第14話 ファミレスでいいのか
「ふざけんなよ! お前は少なくとも確実にこの学校の教師に、そして何よりお前の家族に迷惑をかけている!」
「…………っ!」
返す言葉が見つからずに唇を噛む平井健太。
彼は自分を欺き続けた。そう簡単にこいつは変わらないだろう。しかし、俺はそれをどうにかしなければならない。
どんな言葉が一番効くだろうか、彼の今後を変えられるだろうか……
そんなのはもう、これ以外俺には見つからない。
「せいぜい今後は、お前が償いたいと思ってるやつが一番喜ぶことをすることだな」
そして俺は平井健太をから手を離した。
彼の行動の原動力がペットへの罪悪感なら、そのペットが喜ぶと思うことをすればいい。そっちの方が絶対、今より彼の心は救われる。
それに対し、平井健太は一言だけ小さく呟いた。
「わ、分かりました……」
今後こいつが具体的にどう行動するかは知らんが、取り敢えず何かは変わるだろう。最低でもそうだな……、「毎日傷だらけの状態で帰宅」することはなくなるんじゃないだろうか。
よし、これで依頼人の平井夏子さんに現状を伝えれば、依頼は解決だ。
俺は平井健太に背中を向けると、座り込んでて邪魔な不良たちを無視して階段を降りた。
***
花火と合流した俺はさっさと校舎を出て、校門に向かっている。もう日はそこそこ沈んでいて、辺りは仄暗く、電灯の光が目立つ。
現在五時四十分、最終下校時刻まであと十分である。部活の生徒は着替えたりしている時間なので、あまり人もおらず最高の時間帯だ。
それにしても予想以上にスムーズに解決できた。明らかに花火のお陰だ。
「本当にありがとな花火!」
「いえいえー」
明るく微笑み返してくれる花火。
しかしなにか言いたいことがあるのか、でも、と呟いた。
「……声出しちゃってごめんなさい」
「そんな俯くことないだろっ、そもそもなんで謝るんだ?」
「いや、だって、私が声を出した途端に探偵さんが叫んだから、悪いことしちゃってのかなって……」
それは俺が花火に迷惑をかけたくなかったから、かってに叫んだってだけじゃないか。ましてや花火が気にすることではない。
「あれは俺が叫びたかったから叫んだんだ。花火は何も考えなくていい」
「そうですか……分かりました。それと、もう一つ言いたいことがあって……」
「なんだ?」
花火は顔を上げ、呆れ顔で俺を見上げてきた。
「正直、大人気なかったですよ……」
「そ、そうか……?」
「はい、かなり。多分今日のことは、あの三人の中ではトラウマになったかと……」
「マジか……。でも、それはそれでいいか」
トラウマになるほど彼らの頭に今日の出来事が刻まれてくれたなら、御の字だ。
校門を出ると、さっき入った斜め前のカフェが視界に入ってきた。どうやらもう、中には生徒の姿は見受けられない。しかし、これから部活終わりの生徒たちがどっと出てくるので、またすぐに賑やかになるのだろう。本当、生徒たちの金で成り立ってる店だ……。
「花火、今日はありがとな。俺は明日からために帰るよ」
コートのボタンを止め、鹿撃ち帽を被る。花火はおそらく部活帰りの友人と合流でもして帰るだろう。
俺が花火に背を向け帰ろうとすると、後ろからクイっとコートの端を掴まれた。
不機嫌な花火の声が聞こえてくる。
「ちょっとー! なに帰ろうとしてるんですか〜」
「え?」
振り向くと、そこにはむすっとした顔の花火が。
「探偵さーん、無償で手伝ってもらえたとでも思ってるんですかー?」
「……なるほど、金か」
「違います〜!」
花火は俺のコートから手を離し、両手を左右にぶんぶん振る。
「じゃ、俺は何をすれば……?」
「う〜ん、美味しいもの食べたいです!」
「……分かったよ」
「本当でーすかー!? やったー!」
急に飛び跳ね出した花火。でも女子高生が喜ぶ美味しいものってなんだ? まず最初に思い浮かぶのは、SNSなどで話題になっているものだろう。
でも話題になっていたらなんでもいいってわけじゃないよな。話題で言えば、昆虫食とかでもよくなっちゃうし。
しかし、そんなに思案する必要はなかったようで、花火は虚空を指差して言った。
「じゃあ探偵さん、駅の近くのファミレスに行きましょー!」
「ちょっと待て、そこはクレープだのタピオカだのじゃないのか?」
なんか生チョコとかも人気らしいな。噂によると。
「そーゆーのは友人と行ってるんでいいんです〜」
「ああ、なるほど」
そう考えたらそうだな。友人と行ってる場所にわざわざこんな探偵の男と行きたいなんて思うはずないわ。
花火は後ろで手を組み、上目遣いを向けてきた。
「私は探偵さんとだから行ける場所に行きたいんですよー」
「何その言い方……」
ちょっとドキッとしちゃうじゃねぇか……。花火は「早く行きましょーよー」と言いながら、胸の前で小さく手を組み、もじもじと逆三角形を作っている。
で、「探偵さんとだから行ける場所」ってどんな場所なんだろうか……。まぁ、女子高生が喜ぶようなところじゃないことだけは分かる。
花火が俺の手を引いてきた。
「ほら、そろそろ部活終わりの人も来ちゃうので行きますよ!」
「ああ、そうだな」
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