5ー10

 デビューして4年目の3月


龍聖が理彩子を東京に呼んでもいいか?と大輝に聞いた。

「結婚したいってことか?」

「いや、それは10年後って言われたから」

「理彩子がこっちに来たいって言ってんのか?」悠弥が龍聖の方を向いて聞いた。

「うん、そう。今長野でやってるヘアメイクの仕事を、東京でやりたいって」

「いいじゃん!長野より、東京の方がそうゆう仕事あんだろ!」

と、俺は言った。

「ってゆうか、そこじゃないだろ?

要は、一緒に暮らしたいって話しだよな?」

と、大輝が龍聖に聞いた。

「うん、そう……」

小さな声で返事をした。

「一緒に暮らすなら、今のマンションじゃ~狭いよな。と、なったら、もうちょい広い部屋に引っ越さなきゃな、ってことだろ?」

「……うん……そうなんだけど……」


しばらく、沈黙だった。


大輝が口を開いた。

「俺さ、デビュー前に、おまえに結婚は10年後って言って、おまえ素直にわかったって答えたじゃん。あれから、ずっと考えてたよ。

あれ、正しかったか?って。

理彩子の幸せはどうなるんだよ!って、悠弥にも言われたけど、俺らがデビューして夢を叶えることと、理彩子が幸せになることは別モノじゃない。高校の時から、理彩子が俺らの為にいろいろ手伝ってくれたのは、もちろん彼氏の龍聖の為だったろうけど、でも俺ら、マジですげー理彩子には世話になってた。

だけどさ、デビューするってなったら、理彩子の存在はマイナスだって、そう思っちまった。

結婚したって、龍聖はうつつを抜かしたりしないって、瞬が言ったように、龍聖はきっとちゃんとやったはずだ。

あの時の俺は、リーダーとして正しい判断だったかって思ってきた。

理彩子がこの3年間、離ればなれでもガマンしてくれたんだ。

俺は、理彩子がこっちに来たいって言ってんなら、呼んであげたいと思う」

「大輝……ありがとう。

大輝のあの時の判断は正しかったと思うよ。

離ればなれだったからこそ、理彩子が俺にとって大事な存在だって再認識できたし、結婚も、あと7年後でいいと思ってる。

だから、俺のわがままなんだけど、理彩子をこっちに呼んで、一緒に暮らしたい。

その為に、広い部屋に引っ越ししたいんだ」

龍聖が自分の気持ちをみんなに伝えることは、かなり珍しい。

それだけ真剣に考えて、悩んでいたんだろう。


「誰も、理彩子が来ること反対しないよ。

で、選択肢は2つ。

1、龍聖だけ引っ越す。

2、俺らも龍聖と同じマンションに引っ越す」

と、瞬がみんなの顔を見渡した。

「今までも同じマンションだったから、都合がいい事いっぱいあったじゃん!!一人で暮らすには、俺ら今の部屋で充分だけど、どうせなら、防音で部屋で曲作り出来るようなところに引っ越したいかな~、俺も!みんなで」

と、俺は言った。

「俺も、みんなで引っ越しに賛成!」

と、悠弥も言った。

「今のマンション、会社で契約してくれてんだから、まずは会社に相談してだけどな。同棲する為にってとこは伏せて、部屋で曲作り出来るようにしたいからって説明すりゃぁ、まぁいいって言われんだろな!」

と、大輝も言った。

「今まで、会社の御厚意に甘えて、デビューからずっと家賃タダだったけど、俺らもだいぶ給料高くなったし、自分らで払うってことでいいんじゃないか?」

と、瞬も言った。

「引っ越しか~!なんか!超楽しみになってきた~!!早速ネットで物件調べようぜ~!!」

と、悠弥が言った。

「ありがとう。みんな。

すげー言いづらかったけど、今まで通りみんなで同じマンションに住めるなんて、嬉しいよ」


幹線道路から、一本中へ入った通り沿いで、地下駐車場があり、防音対策がされていて、オートロックのマンション。

都心から少し外れたところで、探した。

1LDKの部屋が4つと、2LDKの部屋が空いているマンションがみつかった。

俺らは、今までのワンルームマンションでも何にも困ってなかったから、1LDKで充分だったし、龍聖も2LDKでいいって言うから、そこを第一候補にした。

本当は見に行きたかったけど、マネージャーの木村さんから、俺らが行くのはNGって言われて行くのはやめた。

代わりに会社のスタッフさんが2人で行ってくれて、ビデオを撮ってきてくれた。

広い!綺麗!

まぁ、何も物がないからだけど、これだけ広いなら、今よりもデカいベッド買おうかな、とか、会社に置きっぱにしてる俺の私物の音楽機材も運ぼうかな、とかいろいろと出来そうだ。

エントランスとかもキレイだし、地下駐車場からカードキーを使って、そのままエレベーターで部屋階まで上がれるのもいい。

週刊誌やマスコミとか、ストーカーまがいのファンとかにも待ち伏せされずに出入り出来そうだ。

理彩子が一人で入口から入って行っても、龍聖と一緒のところを見られない限り、ただのマンションの住人にしか見られないだろうし。

外観とかもいい感じだった。

10階建てのマンションで、301、302、501、603、それと龍聖の部屋は701だ。「防音って言ってるけど、出来れば俺、角部屋がいいな~。301か、501。

あ、隣りも借りれるなら俺301で悠弥302にしようぜ!」

と、俺は言った。

「あぁ、いいんじゃね~。俺も、なんなら角部屋がいいから、501がいいけど。大輝、603でいい?」

と瞬も聞いた。

「あぁ、俺はどこでもいいわ!じゃ、ここで決まりでいいか?」

「オッケー!!」

みんなで声を合わせた。


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