No.6 『表現する術を持たない者の表現』 作者:大分煉次さん

 二本目の徳利を空にしてから気づいたことは、最初から(大)にしておけば良かったということだ。そっちのほうが百円安い。

「すみません、おかわりください。大で」

 だからそうした。

「よく飲むね」「まだ二合だぞ、それに安すぎて困ることはない。タダでもいい」「君は思考に品がないんだよな。あ、ぼくもビールおかわりを。あと焼き豆腐」「俺も食べる」「二つで」

 注文してから一分以上かかったことがない、というのが、二人が共通してこの店を好む理由だった。もっとも、多少なりとも手の込んだものを頼むこと自体がない二人である。満席になることはないが、二人だけの貸し切り状態になったこともない。適度に繁盛している、適度な店だった。

「何の話だっけ」

 焼き豆腐に七味唐辛子をふりかけながら、中断した話を促すと、「『表現』だよ『表現』」「略すなよ。表現、……表現する術を持たない、だろ」「それな。次のテーマの」「経緯は聞いたからもういい。そもそも表現ってなんだよって話だ」「なんだろうね? 自己表現みたいな言葉あるけど、表現」「例えば絵とか文章はどうだろう、表現に含まれるかな」「表現する術の一つだと思う」「動画」「表現だろ」「音楽」「そりゃ表現だよな」「当然、って感じに言うね。舞踊や詩吟なんかも、どうだ」「渋いなオイ」「どうだ?」「表現じゃないか、それも」「つまり芸術、芸能に関係した活動が君の考える『表現』か?」「うーん……ピンとこないな。あ、スミマセン、これ下げてもらって、あとガリトマトひとつ」「ガリトマト?」「トマトのスライスに生姜の酢漬けのってるやつ」「ふーん」

 追加の皿のためのスペースを空け、「ピンとこないか。芸術とか」「それも表現なんだけど、それだけじゃないよな」「自己表現って言ったね、そういえば君」「自己表現が何かよく分かってないところはある」「そんな胡乱に言葉を使うなよ、バチが当たるぞ」「勉強しとく。で、だな…ほら、画家とかさ、動画配信とか、ピアニストとか、伝統芸能の人とか、表現する人でそれを仕事にしてるよな」「そうだね」「しかしながら表現することが仕事じゃない人もいるよな」「農家とか金融窓口とか保険営業とか労務管理とかお飾り管理職とか機材販売とか」「やめろよ。何か厭な気分になってきた」「飲んじゃえ」「飲むよ。飲むし注ぐよ。これ値段の割に旨いな」「ぼくは燗酒ニガテだからよくわからないけど、熱くして味するの?」「煮え湯飲むみたいに言うなよ。酒の匂いがぷんと立つくらいに温めてんだから、そんな熱くない。冷酒は冷酒で好きだけどこっちも好きだ」「徳利持つとやけどするかと思うんだよね」「言いすぎだろ。そんで、そーいう表現することが主じゃない仕事の中でもさ。書類とかで文章書いたり、プレゼン的なやつで絵を使ったりするじゃない」「するね。グラフとかつくって」「グラフ?」「進捗管理の」「やめろ。でもまあそういうのもある……あるよな。じゃあそれって表現ではない、ってことには、たぶんならないと思うんだよな」

