No.7 スポットライト 作者:杉菜子澪 さん

『なんでこんなつまんないのに配信やってるの?』


画面の向こうでしゃべっていた薄っぺらいアバターが、ぴたりと動きを止める。


「だっせ、"事故"にしちゃうなんてエンタメとして最低じゃん」


反論もその後のことも知らない。ボタン一つでその配信を視界から消す。

なにかすべきことがあるわけではないが、面白くないものに時間を費やすのは"無駄"だ。

その"無駄"を省けるよう、あえて厳しい表現を使ってふるいにかけているのだ。


ぼんやりと、流れていく大勢の書き込みの濁流を眺める。


流行りの作品のファンアートが流れていった。

……絵を描くこともしようとした。

特に何もしなくても目が"いい感じ"に描けた。

だから、絵を描くことはやめた。時間をかければできる事は分かったから。

それなら、誰にだってできるから。


自作小説の宣伝が流れていった。

……文章も書いてみようと思った。

特に何もしなくても、それらしいものが書けた。

だから、文字も紡ぐことをやめた。時間をかければできる事は分かったから。

それなら、誰にだってできるから。


配信者の紹介が流れていった。

……配信者が嫌いだった。

特に何もしなくても、そこにいるだけで褒められているから。

努力してできた形でないと……プロとしての自覚も覚悟もない人間が、それだけで評価されていることが。

我慢、ならなかった。

だから――。




『この企画って、大手のパクリじゃないの?』


だから、評価するためにペンを持った。

そうでないと自分が自分でなくなりそうだったから。

そうしないと……自分の価値がなくなってしまいそうだったから。


ペンは、倒れないための杖だった。

その杖が誰かを傷つけることはあるだろう。だから事実しか書かないことにした。

事実は、正当な評価だ。

向けられたナイフをエンタメとして昇華できないなら……スターとは呼べないだろう。




「……なんでだよ」


配信で書かれたコメント……名前が伏せられてもない、自分が書いたコメントだ……が原因で休止する。

そのことを声高に、濁流の中で宣言した配信者がいた。


宣言を起点に、無秩序な水害が自分の元に流れ込んできた。


『そんなこと配信で言いに来るなんて暇人』

『言われた側がかわいそう』

『相手の気持ちを、考えたことが、なかったんですか』


違うだろ。

舞台に立っているのは向こうで。

観客席にスポットライトを当てるのは……違うだろ。




――だから。

アカウントを削除する、というボタン一つで幕を下ろして。

布団にこもって、一つの熱を心の中で延々と燃やし続けた。


……自分の杖を折りに来たその配信者が、許せない。

表舞台に立っている奴が、観客席まで来て晒し者にしてきたことが、ただただ許せなかった。






『――続いてのニュースです。悪質な投稿を配信者に対して行い続け、それを指摘されたことに逆上。犯罪予告を繰り返したとしてN市の――……』


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