5ー54

 会場に戻ると、外には開場を待つファンが大勢いた。

タクシーで裏の関係者専用出入り口に横づけしてもらって、中に入った。

控え室へ入ると、

「おーー!!良かった~~!!戻ってきた~!」

と、悠弥が駆け寄ってきた。

「えっ?何?時間ヤバかった?」

時計を見ても、まだ余裕な時間だった。

「トンズラこいたかと思ってさ~!」

「は?トンズラ?」

「さっき、彼女来てたんだって?ゆきちゃん」

大輝が俺の方を向いて静かに聞いた。

「あぁ、うん、そう!入り待ちしててくれた」

「その割には、リハも普通に出来てたじゃん」

と、瞬が言った。

「あ、そうだな。なんてゆうか、嬉しくて、

超 嬉しくて、一周廻って、平常心って感じ。

あはは!

俺ね、彼女にもう1度会わせて下さい!それ以上は決して望まないから!って、ずっとずっと ずっとずっと、神様にお願いしてたんだよね。

10年頑張ってきたご褒美に、それを叶えてもらったのかな~って。

だから、約束通り、それ以上は望まないことにしたんだ。

無理してる訳でもなく、ほんとマジで普通のテンションだから、大丈夫!

みんなに迷惑かけたりしないからさ!」

「桂吾、余計なお世話だったかもしれないけど、俺、木村さんに話して、あれからすぐにゆきちゃんのところへ行ってもらったんだ」

龍聖が小さな声で言った。

「えっ?」

「俺も、ゆきちゃんわかったから、髪ボブでクリーム色のコートに白系のニット、モスグリーンのロングスカートの女性って伝えて、木村さんに追っかけてもらった。

ライブを見てってくれませんか!って」

「は?来ねーだろ!!ロック聴かねーんだから!!」

「わかりました だってさ」

瞬が言った。

「……わかりました……って、どうゆう意味?」

「一旦、家に帰ってから、親に子供をお願いして、開演時間には来ます、って」

「…………」

俺が黙っていると、

「リハ通り、平常心で出来るか?」

と、大輝が聞いた。

「ありがとう。なんか、とんでもないプレゼントをサプライズでもらった感じだな。ちょっと、驚いた。

彼女も断らないで、来てくれるなんて。

もちろん!平常心でやれるよ!!」

「よし!じゃ、リハ通り!今日は、サプライズナイトだから、桂吾のMCは、なしでいいな!!」

「了解!大丈夫!ありがとう!」



まさか、彼女がRealのライブを見てくれるなんて、思ってもみなかった。

ライブに、何度誘っても興味ないって言ってた彼女が。

初めて見てもらうなら、明日の方が良かったな。

今夜は、サプライズナイトだから、俺のマイクは切られちゃってるし、ハジケられないし。

でも、逆に真面目にピアノ弾いてるところを見てもらえるか。

まったく、俺にとってもサプライズな夜だな。

まぁ、リハ通りに普通にやろう。

彼女が見てる見てないは、気にしないで。


木村さんが控え室に入ってきた。

「桂吾さんにご相談すべき事でしたが、見失わないうちにと、すみません。勝手しまして」

木村さんは、申し訳ないって顔をした。

「とんでもないですよ!!木村さん!ありがとうございます!走って追っかけてくれたんでしょ?こちらこそ、すみませんでした。

彼女、あぁ見えて、歩くのとか超速いんで、追いつくの大変だったでしょ?」

「えぇ、200メートルくらい全力疾走しました。こんな走ったの、20年ぶりくらいでしたよ。信号待ちで追いついたので良かったです」

「あはははは!良かった!」

「楽屋に来ていただけませんか?って、聞いてみたんですが、それは遠慮させていただきますと仰られて、ライブだけ見させていただきます、とのことでした。

自分は、なんの取り柄もない平凡な人間で、桂吾さんは世界が違う別世界の人ってゆう感じで、いつもテレビで拝見させていただいてます、と。

桂吾さんの花の写真集、写真も添えられてる詩もとてもステキでした、と。

桂吾さんに、ありがとう。応援してます。とのことでした」

「木村さん、ほんとに、ありがとうございます!もう、ほんと、思い残すことないくらい!!

マジ張り切って、今日のライブやりますよ!!」

「はい、よろしくお願い致します」





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