 四杯目のジョッキはすでに空だった。ガリトマトにつられて注文したのはトマト酎ハイである。

「そもそも表現とはなんだって話にもどるけど、言葉の意味として」「今まで俺が話した中で言うと、俺的には誰かに何かを伝えることになるかなあ」「君の中ではそうなるね」「違うかな」「違わない。ぼくは否定的な立場じゃないが、そこで疑問が」「なに?」「伝える手段として表現という言葉があるとすると、君の口にした自己表現という言葉にも掠るかもしれないが、では伝えない、伝わらないこと、あるいはそもそも伝えるための行動あるいは意思が介在しないものはすべて、表現ではないということになる。どうだろう」「伝わらない。っても難しいな……なんか具体例ある?」「そうだな。ぼくはやってたことがあるが、日記だ」「日記」「日記を小説風にというか、こう、盛りに盛って今日あったことを世界の危機みたいな大げさな書き方をしてね」「学校の塀の上で寝てるトラ縞の野良猫を見ました、ってのを、工場の煙突の上で鵺が吠え猛っていた、みたいなこと?」「分かるもんだね。誰にも見せたことないのに。脈絡もないけど、まあそんな感じだ。これは伝える意図がないけれども、文章という表現する術を使っていると思う」「じゃあ表現だし、誰かにってのが自分も含めるなら、アリじゃない?」「自分に伝える表現……ちょっとよくわからなくなってきたな」「先の自分にっていうか、あとから読み返したりするために日記つけるわけだろ。日記はオマエのいう『表現ではない』ものに含まれるかっていうと、違うと思うな」「なるほど。こういうのはどうだろう。何かを説明するとする」「うん」「説明が下手くそすぎてわからない」「よくある」「君は何でも端折りすぎるしな」「オマエは細かいとこまで言いたがるよな」「うん。結果として伝わらなかった。これは表現ではあるが、伝わらなかったということは、だ。いちばん最初の『術』が足りないってことになるかな」「そうなると思う。まてよ。なんか頭がこんがらがってきたぞ。表現する術、ってことを、表現と術に分けて定義したほうがいいのかな」「なんかビジネス用の本みたいな目次が要りそうな話になってきた。特に術のやつ」「絶対相手の顔のどこを見るのが良いとか、切り返し話法とかになってきそう。厭だな」「はじめに立ち返ってみるか」「いや、なんか堂々巡りになりそう。ここらへんでループ入りそう」「選択肢とか無さそうだね」「めっちゃ序盤なのに強制ループな」「クソゲーだよ。ゲームじゃないけど。あ。つまりゲームみたいになってるってことかな」「何が」「表現する術って言葉が、こう、複合的というか、別々にかんがえるんじゃなくて、表現する術とは何か、ってことに集中したほうが良いんじゃないか。つまりこうだ」


『表現』する『術』を『持たない者の表現』


『表現する術』を『持たない者の表現』


「メモ帳便利だよね」「いや、探すのがめんどくさいんだけどオマエ、ホーム画面の一番上にしてんの?珍しいね?」「便利なのに」「こういう話のとき以外使い道がわからねえや」「何その口調」「必殺シリーズ通しで見てるからちょっと影響が……まあ、表現する術、か。それこそ職業になるようなスキルの話……だけってわけでもないよな」「そうだね」「めちゃくちゃ広義に捉えれば、あいさつ一つとっても表現する術とも言えると思う」「飛躍しすぎてない?」「オマエ酒が足りないんじゃないの」「十分足りてる。肉っ気がないのが気に入らないな。どて焼きと鳥皮どっちがいいかな」「どっちもでいいだろ、二百円だし。どっちも頼もう」

 そういうことにしておいてから、「あいさつは表現かなあ」「誰かに何かを伝える、って意味でもなんの問題もないとは思うんだけどな。だってお早う御座いますって言うだろ。言葉の意味だけなら何も通らないでしょ。早いからなんやねんって話でさ」「……うん」「仕事の中だと、今日も一日よろしくお願いします的な意味も含むでしょ。近所の人相手にもさ、少なくとも仲良くしましょう、敵じゃないですよ的な意味もあるじゃない。でも実際の言葉の字面とは違うのに、違う意味を混ぜて伝えているわけでさ。表現する術、ってそういうテクニカルな感じのものを全部含められそうだなと思って」「君の言うことに一理あるなとは思った。うん、確かに表現する術って色々混ざってる感じがあるな」「そうだろ」「舞踊だとかは、動きの一つ一つに意味があるとか言うし、まあそもそもあれ起源的には予め人間がラリったところをさらに決まった身体動作と体感できる空気振動から神経を幻惑してトリップさせて神霊との交信をスムーズに行うための儀式だから当たり前ではあるんだけど、それが儀式から娯楽の一部に変化していく中で変遷はしていくけれども、大体から動きと音楽と麻薬の複合作用なんだし、麻薬は現代では基本的に禁忌で確かに健康被害以上に経済的・秩序治安的に混乱招きすぎてクソだけどそもそもダンスと音楽自体が切っても切れない表現方法ではあるよな」「息継ぎはしろ」「したよ、循環呼吸くらいはできる」「知らねえー。それに脱線の危険もあった」「ちゃんと戻したろ。表現する術は複合的だって。舞踊と音楽みたいにジャンルというか大きな分類でもそうだし、そうなるとあいさつ一つ、その一言のなかに異なる意味を含ませるのも、確かにそうだという気がする」「混ぜてあるわけよ、何でもかんでもってわけじゃないけど。あー、だから、なんだな。そこんとこの選択?的なことかな」「そこってどこだよ。あ、ちょっと手洗い」「おう。あ、おかわり。……えーっと、地酒のコレ。えっ。あ、じゃあ四合瓶あるならそっちで、ぐい吞みもう一つお願いします」

