閑話 アルステインの婚約者(下)  ブレン視点

 アルステインは軍務大臣で、はっきり言って忙しい。そして、アルステインは勤勉なので、仕事に手を抜かない。なのでより一層忙しくなる。それに加えてこの時にはワクラ遠征の後始末や、遠征中に溜まった日常業務の処理もあった。アルステインの前に積み上がった書類は流石に私も引いてしまう程の量だったのだ。


 しかし、この時のアルステインにはイルミーレ嬢との日常という魔法が掛かっている。イルミーレ嬢が早起きだからという理由で朝の弱い筈のアルステインが毎日定時に出仕して、凄まじい勢いで仕事を片付けて、イルミーレ嬢とのディナーがあるからと定時で帰って行くのだ。あまりの単純さに頭が痛いほどだが、実際問題としてあれほどあった仕事が瞬く間に終わってしまった事は事実だった。


 まぁ、毎日毎日よくやるわ、というくらい公爵邸のエントランスでイルミーレ嬢といちゃいちゃ別れを惜しむのを見ると、拳骨の一つは落したくなるのは仕方がないと思って欲しい。ちなみにアルステインは以前は従卒を一人連れるだけで騎馬で出仕していたのだが、ワクラから帰国するようになってからは私が護衛騎士3名を連れて馬車で送迎することにしていた。安全のためだ。


 ワクラから帰国してからアルステインと宰相閣下の対立は激化してしまった。宰相は軍を独断で動かしワクラ王国を滅ぼしたアルステインの行為は皇帝陛下の意向を無視した独断専行であり、軍事の大権を預かる者の行動としては軽率極まりない、と考えているらしい。その辺りは私でさえ同意せざるを得ない。しかしそれを理由にアルステインから軍権をはく奪すべきだと皇帝陛下に迫っている事には同意どころか呆れ果ててしまう。アルステイン以外に帝国軍をまとめられる者がいるものか。


 アルステインは、理由は兎も角として、ワクラ王国を滅ぼして帝国の版図を大きく拡大した。しかもほんの数カ月でワクラ地域の経済を活性化させ、商人たちの投資を呼び込んだ。そのおかげで帝国の国力が増強された事は間違い無い。おまけに国民たちはワクラ征討について詳しくなど知らないから、単純に戦の勝利を喜びアルステインの事を讃えまくっている。帝国の国威は大きく発揚した。こんな大功績を上げたアルステインを、アルステインが皇帝の座を狙っていると思っているらしい宰相閣下が警戒するのは当たり前の事だ。


 警戒するだけなら良いが、アルステインを排除するために実力行使に出てくる可能性が無いとは言えない。アルステインは考え過ぎだと笑うが、そういう事を考えるのが副官の私の仕事だ。


 そんなある日、アルステインとイルミーレ嬢は揃って夜会に出た。軍務省まで公爵邸の馬車が迎えに来て、いそいそとアルステインが乗り込んで出掛けて行った。昼くらいからソワソワしていてその日は全然仕事にならなかった。次の日、アルステインはご機嫌で出て来た。私が何かあったのかと尋ねると苦笑して曰く。


「イルミーレが凄かったんだ」


 何事なのかと聞くと、夜会でイルミーレ嬢が大活躍した話だった。何でも自分に敵対する貴族婦人を全てやっつけた挙句、ほとんどの貴族を自分の味方に引き入れたという。聞けば宰相さえも沈黙させたというのだから、それは確かに凄い。アルステインは「イルミーレに任せておけば社交は安心だな」などと言っている。


 それを聞いて私は少し驚いた。確かにアルステインは真面目で、あまり腹芸が出来ず、本心を押し隠して相手に取り入る様な真似が得意ではない。そのため比較的社交を苦手にしてきた。しかし、能力があるがゆえに何でもかんでも自分でやりたがり、自分の仕事を他人に任せるのが苦手なアルステインが、イルミーレ嬢に苦手な分野とは言え社交を丸投げにするとは。


