31.帝宮にて

 私と○○さんは帝宮の傍まで来た。○○さんが私の格好を見て言う。


「その格好じゃちょっと目立つね。もう少し貧乏人っぽい服が良い。調達してくるから待ってな」


「大丈夫よ。持ってきたから」


 私は持っていた袋から王国兵部省のお仕着せを出して今の服の上から着た。簡単なワンピースだからただ頭から被るだけだ。一緒に持って来た髪飾りはポケットに入れておく。私はくるんと回って○○さんに見せる。


「懐かしいでしょう?」


 ○○さんはふん、と鼻息を吹いただけだった。そして私の髪を隠すように予備に持っていたらしいスカーフを被せてくれた。


 私たちは帝宮の城壁の所まで近づいた。公爵邸の城壁と同じで4~5mの高さがあり、乗り越えるのは簡単ではなさそうだ。噂に名高い上級諜報員ならこの城壁を簡単に乗り越えられるのかしら?


 と私はワクワクしていたのだけど、○○さんは私を連れて普通に城門の方へ向かって行った。城門は開いているが、警備の兵士が二人いる。私が首を傾げていると、○○さんは普通に城門の通用口へ向かい、身分証明書の様な木札を見せていた。警備の兵は困惑したような顔をしていた。


「今日は誰も入れるなと命令が来ているんだ」


「馬鹿な事言うんじゃないよ。入れなかったら仕事が出来ないだろ。どこの阿呆だい?そんな事を言う奴は」


「兎に角、今日はダメだ」


 警備兵が拒否すると、○○さんは腰に手を当てて猛然と警備兵に食って掛かった。


「今日は大広間の模様替えとかで早い時間に来いって使用人頭に言われて来たんだよ?人数が足りないっていうからこうして応援まで連れて。それが入れなくて遅刻でもしたら私がクビになっちまうじゃないか!あんた責任取ってくれるのかい⁉」


 警備兵が勢いに押されて仰け反っている。


「家には子供が5人もいるんだよ?亭主の稼ぎじゃ全然足りないんだ。私がクビになったら飢え死にしちまうよ。あんたそれでもいいってのかい!」


 警備兵はお互いに顔を見合わせ、きょろきょろと辺りを見回すような素振りを見せた後、仕方無さそうに○○さんと私を手招きした。


「早く入れ!」


 ○○さんは憤然と、私はぺこぺことしながら城門を潜った。私は歩きながら○○さんに尋ねた。


「さっきの木札は偽の身分証明ですか?」


「いや、本物だよ。私はここに入る時はこの姿だからあの兵隊とも顔見知りだ。じゃ無きゃ誤魔化せるもんじゃないよ」


 なるほど。


「だけど、この手が使えるのは多分、二重目の城壁までだよ。本館を囲む城壁は流石に敵に封鎖されていると思うね。そうなると多少大変になるが、大丈夫かい?」


「大丈夫です。私、こう見えても結構体力も力もあるんですよ」


「知ってる」


 坂道を上がり、二重目の城壁も同じ手で潜り抜ける。三重目の城壁の城門は閉まっていた。やはりだ。手前で入れなくて困っている使用人や警備兵が騒いでいた。


「どうやらあんたが言った通りまずい事態になっているみたいだね」


 ○○さんが仏頂面のまま厳しい声を出した。そして速足で歩き出した。公爵邸と同じように、二重目と三重目の城壁の間は別邸が沢山立ち並んでいるエリアになっているようだ。○○さんはその内の一軒に入って行く。


 別邸の庭園を抜け、その奥の別邸そのものには向かわずに庭園の奥の小屋のカギを開けて入って行く。それほど大きくは無い小屋だ。その小屋の中の戸棚をえいやと動かすとドアがあった。○○さんがまたそのカギを開けると、下に降りて行く狭い螺旋階段が現れた。


「すご~い」


 私が思わず感激していると、○○さんは渋い顔をした。


「他言無用・・・、だけどあんたは皇妃になるんだったね。なら良いのか」


 ○○さんと階段を下りて行く。すると、酷い臭いがしてきた。


「なんですか?」


「下水道だよ。ここを歩いて行く」


 ぎゃ~。階段を下り切ると臭いが爆弾のように炸裂して私は思わず意識を失い掛けた。堆肥造りとかで汚物の臭いに慣れている気だったけど、閉鎖空間でのこの臭いは流石にきつい。大変てこの事か!