 新酒の瓶といっしょに置かれたのは安い信楽だったが、底の模様がなかなか面白く見えて酒に映えると思われた。

「そっちのほうが良かったな」「交換は厭だぞ、ぼくは」「言っただけだろ……アッこれめちゃ旨い……」「当たりだ。撮っとこ。通販してるかな」「すげーすっきり系なのにがつーんってくるな」「君こういう味の酒大好きだよな。ぼくはもうちょっと辛くてもいいけど、いいねこれ」「ヤバいな、四合くらいすぐ空きそう」「すいません、水と……ぬか漬けください。二つ」「ご苦労」「ぼくも進みそうだからな……」「酒ってのも色んなものが複合的に、発酵とかいろいろやって出来上がっているんだよな。これって表現とは言えませんか?」「どうかな……敬語気持ち悪いしそれは否定しときたい気分だな」「杜氏さんとかの職人の仕事って表現って言ってもいいと思ったんだけどな」「うーん……かなり拡大した感じになると思うな。選択せず全部混ぜちゃったら収拾つかなくない?」「確かにそうかもしれん。ちょっと話し戻していいか」「うん」「選択ってことが大事なのかもしれんと思って」「表現の中で?」「そう。あいさつのくだりで思いついたけど、意味を混ぜて伝えるって言ったけども、実際あれは受け手側の問題でもあるよな」「受け手側か」「おはよう、ってニコニコしてても内心コイツいつか考え付く限りむごたらしく殺すとか思ったことあると思うんだけど」「急に闇を見せてくるなよ、びっくりするだろ」「でも言われた側は読心能力がないので、殺意を向けられてもわからないことが殆どだろ」「まあ、それはそうかもね。ぼくは何となく漠然と悪意あるなってのはわかる」「目を見たらわかるとかいう感じの?」「いや、雰囲気でしかないから当てにならないけど、でもひり付くことってない? 後頭部のあたりがぞわぞわする感じ」「的中率によってはカッコいい能力になるな」「低いからね。ダメなんだけどね。それはそうと、受け手側の感受性って話になってくるのかな」「そうそう。表現する術があっても、それを適切に受け止めて反応できるかってことも大事じゃないか、と」「コミュニケーション能力……!」「緊張感を持たせようとするな。そういう話ではあるけど。出す方は出す意思があって、アウトプットの方法を選択して、まあ絵でも文章でも映像でもいいけど、じゃあそれを受ける側は?」「わざと悪意ある受け取り方をすることも、まあできないこともないから、そこで歪みが起こることもあるだろうな」「じゃあ表現する術ってのも、片方だけに限って考えるべきなんだろうか、とふと思った」「例えばうんこしようとして便座に座るけどそれは便座ではなく居酒屋の丸イスにすり替えられていたら大変なことになる、って話だな」「全然違うよ」「どて焼きの残った汁ってさあ」「続けようとするんじゃあねえよ。どの口で思考に品がないとか抜かしたんだオマエ」「ええ……そんな昔のこと今言う? やべー女みたいなやつだな」「地獄に落ちろ。そうじゃなくて、表現する術ってのも双方向で考えるべきなんじゃないかってことだよ」「双方向ってもっとロン・パールマンみたいに言ってくれ」「双方向だ! 満足か?」「似てた。ケンコバの物まねで食えるよ君。けどそれもとっちらかる方向にいかないか? 今の問題は表現する術。する側の立場に集中するべきだよ。興味深い話ではあるけれども、議題……議題ってほどたいそうじゃないな。本題? テーマ? まあ、そういうのから大きくずれた話になっていくんじゃないか。健康的な排便のための話なのに便所紙の質についての話になるっていうか」「離れろ。さっさと個室から出ろ」「でも個室の中の話じゃないか」「テーブル席で酒飲みながらの話だよ。うんこから排便に表現を変えたのは評価してもいい」「ぼくらメシ食いながら排泄物の話してる」「オマエのせいだよクソ野郎」「うまい」「黙れ。うまくないしなんか酒も色みがかっててなんか厭な気持になってくるだろうが」「最悪やね」「笑うな」「もっと濃い黄色のビールが欲しくなるな」「オマエ頭おかしいんじゃないの。あ、スイマセン、これもう一本おかわりと、ビール、大? 大でください。あと皿下げてもらっていいですか」