 正直、私でさえそこまで仕事を丸投げにされた事は無い。つまり長年アルステインに仕えている私よりもイルミーレ嬢の方が認められ、信頼されているという事では無いか。勿論男女の違いはあるし、私と彼女では役割も違う。しかし、どうしても、何かモヤモヤした、割り切れない思いを抱いてしまうのだった。


 更にある日、帝宮からエルグリア女史の手紙が届き、それを読んだアルステインは慌てて帝宮に向かった。何の用事だったのかはよく分からなかったが、あの慌てようは恐らくイルミーレ嬢絡みだろう。次の日に聞いてみても、生返事をするだけで答えない。別に危険な事では無かったようだが。アルステインが私に隠し事をする事はこれまであまり無かった。イルミーレ嬢と出会ってから増えた。以前は私と共有していた悩みや問題をイルミーレ嬢と共有するようになったのだろうか。


 イルミーレ嬢のせいで、だんだんと私の知らないアルステインが増えて行く気がした。それはなんというか、モヤモヤして、つまり気に入らない事なのだった。




 そんなある日の事だった。夜会に出るアルステインを公爵邸の馬車が迎えに来たのだが、あいにくその日はアルステインが会議に出ていて、それが長引いたせいで準備が終わっていなかった。何しろ夜会の準備は軽く風呂に入ったりするから時間が掛かるのだ。おまけに最近は略礼服ではなく誂えたスーツを着て行く事が多いから余計だ。


 時間が掛かるから待たせてくれ、と言われて私はイルミーレ嬢と随伴のエルグリア女史を控室に案内してお茶を振舞った。イルミーレ嬢は濃いグリーンの良くは分からないが高級そうなドレスと絢爛としたアクセサリーを見に纏っていた。その姿は、今や社交界に圧倒的な魅力で君臨していると言われるのも納得な、妖しい迫力に満ちていた。


 待っていると、エルグリア女史が呼ばれて席を外した。控室には座るイルミーレ嬢と立っている私しかいなくなった。イルミーレ嬢と私が二人で会う機会は今まで無かったし、もしかしたらこれから難しいかもしれない。滅多にない機会だった。


 私はこの機会にイルミーレ嬢に聞いて見る事にした。


「あなたは、アルステイン様と本当に結婚するつもりなのですか?」


 私が唐突に問うと、イルミーレ嬢はゆるりと私の方に目を向けた。うっ・・・。何という事も無く視線を向けてきただけなのに、物凄い圧だった。ワクラで会った時のあの無邪気な視線と比較するとまるっきり別人だ。


「ええ」


 イルミーレ嬢は微笑んで肯定した。私は彼女の圧に負けないよう、腹に力を入れて問う。


「あなたは平民でしょう?それがどうして公爵たるアルステインの妻になれると思うのですか?」


 私はイルミーレ嬢最大の弱点を突いたつもりだった。この帝国に彼女の正体を知る者はほとんどいない。その中にこんな事を言う者は私しかいない筈。だからこれまで言われた事は無かった筈だ。しかし、イルミーレ嬢の微笑にはさざ波程度の変化も訪れない。優雅に微笑み、何という事も無くさらりと返す。


「アルステイン様が私を愛して下さるからですわ」


 直球の惚気に絶大なる自信が含まれていた。その自信を担保しているのはアルステインの愛情だ。私は嫉妬した。認めよう。私はアルステインがイルミーレ嬢に向ける愛に嫉妬したのだ。長年仕え、友人として付き合ってきた私よりもアルステインがイルミーレ嬢を愛しているという事実に嫉妬心を抱いていたのだ。


「平民が将来の皇帝の妻になると?あなたが皇妃になれるとお思いなのですか?」


 私が内心歯ぎしりする様な気持ちで問うと、イルミーレ嬢は少し考えてから言った。


「私はアルステイン様の妻になれるなら何でもいいのです。そのために皇妃にならなければならないのなら、仕方が無いからなりますわ」


 皇妃の地位を仕方がない扱いかよ!私が愕然としていると、イルミーレ嬢はアイスブルーの瞳を私に真っ直ぐに向けて言う。


「ワイバー様も平民と伺っております。ワイバー様がアルステイン様の側近でおられるのも大変な事でありましょう?その困難を理由にアルステイン様のお側を離れようとお考えになるのですか?」


