5ー19

 8年目

 今年も引き続き、悠弥と俺はラジオ番組をやらせてもらっている。


水泳界の超有名人、バタフライの銀メダリストの沢村尊に、ゲストのオファーをしようかと、移動中の車の中で悠弥が言った。

「沢村~!!いいじゃん!まだ現役でやってんだろ!すげーよな~!俺、沢村すげー好きなんだよな!!俺も会いたいわ~!」

俺より先に、大輝が答えた。

「まぁ、来年のオリンピックも控えてて、忙しいかもだし、とりあえずオファーだけ入れてもらおうぜ!」

と俺は答えた。

沢村尊は、俺らの高校の同窓生。

悠弥と同じクラスだった。

俺は、クラス違ったし、こちらは沢村のことをよく覚えているけど、沢村は俺のことなんて覚えてないんじゃないかなって思った。

でも、それは別にどうでもよくて、水泳の銀メダリストの沢村のことは勝手に応援してたから、会えるなら是非会いたい!って思った。


数日後、ラジオ局の担当デレクターさんから連絡が入って、再来週のゲストに沢村尊が来てくれることになったと報告してくれた。

デレクターさんの話だと、沢村は俺らのオファーをすごく驚いていたそうだ。


「高校一緒ですけど、俺のこと知らないと思ってましたよ」

と言っていたと。


知らない訳がない!

地元の長野の大スターなんだから!

俺たちがデビュー前、まだ地元でそれぞれ働いたりしながらバンド活動をしていた21歳の時、大学生の沢村はオリンピックに初めて出場した。

結果は11位。

メダルどうこうよりも、オリンピックに出られること自体がすごいことだと思った。

4年後、25歳で、沢村は2回目のオリンピックに選ばれていた。

結果は、4位。

もうあとほんのちょっとの差で、メダルを逃した。

そして、3回目のオリンピックは29歳の時。

3回連続で出場していることだけでも素晴らしいことなのに、このオリンピックで銀メダルを獲得した。

そして今、32歳の沢村は来年のオリンピックを狙って、まだまだ現役で、活躍している。

ほんともう、賞賛に値する。

 

ラジオの生放送当日。

俺たちは、いつもゲストと事前に打ち合わせはしない。

質問とか聞きたいことは、あらかじめ文書を渡しておく。

よっぽどじゃない限り、この質問NGなんて言われることもない。

今回も沢村尊に聞きたいこととかを書いて送ってあった。

直接会うのは、高校卒業以来だけど、お互いにテレビで顔を観ていたりするから、久しぶり感も特になく、よろしくって軽い感じでブースに入って来た。


「ここで、本日のゲストを紹介します。競泳バタフライのオリンピック銀メダリスト、沢村尊さんです!」

「こんばんは、沢村尊です。よろしくお願いします」

「おっ!いい声!!俺ら2人と、ってゆうか、Realの5人と沢村は、高校の同窓生です」

「俺、武内とは2年間同じクラスだったけど、須藤とはクラス一緒になったこと一度もなかったから、俺のことなんて知らないと思ってたよ」

と、沢村は真顔で言った。

「知らない訳ないじゃん!!地元の超有名人を!」

「ハハハ!ってゆうか、高校の頃のオレを、さ」

「あ、そうゆう意味?覚えてるよ~!

1年の時さ、俺4組で沢村は3組だったじゃん!

体育の授業は、3、4組合同だっただろ。

水泳の授業で、タイム計るって時があってさ、同じ組で泳いだの!すげー忘れられないもん」

「マジで?それ覚えてんの?俺も、それずっと覚えてて、須藤って言ったら、あの須藤!!って思って」

「あの須藤ってなんだよ?」

悠弥が笑った。

「あの時は、名簿順だっただろ。さしすせそで俺、1レーンで、須藤は5レーンだったんだよな」

「そう、そう」

「クロールの100メートルのタイム計るってやつで、飛び込んだら、ナナメ前にいるのが見えて、えっ?誰だ?って。

すぐに追い越せると思ったら、全然差が縮まらなくて、ターンしたところでやっととらえてさ~、泳ぎきってから5レーンを見たら、すっげー優雅にスローモーションかって感じでゆっくりゆっくり泳いでて、4着だか、5着だか」

「あはははは!桂吾 力尽きたのかよ?」

「あぁ。マジで死んだ!やっぱ速え~な~!!って感じだった」

「俺さ、初めてだったんだよね。自分より速い人に会ったの。小さい時からスイミング通ってたけど、どんな大会でも いつもいつも1位だったから。自分より前を泳ぐ人ってのに、会ったことなくて。 だから、すごい衝撃的だった」

「沢村、負けた訳じゃないじゃん!ぶっちぎったわけだろ?」

「あぁ、でも、あれが50メートルだったら負けてたな。ターンするまでは、追いつけなかったから。

それで、プールあがってから、キミ水泳やってるの?って聞いたら、髪をこう かきあげて

“俺の名前は須藤桂吾、軽音だ!”

って、コナン君みたいな言い方して笑ってさ!」

「あはははは~!!すげーバカ丸出しだな~!」

「あはははは~!!」

俺と悠弥は大笑いした。

「俺はさ~、普通に授業で、沢村の泳ぎを見てて、わぁマジで別格!!って思ってたから、あのレースはマジで勝ちにいくつもりでいたんだよね。

タイムどうこうより、とにかく沢村に勝ちにいったわけ。俺のことなんか眼中にないだろうから、ノーマークのところを出し抜こうって。

だから、厳密に言えば、ちょいフライング気味で飛び込んだよ。で、抜かれた辺りでマジで限界だった。あはは!」

「中学でやってた人なんだろうなって、あとで誰かに聞いたら、中学は帰宅部、高校はボクシング部と軽音部のかけもち。って。

それなのに、あの泳ぎはなんなんだ!って、あの時の衝撃は ほんと忘れられないよ!

で、須藤桂吾!すげーカッケーな~!!って思ってた」

「マジか!!未来のメダリストに衝撃を与えられただけでも爪痕残したな~!俺ね 割と、水泳は好きでさ、スイミングとかで習った訳じゃね~から、完全に自己流なんだけど。運動系で唯一悠弥に勝てるのは、水泳だけだかんな」

「マジで、武内なんでもできたよな~!!サッカーもバスケもバレーも!部活やってる奴らよりも上手かった!!」

「だろ!!もっと誉めてくれよ!!俺、なんの取り柄もない、ただのアホとしか思われてね~から!!」

「アホってゆうか、武内は天然なんだよな~!

かわいいな!って思ってたよ」

「かわいいは ねーわ!!あはははは!」

俺と悠弥で、笑った。

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