 生ビールの泡は見事な黄金比であり、栓を開けたての新酒の香りは変わらず鮮烈で、これはぜひとも魚のあぶらが必要であると二人は結論し、それぞれがそれぞれに鱧天と戻鰹を注文した。

「でもまあ確かに、『する』術だからな。今の場合はそっちで考えた方がいいか」「となると、割と煮詰まってはいるように思うな。表現とはコミュニケーションのためのものであるとすればぼくはしっくり来る感じだ」「伝えるものってわけだから、ざっくりそう考えていいのかな。つまりどういう媒体であれ、伝達する意思があれば表現?」「そこで術だ。伝達する意思があるとしよう。それをここで、例えば手紙を書くとする。文章でも絵手紙でもいいよね」「表現して送るわけだ」「そう。で、どうやる?」「普通に書く、絵手紙なら絵を描くことになるわけだな。ああ、そうか、単純にアラブ人に手紙を送るのに日本語で書いても伝わらないな」「アメリカ人に暑中見舞いですってゆでたトウモロコシの絵手紙を送っても、はあ? ってなる」「ズレてしまうってことが起こるな。そこを調整するのが術になってくるか」「表現って概念が曖昧だと思うんだけど、術ってテクニックのことだってわりと共通認識だと思う。まあそもそもたぶんそれ出題した人、表現する術ってわざわざ指定してくれてるってことはさ。『表現する術』についてどうこう考える手間を省いてくれてるってことじゃない?」「なんかめっちゃ無駄話してる気がするな」「無駄話ほど楽しいことがこの世にあるか?」「めちゃくちゃたくさんあると思うけど、まあ中の上くらいには面白い」「いい人生送ってるね」「嫌味か?」「違うが、今ぼくの表現を悪意に満ちて解釈したね」「本気で本心からの言葉しか出てきてないと考えると、なんかオマエちょっと嫌な奴になってこない?」「解釈は人それぞれだけど、ぼくはいつも真面目に生きようと思ってる。お母さんがそうしなさいって」「ちょくちょく何か気持ち悪いよな」「それは正直狙ってるところはあるね。こういうのも表現する術と言えなくもなくも無いこともないような」「語尾も大事だってことを言いたいんだな。わかるよ。でもめんどくせえよ」「分かってくれてうれしいことだと思うよ」「素直さは美徳だとは俺も思うんだけどなあ……。俺が悪いのかって思わせようとしてる?」「別にそんなことはない。さっきから勘ぐりすぎているきらいがあるね。表現する側と受け手側の話をしたからかな」「かもな」「じゃあ急だが、それを持たない者とは何者だろうね」「表現する術を持たない者、」「の、表現。それが一連のテーマだろ」