 む・・・。私は返答出来ない。私がアルステインの側を離れるなどどんな困難があってもあり得ない。


「私も同じです。ワイバー様ならお分かり頂けると信じておりますわ」


 吸い込まれるような微笑で言う。私は自分の膝が震えているのが分かった。ダメだ。取り込まれるな。私は自分を叱咤した。アルステインのために、この得体の知れない女の正体を見極めなければならない。私は彼女にどうしても聞いておきたかった質問を放った。


「・・・あなたは、アルステインのために何が出来るのですか?アルステインに何を望むのですか?」


 この問いに、生半可な答えや誤魔化し韜晦は許さない。彼女がアルステインを惑わし、悲劇をもたらす者ならば、私は自分がアルステインに激怒され殺されてでも彼女を排除する覚悟だった。私はぐっとイルミーレ嬢を睨みつける。


 ところがここでイルミーレ嬢の表情に変化が訪れた。頬が赤く染まり、妖しい微笑は見るからに幸せそうな、無垢な少女の物に変わる。あまりに劇的な変化に私は呆然とした。何が起こったのだ?


「そんなの、決まっておりますわ」


 イルミーレ嬢は赤くなった頬に手を当て、目を細める。そして言った。


「私に出来る事はアルステイン様の御子を産むことです。アルステイン様に望むのは私にアルステイン様の御子を産ませてくれる事です」


 は・・・?あまりの想定外の返答に私の頭は真っ白になる。恥ずかしそうに笑うイルミーレ嬢は自分の発言に照れているようだった。


「アルステイン様の御子ですものきっと素晴らしい御子が生まれますわ。アルステイン様の御子を産む役目は誰にも譲りません。私は今から産む日が楽しみなのです」


 ・・・程無く、アルステインがやって来て、二人は仲睦まじく馬車へ乗り込んでいった。私は見送りつつ、どうしようも無い敗北感と共にアルステインがイルミーレ嬢にあれほどの愛情と信頼を与えている事実に、遂に納得したのであった。




 ある日、なんとペグスタン皇国の大使館から夜会の招待状が届いた。なんでも副大使着任の祝いだとか。私は行かなくても良いのではないかと言ったのだが、良い敵状視察の機会だとアルステインが出席を決めた。


 しかも何とイルミーレ嬢まで出るという。イルミーレ嬢はペグスタン皇国、というか外国の文化に興味があるらしく、公爵邸で外国の本をよく読んでいるといるらしい。・・・平民なのに外国の本が読めるほど教養があるのか。兎に角私は警備計画を立て、アルステインに15人と私。イルミーレ嬢には女性士官二人とエルグリア女史を着ける事にした。忍者も手配した。皇国にも似たような上級諜報組織があるらしいからその警戒のためだ。


 そして夜会当日。訪れたペグスタン皇国大使館はペグスタンの様式で建てられていて、周囲の建物とはやはり少し違った。アルステインにエスコートされながら入って行くイルミーレ嬢は微笑しながらも興味深げに装飾品などに見入っている。ここはいわば敵地で、イルミーレ嬢もエントランスで皇国の大使にかなり無礼な対応をされた筈なのだがそんな事は微塵も感じさせない余裕の態度だ。


 ホールには帝国貴族と皇国の商人と思しき者たちがいた。商人は普通は平民なので、このような夜会にいるのは珍しい。流石に帝国にはペグスタンの貴族は大使と副大使くらいしかいないので、皇国人を増やすために招待したのだろう。私達に向ける視線は非好意的だが、大使の周囲にも近付いて行かない。大使と副大使は帝国貴族(宰相派の連中が多かった)とばかり話している。皇国は帝国よりも貴族の地位が高く、平民をかなり虐げているらしい。商人たちが大使を見る目の冷たさからして、日ごろから無理難題を押し付けられてでもいるのかもしれない。


