第12話
ことの真相を確かめるべく、意を決してマナリィはレイシャに相談を持ちかけることにした。
もし浮気相手がレイシャだとして、本人がそれを認めても認めなくても、マナリィは縁を切るつもりでいた。
待ち合わせ場所は家からほど近い喫茶店。
ここでは紅茶の他にサンドイッチなどの軽食が食べられる。
ちょうど食事時なのもあり、ここで空腹を満たしてしまおうという心算である。
そして、
「久しぶりね、マナリィ。あんたから相談持ちかけてくるなんて珍しいじゃない」
久々の邂逅。
だというのにレイシャと思われる女性の出立ちを見てマナリィは目を瞬かせた。
一瞬、誰? と思ってしまう程の変わりよう。
そこに居たのは一年前までの輝かしい姿のレイシャは見る影もなく、地味な洋服に身を包んだ女性がいた。
ボサボサの髪は何日も洗ってないかのようにキシんでおり、肌もどこか荒れている。
サングラスの奥に隠れた瞳は今も尚ギラギラしてるけど、それ以外が当時とあまりにもかけ離れている。
「何よ、ボケッとしちゃって」
「レイシャさん!? その格好は……」
「ああ、コレ? あんた意外のドレスに袖を通すのは嫌だって仕事突っぱねてたら父さんからモデル業を首にされちゃったのよ。でもあたしは後悔してないわ。以前までならどんな衣装もあたしに着られるためにあるんだって信じて疑わなかったけど一度あんたのドレスを着ちゃうとね、もうダメなの。あんたのドレスが着たいのよ、あたしは。それで周囲に自慢するの、どう、あたしのデザイナーは凄いでしょって。そんな日を夢見て節約した生活してたらね、こんな風になってたわ。驚いた?」
一年前、結婚をキッカケにマナリィはレイシャから逃げるように姿を消したのにも関わらず、今でもこうして待っててくれていた事実に胸が痛んだ。
そんな誠実な彼女に対して、自分が疑惑を持っていた事実が嘆かわしい。
夫のハルクが浮気するのなら、今の彼女はあり得ない。
彼がいつも口にしてるのは、当時の輝かしいレイシャなのだから。
だから自分がひどい勘違いをしていたことを自覚して、マナリィはレイシャに謝り倒した。
「ごめんなさい、私のせいでそんな生活を送ってるとも知らずに」
「あんたが頭下げることじゃないわよ。あたしは好きでこの生活選んだんだもの。それよりそっちの悩みを聞かせなさいよ」
「実は──」
「そう……」
マナリィも真実を告げた。
夫に浮気されてるかもしれないこと。
その相手がレイシャかもしれない事。
夫婦生活がうまくいってない事を全て隠さずに伝えた。
レイシャは、一言頷いて黙り込む。
そしてマナリィをじっと見つめて、にこりと笑った。
その悪戯っぽい笑みは過去と変わらず。
同性でもくらりときてしまうほどの魅力を持っている。
「それは酷い目にあったわね。マナリィとしてはハルクの浮気を辞めさせたいのね?」
「……うん」
「ならあたしに良い考えがあるわ」
にこりと笑っていても、瞳の奥は全然笑っていなかった。
「この計画にはあんたの協力が必要不可欠。あたしも久しぶりに表に顔を出す必要ができた。もちろん協力してくれるわよね?」
「何をするの?」
「そりゃもちろん、あんたを徹底的に改造してやんのよ。浮気なんて考えられなくなるくらいに相手に惚れ込ませるの。そしたらあんたの平穏も帰ってくる。違う?」
「違わないけど、出来るかな?」
マナリィは自分の容姿に自信が持てずに今まできている。
レイシャからメイクを習っては見たものの、ハルクを射止める以外ではまるっきり役に立ってない。
そもそもが素朴な顔立ちであるからだ。
主婦業をしてたらとてもはないがメイクにかける時間なんてないのも災いした。
「出来るかどうかよりやるしかないのよ。そうね、取り敢えずは多少の羞恥心を捨てるところから始めましょ。忙しくなってきたわ」
ふっふっふと笑うレイシャは当時のまま、どこか近寄りがたいオーラを醸し出していた。
全てはマナリィの為だと言いながら自分も楽しんでいるのが見て取れる。
どうして自分は彼女を疑ってしまったんだろう。
こんなに良い人なのに、己の浅はかさが恥ずかしくなった。
「あの、程々にね?」
「何なまっちょろいこと言ってんのよ。あんたの為よ? スパルタで行くから」
「うぅ……」
俄然やる気を出すレイシャとの語らいで少し元気を出したマナリィ。
こうして夫再誘惑作戦で忙しい日々を送ることになるのだった。
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