 狭い下水道だが、一応歩道があったから別に足を汚すことは無かったが、臭いは汚いわ、ネズミやゴキブリは走り回っているわ。普通のお嬢様なら逃げ出しているわね。いや、流石の私だって目的が無ければ好んで入りたいとは思わない。


 しばらく行くと、また螺旋階段があった。○○さんはそこを登って行き、突き当りのドアのカギを開けるとそっと開け、中を確認し、さっと出て行った。私も続いて階段を上り、ささっと外に出る。そこは石造りの部屋で、どうも地下室くさい。汚い道具がいっぱいある所から見て、下水道整備のための部屋なのではないかと思われる。


 ○○さんは機敏な動きで先行し、私がなるべく静かに続く。階段を上がると木の床と壁になった。どうやら下働きの使う通路のようだ。なじみがある雰囲気だ。お貴族様の目に付かないように移動するために、貴族のお屋敷には必ずあるものだ。ちなみに当然公爵邸にもあり私はそこも探検してエルグリアに呆れられた。


 どうやら帝宮の本館に入れたようだ。私はスカーフを取ってそれで汚れたブーツを拭いた。そしてお仕着せを脱ぎ捨てる。これで下水道の臭いは取れたかしら?私が自分の身体の臭いをクンクンと嗅いでいると、○○さんが言った。


「ここからは天井裏に入ってしか人目に付かずには移動出来ないよ。あんたには無理だと思う。既にここにいる仲間がいるから呼んでくる」


「大丈夫。ここからは一人で行きます。帝宮の中はある程度知っているから」


 ○○さんが唸る。


「危険過ぎる。皇国の兵士がどこにいるか分からないんだよ?」


「皇国の兵士は目的達成まで帝宮で騒ぎを起こすことは出来ない筈です。大丈夫」


「しかし」


「時間が無いのです。一刻も早く皇帝陛下に会わなければなりません」


 私は○○さんに頼む。


「出来れば、私が帝宮を抜け出すタイミングで兵士の気を引いてくれると助かります」


 ○○さんは私の事を睨んでいたが、私がどうしても譲らないと分かったのだろう。大きなため息を吐いた。そして、私が脱ぎ捨てたお仕着せから髪飾りを出して、私の頭に挿してくれた。


「あまり無茶はするんじゃないよ?ペリーヌ。あなたに大女神のご加護があります様に」


「感謝を。ありがとう○○さん」




 ○○さんと別れて下働き用の通路を速足で進む。帝宮と公爵邸は構造が似ている。東館がプライベートスペースなのも一緒だ。東館へ向けて進んで行く。途中、何回か下働きらしき人に会ったが、笑顔で挨拶すれば怪しまれなかった。こういう通路はたまに上級使用人も使うからだろう。


 限界まで使用人通路を進むと、私は呼吸を整えて帝宮の広い廊下に出た。ここからはお貴族様モードだ。顔を上げ、姿勢は良くし、慌てず上品に歩く。お嬢様にはちょっと格好が活動的過ぎるが、上級使用人が屋外で作業する時にする格好くらいには見える服装だと思うので、私はこの帝宮の上級使用人で貴族出身の令嬢ですよ、と思いこんで歩く。思いこみ大事。


 何回か帝宮の上級使用人と思しき人とすれ違ったが誰何されるような事は無かった。どうも彼らは私などに気にしていられないという雰囲気で急ぎ足で行きかっている。やはり良くないことが起こっているようだ。


 私が出てきたのはどうやら西館の外れ。そこから中央館を突っ切る。中央館から東館に行くには二階から行かなければならないが、当然そこは警戒されて封鎖されていると思われる。私はあえて三階に上がり、三階の窓から帝宮の大庭園を見下ろしてみた。


 大庭園には帝国軍の服装をした兵士がうろうろしていた。あまり統制が取れている雰囲気ではない。やはり偽兵士だからだろう。ざっと見、200人はいる。主にやはり東館を囲んでいるような感じがある。東館の反対側にもいる事を考えたら内部にはそれほど兵士はいないのではないか。流石に宰相様も帝宮本館の内部に兵士を入れるのは許可しなかったのかもしれない。内部に兵士がいないとなればかなり楽になる。


