5ー33

 

 「俺、中学の時からoneのファンで、」

腰をおろした途端、そう言った。

「えっ?」

「6年前の来日コンサート、横アリの!行きました!」

「そうなんだ!彼女も?」

「あ、いえ、彼女はその日、長野で同級会だったんで、俺だけで」

「そう」

「で、あれ見てから、あなたの、あ、Realの、

ファンになりました!」

「へぇ~マジか!ありがとう!

で?それを伝えに?」

「いえ、あの、最新アルバムも聴かせてもらいました……

まだ、好きなんですか?彼女のこと」

「お、単刀直入にきたね!!

どうなんだろうな。わからないってのが、正直なところ。

いろんな手を使えば、彼女のこと調べたり、再会する場を設けてもらったり、そんなことできるんだろうけど、してこなかったし。

再会したところで、何も始まりゃしないって諦めてっからだと思うんだけど。って、それを彼女の旦那さんに語ってるのも、すげーカッコ悪り~んだけど。ハハハ」

「会いますか? 俺も同席させてもらいますけど」

「あはははは~!!遠慮しとくよ。

旦那の目の前で口説けるほど、図々しくないよ!!あはははは!

それとも、ラブラブなところを俺に見せつけて、息の根を止めたいとか?」

「あ、いえ。……彼女は、もともとロック系とかは聴かない人なので、Realの曲も全然聴いてないです。

俺のいない時に聴いているのかは、わからないですけど」

「そうなんだ!残念!そいや、昔もライブハウスに誘っても興味ないって、1回も来てくれなかったな。

じゃ~彼女に向けて出したラブレター、本人には届いてなくて、旦那に読まれてたってことか!

恥っず!!めちゃくちゃハズいやつじゃん!!

ごめんね!旦那さんとしては気分悪いよね!

でも、こう思ってもらっていいから!Realの曲、架空の人物 Aさんへのラブレターだって。

元々、言われてる余韻の人ってのが、空想上の人物で、全部妄想で書いてるんだって!

キミと一緒のところを見たのだって、もう10年前で、そこで彼女のデータ止まっちゃってて、

更新されねぇまんまだから。

実際、彼女を今も好きかどうかなんて、確かめようもないからさ」


ノックして、ドアを半分開けて、

「桂吾、俺そろそろ行くけど」

と、龍聖が顔を覗かせた。

「わっ!Ryuseiさん!!」

彼は、立ち上がって大きな声をあげた。

「あっ、どうも。ゆきちゃんの旦那さんだって?」

そう言って、龍聖が部屋に入ってきた。

「あっ、はい!彼女をご存知ですか?」

「花を買いに行かせてもらったよ。1回だけ」

「そうなんですか!あの、俺、エレン・レヴァントの大ファンで、あなたのファンでもあります!」

「へぇ!俺もエレン大好きだよ!」

「ですよね!oneのライブでのRyuseiさんのコーラス最高でした!in the shadowとGet up!get up!get up! 両方とも、素晴らしかったです!!」

「ありがとう」

「あの、握手してもらえますか!!」

「あ、はい」

龍聖は右手を出して握手した。

その瞬間、アハハと思い出し笑いみたいに笑った。

「あっ!ごめん!笑っちゃった。

ごめん!えっと、こっちの話。気にしないで。

ゆきちゃん、いい人と結婚したな。幸せそうで良かった。

じゃ、桂吾、俺 先に行ってんね!」

「あぁ」

「ありがとうございます!」

彼は立ったまま、龍聖の後ろ姿を見送って、ソファに腰をおろした。

「龍聖さんて、あんなにフレンドリーな方だったんですか?イメージ違った。笑ったところ、初めて見ました」

前のめりになって俺に言った。

「なんだかな?普段、握手なんてめったにしないし、人見知りなんだけどな。キミのことは、いいらしいな」

「あっ、ちゃんと名乗ってなかったですね。

倉田です」

そう言って、名刺を差し出した。

「えっ?神奈川県警?警察官なの?」

「あ、はい」

「マジか!怖え~な~!別件逮捕されないようにしなきゃ!あはははは!」

「白バイなので、別件逮捕はしませんが、スピードだけとりあえず気をつけていただければ。

運転お好きなんですよね?」

「うん。俺、横横(横浜横須賀道路)とか すげーとばしちゃうから気をつけなきゃ。あの辺で はってる?」

「あ、それは言えないんですけど、横浜でkeigoさんの車は何度か見かけてます。白のスープラですよね?」

「え~~~~!!マジで怖いわ!」

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