第27話
私が放心状態なのを良いことに夫だった男はさらに捲し立てる。
「自分だけが裏切られたみたいにいうけどさ、最初に俺を裏切ったのはマナリィだよね?」
「なんのこと?」
「俺、子供ずっと欲しいって言ってたよな?」
「聞いていたわ。でも神様からの授かりものよ。欲しいからとできる物でもないのよ?」
「すぐ言い訳するけどさ、本当に子供ができる様な努力をしてたのか?」
「してたわよ。頑なにハルクが病院に行きたがらないから頓挫しただけで。私の母体は健康よ。なんの問題もないわ」
「そうやって、だから俺の方に問題がるって決めつけてるもんな、マナリィは」
「そうは言ってないけど、検査ぐらいは協力してくれたって良いじゃない。夫婦ってそう言うものよ?」
「もう夫婦じゃないけどな」
「了承してないわ」
「もう決定事項だから。それに俺は俺の子供を産んでくれる人と結婚する事にしたから」
「はぁ?」
今まで散々私の世話になっておきながら、誰かを妊娠させたから私を捨ててその人のところに行く?
馬鹿にしないで。
いくら夫だからって、いくらわたしから告白したからって。
そこまでされる謂れはない。
「相手は誰よ!」
「レーシャさん」
「どうして?」
「ようやく俺に靡いてくれたんだ。俺の思いが届いた。俺はそれに全力で答えなきゃいけない」
「だから、私を捨てるの? 私の私物まで売り払って手に入れたお金で自分だけが幸せになるつもり!?」
「語弊があるな。俺は過去を清算するんだ。マナリィと結婚したことは俺にとって大きな誤差だった。磨けば光る原石だった俺を拾い上げて磨いてくれたことには感謝してる。でも夫婦ごっこはもう良いだろ? マナリィの願いは叶えてやったんだ。五年間、良き夫を演じてやった。感謝されこそすれ、そんな風に責め立てられるのはお門違いだ」
本当に、本当に。
こんな人のどこを好きになったのか。
こんな男のどこに私を幸せにしてくれる要素があったのか。
当時の見る目のない私を殴り倒したくなる。
もう我慢の限界だ。
私の怒りに呼応する様に、雲ひとつない青天の霹靂にはいつしか雨雲が広がっていて、
落雷が近くに落ちた。
ゴロゴロと雲が唸りを上げて、外に干した洗濯物には雨水が打ち付けられていた。
「だったら好きにすればいいじゃない! 勝手にして!」
私は着のみ着のまま外へ飛び出した。
打ちつける雨は私の心を削ぎ落とす様に衣服を濡らし、濡れ鼠となる私の姿は親しい人には絶対に見せられない格好になる。
そんな事が気にならなくなるくらいに走った。
走って、走り続けて。
そして、疲れ果ててその場に蹲る。
濡れ鼠なのを良いことに泣きじゃくり、そんな私に声をかける人なんていないまま数時間が過ぎた。
世界は回る。
私なんかが居なくたって回っていく。
こんな苦しい世界で生きていくのなら、もう……楽になりたい。死んでしまった方が案外幸せなのかもしれないと、何も考えられない頭で結論を出して、
私はいつしか路地裏で寝こけてしまっていた。
未だ雨は止む様子を見せず、その光景は私の今後を照らしているかの様だった。
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