第22話 サボテンで接触

「やなやつやなやつやなやつやなやつやなやつやなやつ」

「カスミ。開幕いきなり怖いからやめろ」


 学校の最寄駅のホーム。電車を待つベンチでカスミは呪うように呟いていた。


「だって! レンレン! あんな……あんな人に……」


 顔を苦ませ、手を握りしめる姿は誰がどうみても悔しがる人の姿にしか見えない。


「レンレン! このままじゃ小山内さんと南志見くんが──」

「チョップ」


 軽く頭にチョップを放つと「あでっ!」とどこかで聞いたような声を上げる。


「な、なにするの!?」

「落ち着けよ。なにを焦ってんだ?」

「だって……だってこのままじゃ、眼鏡の人に小山内さんが──」

「チョチョップ!」

「あでっ!」


 二回目のチョップを放つ。


「なにを『このままじゃ世界があいつに支配される』みたいなテンションで言ってんだよ」

「テンション的にはそれで正解だよ。黒幕が登場したんだよ!? なんでレンレンはそんなに落ち着いているの!?」


 その質問に俺は大きくため息を吐いた。


「カスミ……。お前色々ごちゃごちゃになってるわ。なんか健一郎──島屋があたかも自分有利な言い方してたからか? 普通に考えろ。俺たちは結果を知ってるんだ」

「あ……」

「俺たちは結果を知ってる。ただ経過を最高のものにする為に動いているんだ。それをあいつは知らない。だからあんな中二病爆発な発言ができるんだよ。見ててさぶいぼでたわ」

「さぶいぼて……。トリハダでしょ?」

「それそれ。あまりにもだったから方言出たわ。それよか、カスミもカスミだわ。なに? あの熱い感じ」

「や! えとえと──ええっと」


 ジト目で見てやるとカスミは、あわあわと慌て出す。


「そ、それは……」

「ま、それくらいカスミに熱い思いがあるってこったな」


 こちとらそれで腕が幸せファッキャーだったのでなにも言うことはない。むしろもっとやってほしい。カスミのエロい。


「うん。なんか、盗み聞きしてたらムカムカしてきてね。あんな人、小山内さんに相応しくないと思って」

「熱いな。でも、そういうの良いな。青春っぽくて」

「青春かぁ」


 カスミがつぶやくと目の前に電車がやって来る。


 プシューと扉が開いたので俺たちは乗り込んでいつもの席に腰をおろした。


「でも、まぁ……あのさぶいぼファッキン眼鏡イケメンサイコパスのおかげで良い情報は入ったな」

「あ、南志見くんが小山内さんを好きって話しね」


 カスミの答えと同時に電車が動き出した。


「聞こえてた?」

「まぁね。私、耳超良いから」


 ドヤ顔で自分の耳を強調してくる。


「今までの傾向から南志見は小山内さんが好きってことで確定で良いだろう」

「幼馴染だし、レンレンと小山内さんが噂されて萎えてるって感じだもんね」

「ああ。だから──だから──」

「レンレン?」

「ああああああ!」


 俺は頭を抱えて叫ぶ。この時間のこの車両に人がいなくて本当に良かったと思う。


「レンレン!?」

「カスミ! カスミいい!」


 俺はカスミの肩を掴んで揺する。


「やっぱじゃん! やっぱり俺たちは両片思い見せられてるだけじゃん! くそがああ!」

「まぁある程度予想はしてたけどね」

「くぞおお! あいつらぁ……」


 俺は右手で拳を作り、それを左手に殴る。パシッと良い音がした。


「南志見をコロす」

「そんなこと言って、南志見くんに接触してないじゃん」

「する」

「え?」

「今度あいつにサボテンを披露する。手伝ってくれカスミ」

「サボテン? サボテンって……。手伝う? え? もしかして組体操のサボテン?」」

「それだ」

「なんで組体操のサボテンを南志見くんに披露するの?」

「初対面の奴らがサボテンで迫ってきたら怖いだろうが」

「恐怖だね。トラウマだね」

「そう。奴は精神的にコロすことにした」

「そゆこと……」


 呆れた声を出したあとにカスミは聞いてくる。


「南志見くんに直接話すの?」

「できれば関わらずに終わるのが良かったんだけどな」

「まぁ散々語ってたしね」

「もう充分だろ……」


 つい、ボソッと言ってしまった。


「ん? なにが?」


 それを拾われて少し、ヒヤッとするがすぐに答える。


「情報は充分だろってこった」

「決定打にはかける気はするけどね」


 そう言われて大きく頷いてしまう。


「結局、南志見が小山内さんを避けている理由までには届かなかったな。でも、南志見本人に聞かずにここまで来れたら良いだろ?」

「それはたしかに。本人に聞けば一番早い問題な気もするけど、ここまで本人に接触しなくて、これだけの情報は凄い方だと思う」

「持ち上げあざす。とりあえずファーストコンタクトは依頼の件とは無縁のパターンでいく」

「佐藤くんパターンね」

「できればそのパターンでいければ良いけど……」


 不安な声を出すとカスミが首を傾げてくる。


「なにか不安?」

「ああ……。南志見は俺の名前だけは知ってるだろ?」

「幼馴染と付き合ってる噂の男ってことで知ってそうだね」

「そうなると佐藤パターンの絡みはちと難しいかも……」

「どうして?」

「野球部、サッカー部の連中の絡みの基本は適当にチョケとけば良い」

「実際に目にした感じだよね」

「でも、一度敵と見なした奴はとことん敵と判断する」

「それは──野球部、サッカー部関係ない気が……」

「佐藤パターンオブザチョケでいった場合フル無視で終わる可能性がある」

「そうなると話しにならないね」

「だから……カスミ」


 俺は、ジッとカスミを見る。


「え、な、なに?」

「力貸してくれ」


 真剣な眼差しで言うとカスミは顔を赤くして頷く。


「うん。私にできることがあれば言って」

「よしっ! じゃあサボテンで絡みに行くぞ」

「結局サボテンかーいっ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る