複写蘇生 七/浅間京子
ドアスコープの向こう側で、よく知る顔があくびしていた。私は前髪を整えて、冷えたドアノブに手をかける。
「……お疲れ様」
うん、疲れた――と、宮野は憔悴した目で、笑いかける。
ああ――この顔だ。
私はこいつの、こういう顔が、好きなんだ。
「後始末は、どうやら何とかなりそうだよ。久し振りに、親父に土下座して頼み込んだ」
「そ。ありがとう」
「それで、結局、何だったのさ」
インスタントのココアを出すと、宮野は慎重な手つきでそれをすする。
「聞いてたろ、話。自己暗示の延長線上。――変わってたのは、アイツ自身、オリジナルと複製の、区別がついてなかったってコトだけだ。だから、壊れる一方だった。パソコンでもそうだろう? ファイルをコピーして、コピーをまたコピーして……そんなことを繰り返せば、いつの間にか、データは調子を狂わせる」
「機械は、よく分からない」
昨晩から、雪は勢いを増して降り続けている。窓を覆ったカーテンを通して、寒気はじわじわ、入り込んでくるようだった。
「きっと、どこかで、間違えたんだ。コピーを交通事故の被害者にして、オリジナルが傍観する――本来のその分担が、ふとした拍子に崩れてしまう。本人は車に挽かれてしまって、残されたのはコピーだけ。ホラ、もう何も、残っていない。あるのは、残像か……幽霊だけだ。放っておいても、きっと、どこかで、破綻していた」
ココアをすっかり飲み干すと、宮野は、うん、と伸びをした。
「もう、八時だろ。学校、行かなくて良いのかよ。私はサボってるから良いけれど……お前は、優等生じゃなかったのか」
「雪が、ちっとも、やまないからね。天気予報じゃ、そろそろって、話だけれど」
「天気ってのは、要するに天の気分だろ――」
私は、もういったっけ、と口を閉じる。
「――なあ、宮野」
うん? と彼はこちらを見た。
「私の気分、いい当てられる?」
宮野はしばらくの沈黙の後、
「――最高」
と、こういった。
そろそろ、雪はやむかも知れない。
燃え尽きた夜 亜済公 @hiro1205
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