 私は歩いて二階に降り、大エントランスを見下ろす廊下に出た。エントランスには入り口を守る騎士数人がいるが、見た感じ本物のようだ。外を見ながら厳しい顔をしている。これで本館内部には皇国の兵がまだ入っていないだろう事がほぼ確定した。だが、長引けば皇国の大使が内部にまで兵を引き入れる可能性が出てくる。急いだほうが良さそうだ。


 見ると、東館の入り口の扉を4人の騎士が守っていた。いずれも厳しい顔をしている。この場合の騎士は騎士身分ではなく、軍の職責としての騎士で、主に皇帝陛下の身辺をお守りしたり儀式での儀仗を司る兵科だ。貴族の子弟がなるものである。私は目を細めて良く見た。あの4人の騎士には見覚えがある。何回か夜会で見た。最近では無く、貴族商人で会った頃に夜会で踊ったり、話したりしたことがあるのだ。騎士だって軍属だから当然アルステイン様の部下だし、私の今の身分も当然知っていると考えるべきだろう。


 私を知っている事が吉と出るか凶と出るか。恐らくあの騎士たちには宰相様から「誰も入れるな」とか「誰か来たら連絡するように」という命令が出ている事だろう。止められてまごまごして宰相様や大使に見つかったり、宰相様に報告されたりしたらアウトである。騎士たちが下位貴族から公爵様の婚約者に成り上がった私に反感を抱いている可能性もある。ここでアルステイン様の婚約者である私を宰相様に突き出して手柄にして出世をもくろむ可能性が無いとは言えない。


 その時、外の皇国の兵士に動きがあった。城壁の方に走って行く。おそらくだがスティーズ将軍が三重目の城壁の外まで軍を進めてきたのだろう。まずい。ちょっと早い。三重目の城壁は300人の兵士がいればかなり守れると思うし。中の皇帝陛下を人質にされている状態なのだから無理に攻めては来ない筈だが、危なくなったら皇国の兵士たちが暴走してしまうかもしれない。皇帝陛下の身が危なくなる。


 迷っている時間が惜しい。女は度胸だ!私は決断した。結い上げていた髪を解き、赤茶色の髪を広げる。一部を軽く結って、そこに髪飾りを差し込んだ。私はむしろ堂々と、東館の入口へと進んで行った。このタイミングであの扉から宰相様や大使が出てきませんように!


 私が進んで行くと、扉を守る4人の騎士が目に見えて緊張した。手に持つ装飾が付いた槍をぐっと握り直すのが見える。相手が自分に向けて武器を向けてくるというのは緊張する。背筋に汗が流れてしまう。しかし私は真っ直ぐ、堂々と進んだ。そして見下ろしてくる騎士たちの目前で止まった。流石に儀仗も務める騎士たちだ。多分体格が大きい人を選んでいるのだろう。アルステイン様と同じくらい大きい。


