第10話
マナリィはハルクとの新婚生活を楽しく送っていた。
商社マンであるハルクは仕事柄いろんな地方に足を運び、いろんな逸話をマナリィに聴かせてくれる。
ちょっとした蘊蓄だったりと話が尽きることはない。
会社をさっぱりと辞めて家のことに従事するマナリィ。
曰く付きの土地と欠陥住宅の家を格安で手に入れ、それなりに四苦八苦しながら暮らしている。
二人でお金を出し合ったけど、世帯主は夫のハルクの名前が記載された。マナリィは夫を立てる妻になることを望んでいるようだ。
幼少期にいつか見た夫婦のように、夫を支える妻になることがマナリィの願い。引いては幸せに続く道だと信じて疑わない。
ハルクは少しづつマナリィに甘えてくるようになった。
恋人時代に一度許した肉体関係。
子作りをする意味でも避けては通れない痛みをマナリィはずっと我慢してきている。
だが何度肌を重ねても、ハルクがマナリィの細枝のような体を労う事はなかった。
まるで娼婦でも抱くように性欲をマナリィの体に受け止めさせた。
その上で体力もないマナリィはすぐにダウンしてしまう。
分かっていたことだ。けれどそれが被害を受けたマナリィには申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
ハルクの少し物足りなさそうな顔がマナリィの胸を締め付ける。せっかく選んでもらったのに、満足させてあげられないことが悲しかった。
「ごめんなさい、すぐにダウンしてしまって」
「いや、俺の方こそごめん。マナリィの体力がないのは分かっているのに、無理をした」
悪びれもなく、後頭部をボリボリかくハルクに、マナリィはかける言葉を失った。
「それより飯にしようか。朝飯は何だ?」
昨晩から今の今まで行為を行なっていた相手に、ハルクは何処か話をすり替えるようにしてマナリィに笑いかける。
無論、#朝食__そんなもの__#は無い。
だがマナリィはそれでも頭を働かせて言葉を繋いだ。
「ごめんなさい、今から作るわ。あなたは少し寛いでて」
「悪いな。お疲れのところ」
「良いのよ、自分の仕事くらいこなせるわ」
疲れ切って力の入らぬ体を無理矢理起こして、体力の有り余ってる夫のために朝食を作る。
側から見れば家庭内暴力に見えるが、マナリィ本人が好きでやってることだ。
ハルクもそれが当たり前のように受け止めていた。
「うん、美味い。マナリィは料理が上手だな。やっぱり昔から得意だったとか?」
「そうでも無いわよ。覚えたのは最近だったりするの。近くに主婦の先輩達がいるから色々ご教授願ってるの」
ハルクにとって外で食べる飯よりも妻の飯が美味いのは良いことであった。外に回す出費が減り、自分のことに使えるようになるからだ。
「そっか。マナリィが裏で努力をしてるのを知らなかったよ。偉い偉い」
「これくらい普通だわ。それより外回りで頑張ってるハルクの方が大変だもの」
頭をポンポンとされると、羞恥心から逃げるようにマナリィは話題を変えた。嬉しすぎて動悸がするのを必死で隠そうとしていたのだ。
しかし問題はそこではない。
「まぁな」
ハルクはそのヨイショを悪びれずに受け止める。
そもそもこの婚約も恋人関係も全てハルクは受け手側なのだ。
勇気を振り絞ったのも、周囲に根回ししたのも全てマナリィ。
だから流されるままにハルクは勘違いしていく。
マナリィから受け取れる愛や奉仕は夫婦なら当たり前のものであると、そんな錯覚が少しづつハルクという人間を増長させていく。
ただでさえ裏で支える妻という役割に準じているマナリィ。
受け手であるハルクはそれを当たり前のものとし、出来ないとすぐに機嫌を悪くするようになった。
表面上は仲睦まじい夫婦ではある。
しかしこの小さな綻びがのちに後戻り出来ないほどの亀裂を産むとはこの時の二人は知る由もなかった。
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