第30話 勝ち組人生(レイシャ)
あたしの生まれはスラムだった。
母が子供を捨てて男と一緒に他の街に行く。
そんなのは掃いて捨てるほど居る世界で、あたしが身体を売るのはごく自然な流れだった。
見目だけは良かったのが救いで男はすぐに寄ってきた。
そこで出会ったのがあたしのパパ。
パパはあたしを実の娘の様に可愛がってくれて、第二子として愛情を注いでくれた。
あたしには姉がいる。
レーシャ。その業界では知らぬものが居ないほどの大物で、生まれも良ければこんなにも世界が違うのだと羨ましがる。
実際にその姉とあたしはそっくりで、きっとあたしを引き取ってくれた理由もそこに起因するのかもしれないとパパを疑った。
「姉さん、次のファッションショー、あたしも連れてって」
「ダメに決まってんでしょ。いくら顔が似てたってハートまでは同じじゃないんだし。人前に出て圧に飲まれず自分を出せるの?」
「そんなの、やってみなきゃわかんないじゃない」
「無理なものは無理よ。ドレス貸してあげるから、今はそれで我慢してちょうだい」
駄々をこねる妹に接する様に、姉は私がモデルになることを心良く思っていなかった。
だから黙ってついて行く。
そこであたしは一人の男と出会った。
ハルクと名乗った男は、デビューした時からのレーシャのファンで、なのに顔が似てて同じドレスを着てるからってあたしをレーシャと間違えていたみたい。
本当はすぐに別人だと本当の事を言おうと思っていた。
でも彼があんまりにも持ち上げるもんだからいい気になってしまった。
たった一日くらいいいよね?
それぐらいあたしにとってチヤホヤされるのは新鮮で、有頂天になっていた。
ハルクとの時間は夢の様だった。
姉のふりをしたのは気が引けたけど、それでも気が付かない相手が悪いのだ。
悪いのは自分じゃないと思い込めば、自然と気が大きくなって、いつしかあたしこそが本物のレーシャだと嘘をつく様になった。
パパに頼み込んで姉の代役を務める。
姉は自分がどれほど恵まれた環境にいるのかわかってない。
自分勝手な主張をして、周囲に迷惑をかけるのが当たり前で。
あたしはそれが許せなくて。
だからあたしがレーシャになってあげた。
感謝して欲しいくらいよね。
パパの会社に迷惑をかけてまで好き勝手に世捨て人になるなんて馬鹿としか言いようがない。
デザイナーが引退したから何?
だからってモデルになんの不都合があるの?
そう言うのを自意識過剰って言うのよ。
姉はそんな風に述べるあたしを意に介さずに小さな会社を始めた。モデルをやっていた頃に比べれば取るに足らない小さな稼ぎ。
本当、裕福な生まれの女はおめでたくて頭にくるわ。
せっかく稼げる美貌があるのにそれを捨てるなんて馬鹿としか言いようがない。
でもあたしはうまくやる。
パパもあたしを本当の娘の様に扱ってくれた。
もう怖いものなんてない。
いつも食事をご馳走してくれるハルクもあたしの告白に答えを出してくれた。
体の付き合いもあって、父親が誰かも分からないのに妊娠しただけで前のめりになって責任を取るって、そう言ってくれた。
妻を捨ててあたしの元に馳せ参じると。
まるで自分がお姫様になった様に浮かれている。
あたしの目の前には薔薇色の楽園が広がってると。
この時は信じて疑わなかった。
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