第6話 恋愛相談②

「二人は知り合いだったんだね」


 言いながらカスミが俺の隣に座る。


 別に俺のことが好きだとか、そういうのではないのだろう。

 依頼主の隣に座るなんてことはしないだけだ。それだけだ……。なんか、ちょっと悲しいな。


「元クラスメイトだよ」

「うん。結構仲良いいよ」


 俺の答えのあとに小山内さんも続いた。


「レンレンって、女の子と喋れるんだ。意外だね」


 カスミの言葉に小山内さんが、まじであだ名で呼んでるんだ、と言わんばかりの顔を見した。

 しかし、それよりも今はこいつの言葉だ。


「失礼なやっちゃな。カスミほどじゃないが、俺も人並みのコミュ力がある」

「へぇ。意外。根暗ぼっちっぽいのに」

「どこらへんがだよ!」

「顔」

「無理やん! 変えられへんやん! 性格なら変えれるけど、顔は無理やん」

「整形があるじゃん」

「時間かかるやん。授業出れへんやん。整形で授業出れんくて留年とか笑い話にもならんやん!」

「やんやんうるさいよレンレン。ほら、依頼主さんの話を聞かないと」


 こいつ酷い女だ。


 俺達のやり取りを見て、クスクスと笑っていた小山内さんへカスミが胸ポケットからメモを取り出して問いかける。


「それで、その……小山内さん。相談内容なんだけど……。私達……に、ど、うして欲しい?」


 どこか、チグハグとした言い方が怪しい。どうも自分の言葉ではなさそうだ。


「恋愛相談を受け、て、応援することはできる、け、ど、成就する、保証は、ない、よ」

「うん。わかってる。そんなことなら、みんな上牧さんのところに来るよ」


 小山内さんは優しく頷きながら言い放った。


「私は拓磨が好き。付き合いたい。恋人になりたい。でも、告白する勇気が出ない。今までの関係は心地が良いんだ。物凄い。このままでも良いかなって思う時もある。だけどね……。拓磨が、もし、誰かと恋人になったら、私、耐えられない。告白しておけば良かったってなると思う。だから、告白する手伝いをして欲しい!」


 小山内さんの胸の内を聞くとカスミは「ステキ……」瞳を、うるうるさせていた。


 俺も少し感動した。


 どこか使い古された、どっかの幼馴染ラブコメでみかけたことがあるセリフ。それが、現実で、本気の恋のセリフとして聞くと、ジーンとくるものがある。


 カスミは腕を伸ばして小山内さんの手を、ギュッと握りしめた。


「私、応援する。全力で手伝うね。小山内さん」

「だな」


 まぁ。俺もやらないと停学になるのでね。

 なんて言い訳をするが、今の小山内さんを見ると手伝ってあげたくなった。全力で。


「ありがとう。二人とも」


 小山内さんは嬉しそうに言ってくれる。


「──でもさ。手伝いなんてしなくても、小山内さんが今の感じで告ってもイケるんじゃない?」

「そうなの?」


 カスミが小山内さんの手を離して、座り直す。


「今のストレートなセリフを告白のセリフに置き換えて面と向かって言ったらいけるだろ。幼馴染なんだし、思い出の場所とかに呼び出してさ」

「そんな簡単にいくかな?」


 カスミが首を傾げる。


「普通に堕ちるな。俺は堕ちかけた」

「あ、ごめんなさい。今の流れで告白とかキモいです。あとキモいです」

「カスミに言ってないだろうが!」


 そう言うと小山内さんも「ごめんなさい」と乗っかる。


「普通にフラれたわ」

「あはは。──って、冗談はさておき、それがさ高槻くん。最近、拓磨の様子が変で」

「なぬ? 事情が変わったな」

「小山内さん。詳しく聞いても良い?」


 カスミの質問に、コクリと頷いて説明してくれる。


「ちょっと前までは、今までと変わらずに、朝起こしに行ってあげて、朝ごはん作ってあげて、一緒に登校してたんだけど──」

「よし。今すぐコロそう。南志見とかいうやつ。今すぐコロそう」

「待ってレンレン! 落ち着いて」

「落ち着けるかっ! 男の妄想を具現化しやがって! そんなラブコメの主人公みたいなやつは処刑じゃ!」

「話しが脱線してるから! このままじゃらちがあかなくなるから! 落ち着いて」


 どうどう、と俺の背中をさするカスミ。


 これはこれでアリだな。


「ごめんなさい小山内さん。これは放っておいて続けて」

「あはは……。それが最近『朝起こしに来るのはもう良いよ。学校も一人で行くから』って言われて」

「南志見の野郎。どんな見た目のやつか知らんが、小山内さん泣かしやがって! 許さん! 処刑じゃ!」

「どっちに転んでも南志見くん処刑なの!? てか、小山内さん泣いてないから!」


 どうどう、と──以下同文。


「L○NEも素っ気ないし……。もしかしたら彼女でもできたのかなって……不安になって……」

「よし。今すぐ──」

「南志見くんに彼女がいるかどうかはわかる?」


 あ、無視ですか、そうですか。


「ううん。わかんない。一応、周りの友達とかに確認してもらったんだけど、そういうのはいないって。でもね、私、怒らせるようなことはしてないんだよ? なのにいきなり素っ気なくなったからね……」

「ふむ。なるほどな。オーケー。とりあえずこれからやることはわかった」

「レンレン? どうするの? コロすの? だめだよ?」

「コロさないさ」


 ビシッと親指を突き立てるがカスミは安心していなかった。


「告白するにしても、相手に彼女がいないのを確実なものにしないとな。そんな不安を抱えたまま告白しても意味ないだろうし。だから、南志見とかいうラブコメの主人公みたいなやつの彼女の有無を調べる。それがこれからやるべきことだ」

「なるほど! レンレン、ふざけたのにオチは真面目に答えた」

「優等生だからな」


 そう言うとカスミは疑うような目をして、すぐに小山内さんを見る。


「小山内さん。南志見くんの彼女がいるのか、いないのか調べたらまた連絡するってかたちで良いかな?」

「うん。お願いします」

「よしっ! 話はまとまった。動き出すのは放課後からだな!」

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