第21話 イケメン眼鏡サイコパス

 学校前のハンバーガーショップにて島屋と一緒に入る。


 入れば必ずウチの学校の生徒が複数グループ見えるのだが、今日に限ってはウチの制服を着た人物は一人だけだった。

 野球帽を深く被った女生徒。野球部のマネージャーみたいな感じでハンバーガーを食べている。

 もし、掘られたら頼むぞ。マネージャーっぽい人。叫ぶわ。


「色々聞きたいことがある」


 ハンバーガーに手をつけずに島屋が口を開く。


「んもぉ? もぐもぐ……おおん」


 こちらはハンバーガーにかぶりつきながら反応を示す。


「最近やたらサッカー部を付けてるよな?」


 バレてたか。いや、バレるわな。こちらもバレてないとは微塵も思っていない。なので動揺はしなかった。


「もごぉ」

「口の中のものを食ってから答えてくれ」


 段々と呆れてきたのか、島屋はため息を吐きながら眼鏡を、スチャリンと整える。


「ゴックンヌ──付けてる? 俺がサッカー部を?」


 もごぉの時に色々考えたが、ここは、しらを切るを選択しておこう。肯定すると『じゃあどうして?』とか『なんで付けてる?』と相手の質問に複雑に答えなけらばならない。そこを否定することによって『ほんとか?』って質問になるはずだ。そのイエスかノーで答えるだけの質問の方が良い。


「いや……ほんとか?」

「イエス」


 頷いた後、すぐに彼に質問をする。


「てか、なんで俺と話ししたいんだよ? 初対面でこんなところ呼び出して」


 相手によるが、大概の人は、自分も質問したし、相手の質問に答えなければならないと思うだろう。ここで俺が質問権を行使し、こちらが質問する側に回ることで、サッカー部を付けていた件を誤魔化そう。


「あ、ああ。すまない。急に」

「別に、暇だし良いんだけどさ。なんで?」


 こちらの質問に島屋はすぐに答えてくれる。


「高槻と、ええっと……上牧……? って付き合ってるのか?」

「え……」


 思ってたのと違う奴が釣れたわ。


 いや、釣れたのは良い。良いんだけど、俺はラブコメ野郎を釣りたかったんだよ。それがなに? ラブコメ野郎の友人キャラが釣れたよ。


「なに? カスミのこと好きなの?」

「そうじゃない」

「じゃあ……なんでそんなこと聞くんだ? 初対面の奴の恋愛事情なんて興味ないだろ?」


 質問する側は楽だな。?付けとけば良いんだから。


「お前と上牧が付き合っていては困るんだ」


 真剣な顔をして言い放ってくる島屋が理解できなかった。


 めっちゃ怖いお。この眼鏡。イケメンで眼鏡だからサイコパス感が否めないよ。ある特定の女子には人気出そうなキャラ付けだけど、現実にいたら怖い奴だお。


「好きでもない女の子が俺と付き合ってても問題なくない?」

「ある」

「なに?」


 質問権をフルに使わせてもらっての質問攻めに島屋は眼鏡を、スチャリーヌしながら言い放つ。


「高槻には小山内と噂になってもらわないと困るんだな」


 その眼鏡が怪しく光る。


「ふむ……」


 いやいやいや! 意味わからん。一旦「ふむ……」とか言って冷静を装っているけど、内心の焦りは相当だからね。自分がどっちの手でバーガー持ってるか一瞬わからなかったほどに動揺してるからね。


「な、んで?」

「俺がお前と小山内の噂を流したからだ」


 ドチクショー! 更に動揺を加速させること言いやがった。ここで動揺のギアチェンジかよ。ニ速から五速にギアチェンジだよ。──エンストするわ! ボケっ!


