第7話 レッツストーキング

 小山内さんから聞いた情報によると、南志見拓磨というラブコメ主人公みたいな奴は三組に所属しているらしい。


 幸運なことに、我が五組担任のヤーさん三十路おばちゃん──もとい、富田先生の帰りのHRは二年の中で最速を誇る。

 今日も最速でHRが終わり、俺はダッシュで三組の前までやって来た。

 やって来たのは良いけど──顔知らんがな。


 しまったな……。小山内さんに聞くの忘れてた。あのあと、普通に雑談してたから普通に忘れてた。普通にどないしよ。


「あ、レンレン!」


 俺とは反対方向の廊下からやって来たカスミ。


 どうやら、一組もHRが早かったらしい。


「カスミ。大変だ」


 俺の前に立つ彼女へ事の重大性を話す。


「南志見とかいう奴の顔を知らん」

「だよね」


 言いながらカスミはブレザーのポケットからスマホを取り出して画面を俺に見せる。


「だから、小山内さんに写メもらっておいたよ」

「おお! 凄い! カスミ! 凄い!」

「え? 凄い? 私、凄い?」


 えへへ、と可愛らしく笑いながら胸を張る。


「うん! 私、凄い」


 ああ。凄い胸だ。うずくまりたい。


「しっかし、あれだな。うん。ちゃんとイケメンだな」


 写メに映っている小山内さんとのツーショット。

 どちらも運動部に所属する爽やか系の美男美女って感じでお似合いの二人である。


「そう……なの?」


 写メを見て首を傾げるカスミ。


「これを見て疑問に思うなんて、お前の判定は厳しいな」

「あ、い、いやー。その……。男の人のかっこいいってイマイチわからなくて。あはは」

「ふむ。好きな芸能人とかいるのか?」

「げ、芸能人!? え、えとえと……」


 カスミはどこか、アタフタとする。

 女子高生ってこういう話題多いんじゃないの?


「えとね……。ええっと……。あ! 神奈川流星(かながわりゅうせい)とか!」

「ふぅん」


 なんか、知っている俳優を適当にあげてみた感じの物言いだ。

 しかし、彼もイケメン俳優で、ブイブイ言わせているのは本当だ。


「ああいうのがカスミのタイプか」

「そうなんだよねー! 面白いよねー!」

「面白い?」

「え?」


 どこか話が噛み合わないところに三組のドアが開いた。

 そこから人が出てくる、出てくる。


「レンレン。そんな話ししてないで、南志見くんだよ」

「それもそうだな。──で? どれだ?」


 出てくる人に南志見らしい人物は今のところ見当たらない。


「あ、出てきたよ」

「おう。あれか」


 センター分けの爽やか系イケメンの南志見拓磨が出てくる。

 写真より爽やかなご登場だ。


 一人で教室を出て来ると、スタスタとそのまま階段の方へ向かって行った。


「カスミ。追うぞ」

「ガッテンだよ」




 ※




「なあ? カスミ?」

「どしたの?」

「俺は思うんだ」

「なにを?」

「家が隣同士で、朝起こしてもらえて、ご飯も作ってもらえて、お互いの家に行き来して、親公認のセ○レみたいな関係の幼馴染を持つ奴ってさ──」

「後半はレンレンの妄想だけど」

「サッカー部はいかんでしょ!」


 俺達は校舎側のグラウンドの端っこに立ち、南志見の様子を見ていた。


「そもそもだ! 幼馴染がいるラブコメ主人公みたいな奴はイケメンじゃいかんだろうが! 帰宅部で、やる気がなくて、ヒロインに巻き込まれて『やれやれ仕方ない』とか言い放つ、脱力系イライラキャラのはずだろうが!」

「それか、意味不明な部活に所属しているよね」

「だろ!? なのになんなの!? なんでサッカー部なの!? イケメンサッカー部キャラて!!」

「まぁ……。現実は非常ってやつ?」

「野郎。ぶっコロす!」


 俺はブレザーの腕をまくって指を鳴らす。


「あー! 待った! 待った! それじゃあ依頼達成にならないよ!」

「ラブコメ主人公の分際でイケメンとか、どんだけ神に愛されてんだよ! 神が愛しても俺が許さん!」

「レンレンが許さなかったら私達退学だよ!」

「俺は停学だけどな」

「酷いよレンレン! 私がいなくなっても良いの!?」


 言われてカスミを見る。


「──まぁまだ出会って二日目の同級生だしな」

「たしかに、わかりみが深い」


 しかし、ここでカスミを退学にしたら、あの三十路になにを言われるか……。もしかしたら成績を操作されて俺を留年に追い込むのも考えられる。いや、流石にないと思うけど……可能性はあるな。


「冗談だよ。それに小山内さんとは仲が良い。彼女の恋を応援したい気持ちもある」

「うんうん。見た感じ仲良いよね」


 チラチラっと俺を見てくる。


「ん? なに? その微妙な表情」

「や、その……。レンレンは小山内さんのこと好きなのかなぁ? って」

「ふむ。聞こう」

「だって、あんなに仲良さそうなのに、小山内さんには好きな人がいて、レンレン可哀想だなぁって」

「ふむ。結論を言おう」

「う、うん」

「んなわけあるか」

「そ、そうなの?」


 どうやら、わりとまじで小山内さんのことを好きだと思っていたらしい。


「元クラスメイトってだけで=仲が良いには直結はしないわな。だから、楽しげに話しをしていれば、好意があると思うのも頷ける。そりゃ、小山内さんは可愛いし、ベッドの時にあのポニーテールを解いて営みたい。突くたびに揺れる髪と未発達の胸はたまらないだろう。それか、あのポニーテール部分にぶっかけたいさ」

「あのさレンレン。一応出会って二日目ってことにはってる同級生の女の子に、下ネタを堂々と言う男子ノリはやめてよね」

「いやー。カスミみたいなコミュ力の高い女の子って、結構下ネタ、バンバン言うじゃん?」

「私のことはともかくとして。たしかに、クラスでも騒がしい系の人は男子に下ネタ言って笑ってるかも」

「だろ? でも、それってのは本当に好きな男には言わない。本気で好きになった相手に女の子ってのは下ネタは言わないんだ」


 ドヤ!


「──うん。や。なんでドヤ顔で全然違う答え言ってくるのか全然わかんないから」

「名言っぽくなかった?」

「全然ないし、内容がゴミだよ」

「そうか……。名言風に言って話しをうやむやにしようとして、これからも下ネタを言いまくろうという作戦だったのだが……」

「次、下ネタ言ったらビンタね」

「シンプルな暴力か。わるくないだろう」


 カスミがゴミを見る目をしてくる。こわい。


「とりあえず、レンレンは別に小山内さんことが好きじゃないのね?」

「さよう」

「なら、まぁ良かった」

「もしかして、今の『良かった。レンレンに好きな人がいなくて。これで私は心置きなくレンレンを狙える』とか思っているのか!?」

「あー。ごめんなさい。そういう意味じゃないです。これで小山内さんのことを心置きなく手伝えるって意味です。そもそも顔も性格も終わっている妄想くそ野郎は話しかけないでください。しんでください。ウジムシしんでください」

「ふむ……。カスミの罵倒か……。わるくないだろう」

「レンレン強すぎっ!」

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