第6話
レイシャとの付き合いはより濃密になり、それこそ親友と言い合える間柄になった。
それからしばらくしてマナリィにビビッとくる相手が見つかる。その相手は、勤務先の服飾店の取引相手であった。
そわそわし始める親友に、揶揄う様な視線を送るレイシャ。
相手を深く観察するも、特にこれといった特徴のない男だった。
しかし親友の初恋を無碍に扱うわけにもいかない。
見てくれは平凡でも、彼女の琴線に触れる何かがあったのだろうと応援してやった。
レイシャにとって例え取るに足らない有象無象であっても、マナリィには大事な相手なのだ。
親友というよりは不出来な娘を送り出す母親の気持ちである。
その親友に世話になりっぱなしなのはレイシャの方だが、変に頼ってくるのでお姉さんぶったりしてるだけであるのが実情ではあるが、それはひとまず思考の隅に置いておく。
「それであの人が意中の相手というわけね? 名前は知ってるの?」
「まだ。ただ一目見て、この人だ! って思っただけだもの」
「あたしが聞いてきてあげよっか?」
「それはダメ!」
強く否定するマナリィに、レイシャは初めて動揺を見せる。
こんな風に語気を強める彼女を目の当たりにするのは今まで付き合ってきた中でも初めてのことであった。
「ごめんなさい。自分でもよくわからないの。でもあの人の視界にレイシャさんを入れると負けそうな気がして……自分勝手な理由で本当にごめんなさい」
それは必死な弁明であった。
自分の方が数段劣ると自覚しているからこその我儘。
「別にとったりなんかしないわよ?」
「それでも、あの人の記憶に残ったら常に比べられてしまうもの。それは嫌なの」
それだけ勝ちたい勝負であるとマナリィの瞳が告げていた。
真剣なのだ。
レイシャは呆れる様にして肩を竦め、手のひらを上げる。
「で、お嬢様の勝率は?」
「……難しいところね」
ゴクリ、と吐息を飲み建物の影からひっそりと覗き込むまま二時間。
意中の相手の後ろ姿を見送りながらほぅ、ため息をつくマナリィ。
初めての恋心に揺れる親友を見物しているレイシャは珍獣を見守る気持ちであった。
(初々しいどころじゃないわよ、まったく)
同時に不安も募っていく。
今でこそ親友という間柄だけど、もし彼女がお付き合いを始めたら……マナリィを取られてしまうという焦燥感が同時に去来した。
応援してあげたい気持ちと、独占したい気持ちがレイシャの胸中でせめぎ合う。
(あたしって最低ね。心のどこかでこの恋が失敗すればいいのにって思ってる)
そんな自分勝手な感情を自覚してしまうのは、それだけマナリィに助けられてきているからだ。
普段着はほぼマナリィのお手製で埋め尽くされている。
一度袖を通せば分かる、その快適さ。
既製品は着用者の体格に合わせてまではくれない。
けどマナリィのは完全に自分の為のもの。
重労働の後にそのまま寝ちゃっても翌日服はシワになるが疲れは一切残らない。
それこそ体にフィットしているからまるで自分の肉体の一部の様に思ってしまうのだ。
そんな疲れを見せないレイシャは業界内でも注目を浴びつつある。
モデルなんて掃いて捨てるほどいる業界で、彼女がこうも輝けているのはひとえにマナリィのお陰なのだ。
彼女の手がけたドレスの数々はレイシャの日常を変えた。
健康状態の維持はもちろん、肌の活性化、化粧のノリも良い。
そのお陰で毎日が楽しいレイシャ。
それを教えてくれたマナリィを独占したいという気持ちが芽生えるのは至極当然だった。
それでも親友を泣かせたら許さないという気持ちで調査を始める。
後日マナリィの意中にしてるお相手の名前が判明する。
ハルク。
平民出身でまだ上京してきたばかりの田舎者。
商会に入ったばかりで外回りを任されている。
それくらいの情報は人を雇うまでもなく聞き耳を立てれば入ってくる。
マナリィのお相手には相応しくない。
そんな感想をこの時のレイシャは抱いていた。
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