第7話⁂誘惑⁉⁂


 新緑の若葉が水で塗らしたように青々と萌え立つ5月*。☆*・

 そんな1973年の5月に緑は、希望を胸に東京駅に降り立った。


 東京都渋谷区にある大手芸能事務所ホープダッシュから、大物アーティスト永田亮の計らいでメジャーデビューが決まった緑(静子・のちの小百合)なのだが、この僅か1年余りの間には想像を絶する出来事が起こっている。


 1973年5月7日のあの日、あの憎たらしいポテトチップスを粉々に潰しためぐみちゃん殺害事件には、思いも寄らないカラクリが隠されている。



 やがて緑の才能は開花して、メジャ-デビュー曲の『祭りのあとで』が大ヒットしてテレビラジオに引っ張りだこ―――


 気分一新という事も有り、また大手芸能事務所ホープダッシュの方針という事も有り、メジャーデビューする前に芸名を水口静子から白崎緑に改名したのだが、ある日、永田亮から思いも寄らない言葉を発せられて啞然とする緑。


 それは、たまたま歌番組で永田亮と一緒に出演した日の事だ。

 リハーサル室でたまたま隣りに座った緑に、永田が思いも寄らない事を言った。


「水口静子と白崎緑は本当は一緒の人物なのかい?」


 水口静子と白崎緑は同一人物だが、九州時代のあの頃は洋服も買えず、いつもどんな時もジーパンにトレ-ナ-のみすぼらしい恰好だった。


 それが今はファッションコーディネーターが付いて、最先端のファッションでステ-ジに立っている。


 だから、よっぽど目を光らせていないと、同一人物とは判別が付かない程。

 それなのに永田は緑の才能に嫉妬して、陰からしっかりチェックしていたのだ。


 九州で前座を務めていたと言っても、元々Kエイジェンシーにお世話になった永田が、Kエイジェンシーから頼まれて致し方なく、バータ―としてまだ若手の有望新人を紹介していただけの事。

【芸能界におけるバーターは、売れている芸能人と売れていない芸能人をセット(束)にして出演させてもらうことをバーターという。】


 多くの新人が永田のバーターで出演していた事から、永田自身も地方の若手新人なんかを覚えている筈がない。

 まあ~バータ―と言うにはあまりにもおこがましいが?


 そんな沢山のローカルミュージシャンの事など、目にも止まらないだろうと言う思いから起きた水口静子から白崎緑への改名なのだ。


 ましてや芸能界を目指している有望新人達は、どれも粒ぞろいの上、容姿端麗で才能あふれる人達ばかりだから、まさか緑の事を覚えているとは努々思っても見なかった。


 大物アーティスト永田亮の計らいで、メジャーデビューが決まった緑と言われているが……?

 永田にして見れば、この生き馬の目を抜く芸能界で、自分を超えるア—テイストが現れてそれを紹介しよう等誰が思おうか?

 反対に潰したいと思うのが人間。

 当然全部が全部そんな人間ばかりではないが……?


 例えばこんな例が報告されている。

 昭和初期の有名な女流作家Hが、叩きつぶした有能な新人作家は枚挙にいとまが無いとまで言われている。


『読者から忘れ去られるかもしれない、Hは不安にさいなまれたという。築いた地位を脅かしかねない新人女性作家には、特に神経質になり、露骨な妨害をしたという証言もある』


 そして、この永田にある日とんでもない事を言われた。

「あなたはお金持ちのお嬢様と言われているけれども?・・・本当はあの時の水口静子じゃ~ないのかい?一度食事でもしながらあなたの真実の姿を……フフフ……嫌とは言わせないよ!」


{ああああああああ!何故分かったの?・・・}


 そして緑は、よくよく考えて、仕方なくホテルに……???









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