだ。


 マネージャーの紀美子さんは、気づいていながら、気づかないふりをしていた。


 しかし、僕の言葉をきっかけに、長年歪んでいた心が、弾けてしまったようだ。

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