『表現する術』を『持たない者の表現』


『『表現する術』を『持たない者の表現』』


「……居るかあ?」「そこに疑問持っちゃう?」「ここまでの話だとさ。だってそうだろ、ざっくり言っちゃうと、表現する術を持たない者自体が考えにくくない?」「例えば筆やペンが持てないとか」「プラス、喋れない」「でも君がチラッと言ったように、目を見てちょっとした感情の機微を読み取るみたいなことも不可能かな」「いやそれは、でもまあ受け取る側がわかれば、それで表現しているってことにもなるか」「表現って言葉を基本的に広義に捉えるなら、なる」「イエス・ノーも表現、意思表示? そういう手段も含めればな」「つまり、一切体を動かすことも出来ない、目を開けるのも無理、開いてる状態で固定としても眼球がピクリとも動かせない。そんな状態は表現できない状態、つまり表現する術を持たない者になりえる」「かもしれんけど、じゃあそいつが表現するってのはどうなるんだろうな」「バッサリ話を終わらせるなら、表現する術を持たないってことはつまり表現する術を持たないということですので、表現できないということです、みたいな政治家話法になる」「政治家話法ってなんだよ。限定的すぎるだろ。そうだな……じゃあ、どうすればできるようになるか、って方向にいくとどうだ」「うーん。どうだろ」「意思があるとしよう。パッと思いつくそういう状態をあらわす単語って植物状態みたいなことだけど、意識はあるらしいってのを何かで見たことがあるな」「SF的な話題になりそうだけど、脳と機械を直結して思考を直接言語入力しますみたいな技術が一般化したら、できるよね」「現状は無理ってことになるし、なんか暗い話だな」「未来のことを話すのに暗いとはなんだ。技術革新はすぐそこだと考えるんだ」「それなら機械の体に脳みそだけドンと移植、ってのもアリになるんじゃないか」「もちろんアリだと思うよ。謎の巨大シリンダーに浮かぶ脳髄が世界征服をもくろむみたいな絵面でもいいな。それかもっと小型の脳ポッドみたいなのを搭載した小型戦車」「全然かけ離れた話になってきてるじゃねえかよ」「好きなんだよね。まあ、そこまで極端な話は想定しないとして、つまり前提としてぼくと君はさ。表現する術はテクニックであり、テクニックであれば習得が可能である、という、こういうふうに認識してる気がするんだよね」「あー。それはあるかもな。でも実際問題として、アラブ語習うか?みたいな」「着眼点としてその点はすごく大事じゃないか。それが『持たない者の表現』として成り立つような気さえする」「確かにそうだな。うん。


『ひょっとして、日本語で書いたり喋ったりしててもさ、その書き方とか、言い方とか、句読点の打ち方やら段落やら、あるいは』


『人称が曖昧だったり、誰が何を話しているのか分からなかったり、そんなことで伝わらない場合もあって、それは表現する術として成り立つのか?』


って問題はあるよな」「そこが受ける側の問題なのかどうか、って話でさ。でも人それぞれだからで済ますやり方もあるよ。そのほうが簡単、イージー、お手軽だし、何より楽だ。表現する側も受ける側も」「待てよ。なんだかものすごく適当で曖昧な着地点に落着しそう」「人類全体が共通の哲学を共有してるわけでもないし、同じ言語でも共感性が担保されるわけでもない以上、そこは仕方なくない?」「話に飽きてきただけって見方もできるな」「そういうわけでもないけど、そろそろ酔いがね」「ああ、俺も職場の飲み会でよくやるやつな。話切り上げるのにちょうど良いっていうか」「やっぱり君、ちょっと悪意に染まりすぎだろ」「揚げ足取るのも好き」「どの口でぼくにひどい罵倒語を言い放ったんだよ」「この口だが、見てなかったのか?」「そういう表現は記述に無かったはずだからね。君もたいがい飲んだろ。もう空っぽだし」「まあそうかな……確かにだいぶ酔ってる気がする。もう一軒いく?」「いいけどその前にコンビニ寄って、それから一服したいかな」「その間に醒めるか」「ぼくの肝臓そこまで働き者じゃないんだよな。お勘定お願いします」「割り勘な」「ぼく大きいのしかないから出しとく。……次の勘定持ってくれたらいいや」「おう。じゃあそれで。ごちそうさん」「行くか」「行こう」「行こう」

 二人分の勘定は7160円であった。

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