 夜会なので軽食や飲み物も多数並んでいたが、こんな敵地でホイホイ飲食したら毒殺してくれと言うようなものだ。アルステインにもイルミーレ嬢にも毒見が済まないものを飲食しないよう言ってある。イルミーレ嬢は興味深そうに料理を見ているが、言ったことを守って手は出さない。彼女は知っている帝国貴族を見つけては声をかけ、親しく雑談に勤しんでいる。周囲を守っている護衛のピリピリした雰囲気に話し掛けられた貴族の方が引いているが、イルミーレ嬢は知らぬふりだ。どうにも、鈍感なのか肝が太いのか。


 すると、皇国の大使と副大使がなんだかニヤニヤ笑いながら近づいてきた。護衛と私が緊張するが、アルステインはそれを制し、イルミーレ嬢をエスコートして前に出た。


 すると、皇国の大使は嘲りの表情も露わにイルミーレ嬢が身分低い男爵令嬢である事をネタに、間接的にアルステインを罵倒し始めた。皇国では無領地貴族である男爵は貴族扱いされていないからだ。


「卑賤な生まれの者は未来永劫、卑賤な血から逃れられ無いのです。そんな女と結婚しては将軍の血が汚れますぞ?止めた方が宜しいのでは?」


 あまりにもあからさまな誹謗中傷に、アルステインが切れてしまった。怒りの表情を露わに前に出ようとする。いかん!アルステインは怒ると口より手が出る。こんな見え見えの挑発に乗ってアルステインが大使をぶん殴りでもしたら、皇国に外交的な自責点を与えてしまうし、宰相がアルステインを非難する絶好の口実を与えてしまう。私はアルステインを止めようとした。


 その瞬間、全ての動きに刹那先んじて、イルミーレ嬢がするっと前に出た。一瞬アルステインを笑顔で見る。気勢を削がれてアルステインが止まると、イルミーレ嬢は皇国の大使に微笑を向けた。


「卑賤な生まれの者は未来永劫、卑賤な血から逃れられ無いとおっしゃいましたか?」


 その言葉には妙な圧力が含まれていた。大使は一瞬鼻白んだが、ふんぞり返って言い返した。


「ああ、言ったとも。それがどうしたか」


「それは『聖典』に書いてあるのでしょうか?」


 私はギョッとした。なぜワクラ王国出身の彼女が「聖典」を知っているのだ?ペグスタン皇国で広く進行されている皇国式大女神信仰で、教えの根本とも言うべき「聖典」だが、他国では全くと言って良いほど知られていない。帝国人もほとんど知らないだろう。私は故郷にたまに皇国式大女神信仰の宣教師が来ていたし、信仰していた者が村にいたから知っているが。ちなみにその者はペグスタン皇国侵攻時に皇国の兵士に殺されている。あれ以来私は大女神信仰をまるっきり信じていない。


「ああ、そうだ。聖典にそう書いてあるのだ」


「それは嘘でございますね」


「な、何?」


「私も聖典を読みましたけど、そのような事は一言も書いていませんでしたわ。逆に、第3章に『女神を信じる限り、人間は皆平等である』と書いてありますね」


 は?何だと?聖典を読んだだと⁉一体どこでどうやって?皇国でも聖典は聖職者くらいしか持っていない物なのに・・・。


「聖典を読んだと申したか!」


「ええ、屋敷にありましたから。言葉が古いから対訳辞書を使って読むのは大変でしたけど」


 そう言えばいつぞやの戦いの時に戦利品で聖典が一冊手に入り、興味を持ったアルステインが持って帰っていたな。難し過ぎて読めないと言っていたが・・・。それを読んだのか?というか、今一節を引用しなかったか?どうして覚えているのだ?驚く私だが、アルステインは特に驚いてはいないようだった。それよりも大使の反応の方が気に掛かるようだった。


