第22話 テーマパーク内のレストランって……

 リタイヤする事無く、ゾンビの巣食う洋館から無事脱出した俺と岩橋さんを先に出ていた六人が驚きの表情で出迎えた。俺はともかく岩橋さんがリタイヤせずに出て来るとは誰も思っていなかったらしい。早速藤崎さんを先頭に女の子三人がこっちに来たぞ。コレはまた、男のグループと女の子のグループに別れる流れだな。


 俺は空気を読んで岩橋さんから離れ、男三人の方に足を向けると、女の子達が話をしているのが聞こえてきた。


「沙織ちゃん、怖く無かった?」


「凄いわねー。私、途中でギブアップしちゃった。よく大丈夫だったわね」


 どうやらリタイヤした女の子もいた様だ。俺には全く記憶が無いけど、そんなに怖かったんだ。岩橋さん、頑張ったんだな。

 女の子達がアトラクションの話題で盛り上がっているというのに男共と来たら俺が話に加わった途端、身も蓋もない事を言い出しやがった。もちろん女の子には聞こえない様に細心の注意を払って。


「加藤、どうだった? 岩橋とは」


「岩橋、おとなしいからな。暗闇に乗じて迫ったらキスぐらい出来たんじゃ無いか?」


「いやー、加藤にそんな根性無いだろ。せいぜいお触り程度と見たな」


 何て下品なヤツ等だ。そんなんだからお前等『彼女居ない歴=年齢』なんだよ……俺もそうだけど。


「んな事する訳無いだろ。そーゆーお前等はどうだったんだよ?」


 あまりの言い草に呆れながら俺が言い返すと、藤崎さんとペアだったヤツが得意げに言った。


「ああ、俺、イケるんじゃねぇかな。藤崎さん、ずっと俺にべったりだったからな」


 おいおい、えらい自信満々じゃないか。俺がホラーハウスから出て来た時はそんな風には見えなかったけどな。そう言えば藤崎さんとコイツは最初に入ったんだっけ? だとしたら出たのも一番だった筈だ。となると、二番目に入ったヤツが出て来るまで二人きりになる。その間に何か進展があったとでも言うのか? いや、リタイヤした子もいるんだからそんなに長い時間二人っきりには……って、どうでも良いか、他人の事なんて。


「おう、お待たせー」


 和彦と由美ちゃんが出て来た。余裕綽々の和彦の腕に由美ちゃんは思いっきりしがみついている。コレは、イチャイチャとかそんなんじゃ無く、ガチで怖くてそうしてるんだろうな。よく見ると由美ちゃんの顔は青ざめているし。


「さあ、メシ行こうぜ」


 和彦が笑顔で言うが、由美ちゃんはボソっと呟いた。


「カズ君……私……食欲無い……」


 いったいどんな恐ろしい目に遭ったと言うんだ? 俺は岩橋さんの手の感触に夢中で全く記憶に無いからな。後で岩橋さんに聞いてみようか? いや、そんな事をしたら岩橋さんが怖かった事を思い出しちまうか。やっぱり和彦に聞くとしよう。


 時間は午後二時。ランチタイムとティータイムの間、飲食業界で言う『アイドルタイム』と言う時間帯で、比較的空いている筈だ。だが、さすがに十人もの大人数ともなると一つのテーブルに着く事は出来ず、六人と四人に別れて座る事になった。もちろん四人テーブルは和彦と由美ちゃん、そして岩橋さんと俺だ。この席分けに異論を唱える者など居ない。この四人で弁当を食べているのを皆知ってるからな。


 あれっ、和彦と由美ちゃんは付き合ってる訳で、その二人と一緒に弁当を食べてる俺と岩橋さんって、やっぱりそういう風に見られてるのか? いや、男共は誰も岩橋さんには興味無いからどうでも良いんだろうな。岩橋さんが実は美少女だって知ったら皆どう思うんだろう……掌を返した様に言い寄ったりするんだろうか……?


 前にも言ったが、テーマパーク内のレストランは財布に優しく無い。そこらのファミレスで数百円のメニューがココでは千円オーバーなんだから高校生としては辛いトコだ。俺は比較的リーズナブルなカレーライスにしたが、和彦はもっと高いモノ、そうだな、ハンバーグやらエビフライやらがセットになった『にゃんふらわあプレート二千八百円(税別)』でも選ぶんだろうか……って、ココでも『にゃんふらわあ』推しかよ!

 なんて思っていると、和彦の口から意外な言葉が出た。


「じゃあ、俺もカレーで良いや。由美はどうする? あんま食欲無いんだったらサンドイッチにでもしとくか?」


 多分、由美ちゃんの分も出してあげるんだろうな。で、俺だけ安いメニューだったら岩橋さんの前で恥ずかしいだろうと、和彦もカレーにしてくれたんだ。俺は知ってる、コイツはそういうヤツだ。そう思ったと同時に、俺はある事実を思い出した。


 ――そういえば岩橋さん、高級マンションに住んでるって事は、やっぱりお金持ちのお嬢さんなんだよな――


 越えたくても越えられない壁が俺と岩橋さんの間に立ちはだかった様に思えた。だが、その壁は岩橋さんの言葉で一瞬にして瓦解した。


「じゃあ、私は『かるぼにゃーら』にしようかな」


『カルボナーラ』では無く『かるぼにゃーら』って、ドコまで『にゃんふらわあ』にこじ付けたいんだ! ちなみにこの『かるぼにゃーら』は俺が選んだカレーと同価格帯のリーズナブルなスパゲティだ。岩橋さんも俺に気を遣ってくれたんだな、きっと。


 遅いランチを終えた俺達はまたパーク内をブラブラし、楽しい時間を過ごした。だが、楽しい時間はいつまでもは続かない。そろそろ帰らなければならない時間となってしまった。岩橋さんには門限があると言うのだ。


「ごめんなさい。私だけ先に帰るから、皆は気にしないで楽しんで」


 岩橋さんが申し訳なさそうに言うが、和彦はそれを許さなかった。


「ダメだ。皆で来たんだから皆で帰るぞ」


 和彦ぉ、お前はドコまで男前なんだ! もっとも皆が残って岩橋さんが帰る事になったら俺も帰ってただろうけどな。


 そんな感じで楽しい一日は終わった……進展は無かったけど。いや、手は繋げたんだ。ほんのちょっとだけ進んだと思いたい。


          *


 翌朝、いつもの様に岩橋さんはマンションのエントランスで俺を待ってくれていた。そしていつもの様に並んで学校に歩いた。もちろん手を繋いで……いる訳が無い。根性無しの自分が悲しい。ついでに言うと、後でわかった事なんだが昨日のうちに成立したカップルは無かったらしい。まあ、そんなもんだろうな。




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