「え、ええっと……ゴシップ大好き健一郎くん?」

「島屋純だ。健一郎要素はどこからくるんだ?」

「さ、さぁ……」


 空笑いを浮かべながら健一郎くんに尋ねる。


「どうしてそんな噂を流すんだ?」

「俺が小山内を好きだからだ」


 リアルドチクショーサイコパスかよ。

 ああ……日曜六時半のワ○メちゃんの気持ちがわかるわ。リアルガチサイコパスと遭遇するとこんな感情なのね。ワ○メちゃんはすごいよ。小学生なのに耐えてる。俺は高校生だけど耐えれないかも。恐怖だ。


「ごめん。意味がわかんない」

「ああ……。高槻は小山内さんに幼馴染がいるって知ってるか?」

「幼馴染?」


 とりあえず知らんふりしとこ。怖いし。


「俺と同じサッカー部の南志見拓磨ってのと幼馴染なんだ。二人は別に隠しているわけでも、公表しているわけでもない。だから、あまり知られてない」

「へぇ」

「俺は拓磨が小山内を好きなのを知っている」

「ほぅ」


 良いぞ! リアルガチサイコパス。良い情報がいきなり降ってくる。


「──って言っても、俺のただの勘だけどな。拓磨はそんな話ししないし」

「ほんほん」

「でも、俺は小山内を好きになってしまった」


 事情が変わった。


「詳しく」

「最初はなんとも思ってなかった。こいつら早く付き合えば良いのにとか遠目に見て思うくらいだったけど、なんかさ……。いきなり好きになった。理由は特にない。強いて言うなら顔かな」


 確かに小山内さんは可愛いからな。


「はは。発言がゲスだな。俺。──でも、好きになったのは本気だ。付き合いたいって思う。でも、幼馴染には勝てない……」

「あ……」


 俺はつい声を漏らしてしまった。


 先生の言葉を思い出したからだ。


「それで俺と小山内さんの噂を?」

「まぁな。上手くいくとは微塵も思ってなかった。でも、意外と拓磨にダメージがあってな。全然小山内と絡まなくなった。これって神が俺に味方してるんじゃない? って思ってな」


 だから、と島屋が俺を睨むように見てくる。


「お前が他の女と付き合ってるのが広まれば困る。別れてくれ」

「は!? 意味わからん!」


 いきなりの提案に俺は声を荒げてしまう。いや、付き合ってはないけど、いきなり物凄いこと言ってくるからさ。


「それって、俺たち関係ないだろ」

「そうだな。でも、俺のために別れろよ」

「おうおうおう。物凄い自己中な性格だな。いや自己中とかのレベルじゃないぞ」

「せめて、俺たち付き合ってるアピールはやめろ。この前も警官の前でやってたろ? 誰かに見られたらどうするんだ?」

「どうもしねーよ!」

「お前、俺の計画が狂ったらどうするんだよ?」

「どうもしねーよ! それこそどうもしねーよ!」

「計画の邪魔をする奴は消すぞ」


 もう怖いよこの人。サイコパス診断したら、真のサイコパスだよ。


「あのさ……。それを俺に言ってもよかったわけ? 南志見にチクるかもだぞ?」


 そう言うと島屋は眼鏡を、スチャリンコしながら「あーはっはっ!」と高笑いをする。


「拓磨が仲良くもないお前を信じるか、仲間である俺を信じるか。そんな答えが分かりきったことをするのか?」

「で、ですねー」


 なんか、テンションも怖い。もう、この眼鏡くんの全てが怖いわ。


「お前と小山内が噂になってくれてる間、拓磨がダメージを受けて萎えている間、俺は小山内との関係を進める。よって高槻と上牧は別れるべきだ」


 自分のゴミカスな意見を言ってきて、もう呆れるしかないと思っていたところに「別れないもん!」と声がしたと思ったら、いきなり隣にいい匂いがして、腕が幸せな感触に包まれる。

 さっきの深く帽子をかぶっていた女生徒だ。


「私とレンレンは別れない!」

「カスミ……」


 この腕の幸せの感触はカスミパイだったか。お前……制服越しでこの感触なら、生乳はどうなるんだ? 飛ぶぞ? きっと。


「ふっ。まぁ良いさ。計画はちゃくちゃくと進んでいる」


 そう言って島屋は立ち上がる。


「お前たちが別れない意思を見せない限り、俺は破壊尽くすだけだ。小山内と結ばれるためにな」


 あーはっはっ! とたか笑いを浮かべて店を出て行った。

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