「入れなさい」


 私は微笑みつつ端的に言った。騎士たちは流石に怪訝な顔をしていたが、一人が私の正体に気が付いた。


「し、シュトラウス男爵令嬢ではございませんか?」


 私は微笑みつつ彼の方をゆるりと見た。


「いかにも。イリシオ公爵の婚約者たるイルミーレです。ここを通しなさい」


 彼はびくっと震えながらも言った。


「さ、宰相閣下の命でここは封鎖しております。通す事は出来ません」


「良く分からない兵が内庭に沢山おります。危険です。令嬢はどこかに隠れていた方が良いです」


 一人が親切にも忠告してくれるが、私は微笑を深めて更に言った。


「聞こえませんでしたか?私を通しなさい。イリシオ公爵。いえ、次期皇帝のアルステイン様の婚約者であり、次期皇妃の私が命じます。通しなさい」


 私は左手の指輪を見せつけるように上げた。4人の騎士が仰け反る。しかし一人が言った。


「い、イルミーレ様が公爵様の婚約者である事は存じておりますが、アルステイン様が次期皇帝だとかあなたが次期皇妃だとか言うのは、不敬ではありませんか」


 私はその一人を目を細めて睨む。笑顔のまま睨みつけてゆっくりと言った。


「あなたが与り知らぬ事ですから仕方がありませんが、その日が来た時に後悔せぬように。ブレナン伯爵令息」


 ひっ!と彼が姿勢を正す。それに構わず私は一人一人を笑顔のまま睨んでいく。


「次期皇妃の道を阻んでタダで済むと思わないようにね?エルダー子爵令息、メルヘル伯爵令息、ファーウエイ伯爵令息?」


 ひー!っと騎士たちが驚愕の表情を作る。私がまさか自分たちの名前を憶えているとは思わなかったのだろう。


 エルダー子爵令息が顔中に汗をかきながら最後の抵抗をみせた。


「わ、分かりました。中で宰相様に許可を取ってまいります。少々お待ちを・・・」


 私は本気で彼を睨みつけた。笑顔を消して目に力を入れる。ここが勝負だ!


「宰相と次期皇妃の私と、どちらが怖いですか?」


 エルダー子爵令息が金縛りにあったように止まる。私は目力はそのままに笑顔を作る。


「私を通さば、後でアルステイン様には悪いように言いませんよ?どうでしょう?」


 彼らは震えあがり、遂に陥落した。




 東館に入る事に無事成功した。私は四人の騎士に「私が入った事は宰相や皇国大使やその手の物には内緒にするように。それと、皇国兵士が乱入して来たら逃げなさい」と言っておく。


 東館の内部は公爵邸と非常に似通っている。ならば私の私室にあたる皇妃様の部屋はこっちだわね。私は人と行き会わないように気を付けて進んだ。だが、誰も歩いていない。やはり使用人もほとんど追い出されているのだろう。まぁ、私には好都合だ。


 皇妃様の部屋まで来た。接触するならまず皇妃様だ。私はドアをノックした。この後ろに皇国の兵でもいたらお終いだが、そこまでは心配しても仕方がない。


 幸い、顔を覗かせたのは中年の侍女だった。皇妃様の筆頭侍女でセルサリアという。お茶会で何度も顔を合わせたので顔見知りだ。彼女は怪訝な顔をしていたが私の正体に気が付くと目を丸くして口を手でふさいだ。


「い、イルミーレ様⁉いったいどうやって!」


「しっ!話は後です。この中に宰相様はいらっしゃいませんよね?」


 セルサリアはコクコクと頷いて私を通した。


「皇妃様は?」


「いらっしゃいます。こちらです」


 私はセルサリアの後ろを付いて皇妃様の私室に入った。?妙に薄暗い?見ると、昼間なのに大窓を全てカーテンで塞いである。外にいる皇国兵士の視線から逃れるためだろう。本来は大きなシャンデリアが幾つも下がっているので夜でもこんなに暗くは無いのだが、多分使用人が入れなくて点灯出来ないのだと思う。テーブルに幾つか置かれたランプだけが光源だ。


「イルミーレ様⁉」


 皇妃様が驚いて立ち上がる。私はほっとした。第一段階クリアだ。私は皇妃様に近寄り、お手を取った。


「ご無事で良かったですわ。皇妃様」


「どうやってここに・・・。というか、何事が起こっているのかイルミーレ様はご存知なのですか?」


 皇妃様の表情には困惑と憔悴の色が濃い。無理もない。恐らく事態の全容をも掴めていないのだろう。私は皇妃様と小さなティーテーブルを挟んで椅子に座った。


「大体は分かっております。皇妃様のご存知の事と突き合わせれば全容が判明するでしょう」


 私は自分の推測を話した。宰相様が皇国の大使と組んで帝宮に兵を引き入れ、その圧力を背景に皇帝陛下からアルステイン様の罷免を勝ち取ろうとしている事。もしもそのような事が起こったら前線の帝国軍がどうなるか、そして皇帝陛下が断ったらどうなるか。あるいはアルステイン様が戻って来ようとして討たれたらどうなるか。順を追って話していった。


