第15話 探偵さんにだったら集れるでしょ?
俺は言われるがまま、駅に向かって歩き出す。
クネクネとした細い道。時々個人商店があったりする。流石にもう慣れたが、やっぱり都会の裏通りは無駄に複雑だ。迷路かと思うくらいである。
「花火の家はこの近くなのか?」
「はい。線路の向こう側なので、駅を通り抜けたらすぐです!」
「そうか。俺はここからかなり遠かったから大変だったなぁ……」
「え!? 探偵さん、私と同じ高校だったんですか?」
「いや、あそこではないんだが……」
あ、まずいなぁ……。俺としたことが、どんどん俺の高校時代を話さなきゃいけない雰囲気になって来てるよ?
「……高校は、この後出る表通り沿いにあるんだ」
「へぇ〜、そうだったんですかー! 部活は何してたんですか〜?」
「……物理部だ」
「物理部かぁ〜、なんか意外ですー」
ちょっと、ここら辺が限界だよ、これ以上は思い出したくないよ俺の高校時代の記憶。何か話題を変えるのだ……
「花火ってなにか趣味とかあ……」
「――部活ではどんなことしてたんですかぁ!?」
いきなり被せてきたよこの子。そりゃ花火なら気づいちゃうよね……。今日一番の笑顔で俺を見上げる花火。
「まぁペットボトルロケットとか、そんな分かりやすいことしかしてねぇよ……」
「そーですかぁ〜!」
花火よ、そんなキラキラした目で俺を見るな。もし俺が自分の黒歴史を他人に話して快感を得るドMになったらお前のせいだからな。
どんどん車の騒音が大きくなってきた。この一本道を抜ければ裏通りを抜ける。花火は早くファミレスに行きたくなったのか、歩調早めて俺より先に表通りに出た。
しかしその途端、花火の足が止まった。後ろから俺は声をかける。
「どうした?」
「……どっちでしたっけ?」
「は!?」
いきなりちょっと涙目で振り向き、首をきょとんと傾げた花火。
え、ここってお前の通学路じゃないの?
「どっちも何も、いつも通りに進めよ」
「覚えてないんです……」
「どうゆうこと!?」
「いつも友達について行ってるだけなので、全く道を覚える努力をしていないんです……」
「マジか……」
そんな人いるんだな、方向音痴なわけじゃなくてただ道を覚える努力をしてないなんて人……。
多分家から駅までの道しか覚えてないんだろう。でも花火って高校二年だろ!? 去年度丸一年、努力しなかったのかよ……。
ここを右に行けば俺が通っていた高校。左に行けば駅方面だ。
「左だよ」
「は〜い!」
俺はもしも駅も右方面だったとしても、決して「右」とは言わない自信がある。
その後も俺たちはくだらない話をしながら表通り沿いを歩き、信号を渡って駅の近くにあるファミレスに入った。なんだか花火と話していると会話が途切れなかった。
それは花火の性格ゆえなのか、花火が俺をおもちゃのように扱っているからなのかは分からない。
空いていたので俺たちは四人用の席に前後で座った。
「本当にファミレスでいいんだな?」
「だからそう言ってるじゃないですかー?」
つい本当に女子高生がこんなところに来たいのか分からず、すでに入っているにも関わらず確認をとってしまった。
だが、俺の考えが甘かった……
花火はメニューを見て選ぶのではなく、まずメニュー自体を逆さまにして俺に見せてきた。そして次の瞬間から、料理名が次々に読み上げられていく。
「えっと、このチーズインハンバーグとこのカツ定食と、あとそのビーフカレーとペペロンチーノが食べたいです! あ、ドリンクバーももちろんお願いしますね! それと……」
「――まだあるのかよ!」
「はい! 言ったじゃないですか! 『探偵さんとだから行ける場所』に行きたいって!」
「そういうことかよ……」
俺ならいくらでも払ってくれるってか……。
もしかしたら俺は「探偵さんにだったら集れるでしょ」というのを聞き間違えていたのかもしれない。
「じゃあ、こんだけお願いします!」
花火は俺をじっと見据えてくる。
うん、可愛いけど……やってることは全然可愛くねぇな……。
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