5ー34

「あの、もうお忙しいですよね!!

1つだけ、お会いできたら、絶対お伝えしたいと思ってたことがあって!」

彼は早口で言った。

「まだ、大丈夫だよ。俺に伝えたいことって?」

彼は、ソファに浅く座り直し、背すじをピンとのばした。

「あなたは、彼女のことを、手に入れられなかったから、忘れられないのかって歌詞で書いてましたけど……

手に入れたから、忘れられないんじゃないかって思います」

「何を?俺、なんも手に入れてね~んだけど」

「……彼女の、はじめてをもらってますよ」

真っすぐに、俺の目を見てそう言った。

「初めて?って、何が?……えっ?初めて?」

「あなたが……初めての相手だと、彼女は言ってました」

「は?えっ?ちょっと、ちょっと待って!!

だって!元カレいたじゃん!!すげー長く付き合ってた元カレ!!」

「高校時代は、そうゆうのなくて、そうなる前に矢沢先輩とは終わってしまった、と」

「……マジ、かよ……」

「だから、手に入れられなかったんじゃなくて、あなたは最初に手に入れていたんですよ!

彼女のたった1つの大事なモノを。

それを手にしてるから、忘れられないんだと思います」

「なんで?

旦那さんが、なんで、そんなこと俺に教えてくれんの?」

俺の目をじっと見つめ、

「……あなたが、苦しそうだから……

俺も、彼女に長く片思いしてたんで、なんてゆうのか、気持ちはわかるって言うのか……

だからって、彼女は絶対渡しませんけど」

キッパリとした口調で言った。

「……マジか……優しいんだな。

倉田くん。ありがとう」

「あと、彼女、ロックは聴かないって言いましたけど、昔からクラッシックが好きで、あなたとshunさんのCDはよく聴いています」

「えっ?バイオリンとピアノのCD?」

「はい。すごくいいって言ってます。

逆に俺はクラッシックはよくわからないんですが。

keigoさんの音が、有名な誰だかの音に似てるって」

「俺のバイオリンの音?」

「あ、はい。……えっと、マリアなんとかって」

「……マリア、……マリア・ステファニー?」

「あっ!!そうです!!その、マリア・ステファニーの音に似てて、きれいな音色!って」

「あはははは~!まいったな……」

やべー……

マジで、会いたくなっちゃった。

なんで わかんだよ。音が似てるなんて、誰にも言われたことね~のに。

「バイオリニストのマリア・ステファニーって、俺の母さん」

「えっ!!」

「だけど、これ、どこにも公表してねぇから、わかるはずね~んだけどな!あはははは!

彼女に母さんの話をしたこともなかったし、そもそも俺ハーフとかも知らねーんじゃね?

ありがとうって彼女に伝えといて、って、ダメか。

倉田くん、俺と会ったこと彼女に内緒にするつもりだよね?」

「あ、はい……」

「んじゃ、いいや!ありがと!倉田くんと話せて良かったよ」

「いえ、こちらこそ」

「あっ!一個だけ質問してもいい?」

「はい」

「彼女とヒーロー物の話する?」

「ヒーロー物ですか?仮面ライダーとか、戦隊物とかですよね?

えっと、彼女とですか?話したことないです。あ、息子たちと一緒によくテレビは観ているようですけど。それがなにか?」

「ううん。なんでもない」

どうでもいい話は、やっぱ本命とはしないってか。あはははは。

ヒーロー物の話を熱く語ってたのは、俺にだけ見せた顔だな。

そうゆうの、割と嬉しいんだけど。

「あ、俺もう行かなきゃだけど、倉田くんはまだ時間あるの?」

「はい、今日は非番なので」

「じゃ、スタッフ来るまで、ちょっとここで待っててくれる?」

「あ、はい」

「じゃ~ね~!」

「keigoさん!応援してます!」

立ち上がり、大きな声で言った。

「うん!サンキュー!じゃ!」


彼女をよろしくって、俺が言うことじゃないよな……

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