外伝2 魂ある者

「さて、皆様揃いまして?」

「うん、俺が最後だね。あれ、鶴来たんだ?」

「あぁ、本来ならば来るつもりはなかったが、誾から今日は祝いと聞かされたのさ」

「いわうのたのしい、人いっぱいうれしい。鶴来てくれてうれしい」

「梁、乾杯も待たずに飲むのはどうだよ」

「あぁ、何言ってんだ虎。もったいぶってねぇでさっさと呼び出せよ。春殿」

「まぁまぁ。気が早いのですね。では、こちらにおいでなさい」

「は、はじめまし、て! 今日から皆様の末席に加わることとなりましたっ!」

「女の子だ! 春どのといっしょ!」

「歓迎しよう、名は?」

「あ、あたし、星って言います! 先達の皆様の名に恥じないよう、励むつもりです!」

「そんなに意気込まなくても大丈夫よ。みんなは歓迎したくてあなたを呼んだのだから」

「ありがとうございます、春様」

「やっぱり作った人が子どもだったから、子どもの姿なのかな。でも、なんで女の子なんだろ?」

「おんなのこ、じゃ、だめ? かわいい、し。元気、いっぱい。いいこと」

「どうでもいいだろそんなの。酒を呑ませろよ。おい、誾持っていくな!」

「お話、きくの! 星、どんな子?」

「あたしは多くの人達の願いを込めた曲なんです。だから、あたしの身体に流れる音はとても多いんです。日々を良く生きたい、人の願いは星のように多いから」

「それは分かる。多くの音を抱えるのは並大抵の曲ではなかろう」

「いえ! 鶴様の音はとても落ち着いて、懐かしい気持ちにさせます!」

「あぁ、私は親から子へと受け継がれる音だからな。懐かしい、というのはあながち間違いではあるまい。それは春殿も似たものと聞く」

「ええ。わたくしはある夫婦の愛の音ですわ。祝いの席、宴会、そのような場に私は鳴り響きますの。あなたもそのような音になるに違いありませんわ」

「誾はねっ! 誾、は……。ごめん、覚え、てない。でも、誾はね、覚えてるんだ。優しい人……でも悲しい人。彼の願いを、誾は覚えてる。そんな音だよ」

「カカッ! 俺はいついかなる時も奏でられるぜ! 人が奮い立つ刻、人が挑む刻、俺はそいつのそばで叫んでやる! それにな、感謝しろよ星! 俺のお陰でお前が生まれたといっても過言じゃねぇんだからよ!」

「はぁ、何言ってんだか。梁、誇大妄想は余所でやりなよ」

「てめぇこそ、いつの間にかガキの姿になりやがって、ちょっと前までよぼよぼのジジイだったじゃねぇか!」

「いいじゃないか! おれたちは人の思いを反映するんだから、外見がどうとか考えなくていいじゃないか!」

「なんだと!?」

「あぁ、そうか! 梁は人間ばかり見てるもんな! おれは大地の鼓動さ。揺らがぬ大地に流れる永劫なる時間の前に、人間なんてお呼びじゃないさ!」

「あぁ!? もういっぺん言ってみろや! その大地を穿ち、水を操り、火を携えた人間の熱こそ俺らの本分だろうがよ!」

「けんか、やめるの!」

「……分かったよ、誾」

「わぁったよ、オウサマ」

「誾のいう通りだ。お前達はこの中でも年長者なのだから、振る舞いを気を使わなければなるまいよ。星、お前を歓迎しようという気持ちは私も変わらない。異国の生まれである私なんぞの言葉はお前には不要かもしれないが」

「そんなことありません! 鶴様の曲は、多くの人達に愛され、親から子、孫へと受け継がれているではありませんか。あたしもいつか、そんな曲になりたいです」

「星、いい子」

「あたしの夢は彼と同じです。だから、もっともっと多くの人々に受け継がれていきたいのです。皆さまと同じよう、人々の思いにこたえられる曲になりたいのです!」

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羽子伝~少年楽士と秘曲名鑑~ 一色まなる @manaru_hitosiki

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