「なぜ大使はあのように驚くのだ?」


「ペグスタン皇国の人間でも聖典を読んだ、というか読める人間はほとんどおりません。聖典は聖職者が『読んでくれる』ものなのです」


 私が言うとアルステインは「ああ」と納得した。そもそも聖典は印刷を禁じられており、書き写しも制限されているために世の中に広く出回っていない。持っている方が珍しい。しかも言葉が古く言い回しが難解で非常に読むのが難しいのだ。後で聞いたがイルミーレ嬢は「暇つぶしに」一週間くらい掛けて読んでしまったらしい。あんな分厚くて難しいものを一週間くらいで読めてしまうものなのか?


 私が驚くくらいだから、聖典を信仰の拠り所としている皇国人の驚きはそれどころではない。大使副大使は元より、皇国の商人たちも驚愕で目を丸くしている。


「そもそも初代皇主様は羊飼い出身ですし、付き従った7人の高弟も大工やら漁師やら商人やらではありませんか。一人も高貴な生まれとやらの方はいらっしゃらないでしょう?」


「しょ、初代皇主様を愚弄するか!」


「なぜ聖典に普通に書いてある事を言ったら愚弄になるのですか?初代皇主様は弟子を諭してこうもおっしゃいましたわね?『生まれを恥じるのは無駄な事だ。大事なのはこれから何を成すかではないか』聖典の第2章を読んでみて下さいませ」


 これは確かに間違い無く読んだのだろう。というか、読んだというレベルではない。内容どころか文言まで一字一句覚えているような口ぶりだ。イルミーレ嬢が一節を暗唱して見せると、皇国商人の表情が輝いた。聖典を暗唱するという神業に対してもだが、暗唱した内容が身分制度を否定する様な文言だったからだろう。イルミーレ嬢に簡易の祈りを捧げ始める者もいる。それは聖職者に捧げる祈りだった


「大使様?あなたは本当に聖典を読んだ事があるのですか?聖典の第1章の戒律に曰わく『嘘を吐くなかれ。特に神の教えを騙る者は呪われるべし』とあります。聖典の内容を騙る事はその禁忌に触れておりますわよ」


 おそらくは自分もその禁忌に触れたという自覚がある皇国商人たちが慌てて跪き、大女神に告解の祈りを捧げ始める。告解は聖職者が受けて神に取り次ぐものだ。つまりイルミーレ嬢にを通して神に告解が届くと見做されたのである。


 イルミーレ嬢によりにもよって皇国の聖典の知識で言い負かされて大使達は呆然自失となっている。皇国人がイルミーレ嬢を見る視線は崇拝と畏れに満ちていた。こんな扱いを皇国人から受けた帝国人は前代未聞であろう。少なくとも私は知らない。大使達を放置してアルステインとイルミーレ嬢が踵を返すと、皇国商人たちが敬意の祈りを捧げる。入って来た時の厳しく冷たい表情とはまるっきり別物だ。


 イルミーレ嬢は不思議そうな顔をしながらも、皇国人に慈愛に満ちた微笑を振りまいていた。それを見ていればこの先イルミーレ嬢が皇国人の間でどのように噂されるかを想像するのは極めて容易な事だろう。後日、アルステインが皇国商人の懐柔を提案し、それをイルミーレ嬢に任せると言い出した時、私は全面的に賛成した。いやもう、賛成するより他に無いではないか。私はあのイルミーレ嬢がもしも皇妃になり、皇国との交渉の場などで聖典を暗唱して見せる場面を夢想して慄いた。そんな事になったら皇国の連中は大混乱を起こすだろう。そこらの聖職者では太刀打ちできない聖典の知識を持つ帝国の皇妃など皇国の皇主にとって悪夢でしか無い筈だ。


 私は大分後にイルミーレ嬢が「帝国の緋色の聖女」と呼ばれて崇拝に近い扱いを受けている事を知る事になるが、その時はもう既に、その事に驚くことなくただ納得してしまうようになっていたのであった。


 

 


 


 

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