第4話
反物を手に持って、マナリィは急ぎ自宅に向かった。
既にどの様に仕上げるかの考えをノートに書き込む為だ。
選んだカラーは深緑に紺、濃いオレンジだ。
合わせるのは技術がいるが、同じ素材なら縫い足すことが出来るとマナリィは予感していた。
実際に反物に鋏を通すのはレイシャの採寸が終わってからだ。
急に決まった案に、自分を信じて現物を買い与えてくれたレイシャ。その恩に報いる為にもマナリィは寝ずにアイディアを絞り出していた。
翌朝、体調不良で寝込む一歩手前まで疲労を見せるマナリィ。
普段から声を掛けられないのが幸いか。
メイクをすれば声くらいはかけて貰えるが、メイクする時間すら惜しいと思ったのが出社直前であっただけの事である。
唯一言葉を交わすレイシャだけがその疲弊っぷりを労った。
「朝から随分とお疲れね」
「ちょっと夢中になりすぎて寝てないんですよねー」
「きちんと寝なさい。睡眠不足は美容の天敵よ?」
「ふぁーい」
「欠伸しながら返事をしない!」
ぽこ、と優しくおでこを小突かれる。
その場所を労いながら、マナリィはそれでもレイシャを憎めない。そんなマナリィに、レイシャは聞いた。
「どうしてそんな無茶したのよ」
「レイシャさんに似合うシャツを考えてたら、いつの間にか朝になってたんです」
「そんなにあたしのために時間を割いてくれなくてもいいのに」
「そう言うわけには行きませんよ。これは私に任せてもらった仕事ですから!」
変なところで真面目よね、とレイシャは嘆息しながらマナリィを見やる。
確かに自分でシャツを作り上げる技術はすごいと思った。
だからって勢いで反物を数点買い付けるのはあの時の自分はどうかしていたと後になって思うのである。
それでも自分のために寝る間も惜しんでデザインを考えてくれたのなら、レイシャも悪い気はしなかった。
「それで、モノは出来そう?」
「実はノートに認めてきました」
レイシャはマナリィから受け取ったノートに目を通した。
そして一点、気になる部分を告げた。
「こののっぺらぼうがあたし?」
デザインはあくまで衣装のみ。
それ以外はマネキンの様な顔と手足がついていたのみだ。
服飾のデザインならそれでなんら間違ってないのだが、レイシャはこれが自分か、と少し落ち込んだ。
「ごめんなさい。レイシャさんの美しさを再現出来る美的センスがないもので」
「そこは謝んなくても良いわよ。ちょっと不満を抱いただけだもの。でもそうね、デザインは悪く無いわ」
「せめてこの手に、レイシャさんの美を再現出来る技術が宿れば!」
「だからそこまで悲観しなくても良いから!」
レイシャは本気で落ち込むマナリィに冗談も通じないのかと、その寝ぼけたこめかみをぐりぐりと抉ってやった。
「あぁぁ~~デザインが流れていくー」
悲壮な声をあげるマナリィに、少しだけ心地よくなるレイシャであった。
他の従業員からはそんな付き合いも、パワハラに見えるのだが、マナリィ本人は特に気にしてもいない。
むしろ気安い関係を保てているのに恩すら感じているので、レイシャを憎めないのだ。
「それでですね、レイシャさんの採寸を取らせていただきたいのですが」
「だったらドレスを発注するときのデータがあるわよ?」
レイシャにとってはモデルをしているのもあって、いちいち採寸をする意味がわからないでいる。
元々太らない体質というのもあるが、体の手入れに余念がないレイシャは理想の体型を維持し続けていることでその業界で生き残っている。
しかしマナリィは今現在のレイシャが知りたいのだと食ってかかり、本格的な採寸を始めるのだった。
そこから先は普段どの様に体を動かしてるか質問攻めに合うレイシャ。
マナリィが満足する頃にはすっかり日が暮れていた。
採寸程度でなんでここまで時間をかける必要があるのかレイシャにはわからなかったが、マナリィはただ必要な事の一点張りでレイシャを言いくるめていた。
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