 話すごとに皇妃様の表情に驚愕が満ちて行き、顔色が真っ青になった。


「イルミーレ様の言う通りよ。今朝早く、お父様が突然、皇国の大使を連れて帝宮にやって来て、皇帝陛下との接見を強硬に求めてきたの」


 しかも軍勢を300人ほども帝宮の内庭に入れての事だ。ただならぬ雰囲気に皇帝陛下は接見を承諾して、今、皇帝陛下の私室で接見しているのだという。


「軍勢は東館を囲んでいるし、使用人はほとんど東館を追い出されてしまったの。私も陛下との同席を求めたけど断られたわ。まさかお父様がそこまで・・・」


 皇妃様は絶句してしまう。まぁ、自分の父親が外敵を引き入れて謀反寸前の事態を引き起こしたなんて信じたくないよね。


「信じたくはないでしょうが、事実です。公爵邸にも勅使を名乗る者が200人の兵を連れてやって来ました。城門を閉じて侵入は阻止しましたが」


「イルミーレ様はどうやってここまで・・・」


「それはまぁ、色々と頑張りましたわ」


 お嬢様にしては中々の冒険活劇だったがそれを語っている暇はない。まだ事態は終わっていないのだ。というか、ここからが正念場だ。


「それより問題はこれからどうするかですわ。皇帝陛下はまさかアルステイン様の罷免を認めたりは致しませんよね?」


「それは勿論です。皇帝陛下も現状はご存知です。北西部国境で敵と対峙しているこの時に、軍の総司令官を罷免などしたら大変な事になります。何があっても絶対に陛下は受け入れないでしょう」


 ならば後は二つ。アルステイン様が事態を把握して慌てて帝都に戻って来る最中に敵の待ち伏せを受けて討たれる可能性と、皇帝陛下が宰相様をこの状況下で罷免して、それを口実に皇国の兵士が乱入して皇帝陛下と皇妃様を討つ可能性。


 宰相様は兎も角、皇国の大使はもしも皇帝陛下を弑してしまった場合、自分の命もお終いだから、出来ればそれは避けたいと思ってはいるだろう。出来るだけ帝宮の占拠を長引かせ、帝国の遠征軍を動揺させ、アルステイン様を何とか帝都に戻らせようとするだろう。もしも帝国軍の遠征軍が敗れ、皇国軍が余勢を駆って帝都に殺到して帝都が陥落でもすれば大使は命を落とさずに済むどころか、英雄となれるのだから。


 私が付け入るとすればそこだ。事態を長引かせたいが故に皇国の大使は直ぐには強硬手段は取らないし、皇帝陛下は大使相手にも人質として機能する。しかし、スティーズ将軍が既に城壁を囲んでいる。一応、スティーズ将軍には手紙で皇帝陛下の身が危険なので帝宮を強引に攻めないようにとは伝えたので、強引な事はしないと思うが・・・。


「もう大分長い時間、陛下は接見していらっしゃいます。イルミーレ様の推測ですとお父様と大使様はかなり強硬な態度で陛下と談判していらっしゃるでしょう。陛下の体調が心配です」


 皇妃様が顔を曇らせた。私はテーブルに乗っていた皇妃様のお手に私の手を乗せた。


「皇妃様。全てを私にお任せくださいますか?」


 皇妃様がぐっと表情を硬くする。


「皇帝陛下も皇妃様も、出来れば宰相様もお助けしたいと思っております。それには皇妃様のご協力が必要です」


「・・・お父様を助けると?」


「この事態で宰相様を失っても帝国は打撃を受けます。宰相様以上の内政政治家はいないとアルステイン様もおっしゃっていました。いなくなられてはアルステイン様も私も困ります」


 私がそう言うと、皇妃様は呆れたような表情になった。


「イルミーレ様はこの事態が終わった後の事までもう考えているのですか?」


「もちろんです。この事態を終わらせるだけなら陛下と皇妃様に今すぐ死んでいただくだけで良いのです。私はここに来ること無く、スティーズ将軍に強攻を命じ、帝宮ごと焼いてしまえば良いのです。そうすればアルステイン様が皇帝になり、そのまま遠征軍は戦って勝つでしょう」


 私が過激な事を言うと流石の皇妃様も顔が引きつった。セルサリアなど皇妃様を守ろうと身構えている。


「ですがそんな事はアルステイン様も私も望みません。私はなるべく帝国に被害無く、この事態を収めたいのです。協力して下さいませ」


 皇妃様が頷く。


「イルミーレ様に全てお任せいたします。私達は何をしたらよろしいのですか?」


 私はにこっと笑って、腕に嵌めている黒い腕輪を見せた。


「とりあえず、小舟に乗る事にはなるかと存じます」



 




 


 


 


 

 


 


 

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