閑話 私のお嬢様(後編)  エルグリア視点

 帝宮での園遊会と言えば皇妃様を頂点とする帝国貴族女性界の一大イベントでございます。帝国上位貴族の夫人令嬢が気合の入った装いで勢ぞろいし、下位貴族は招待状を渇望し、届けば狂喜乱舞するとともに緊張で眠れぬ日々を過ごします。この園遊会で皇妃様と親しくなったおかげでその家が出世した例も過去にはありますし、失態を犯したおかげで貴族界での地位が没落した家もあります。


 そんな重要な会にイルミーレ様が参加なさることになりました。旦那様とご婚約なさってから最初の社交でもあります。ここで失敗する事は絶対に避けなければなりませんし、出来れば皇妃様と良好に顔繫ぎして頂き、旦那様とのご結婚がスムーズに進むよう支援して頂けるようにしたいものです。私達侍女は気合を入れて準備に臨みました。


 お嬢様はこちらにいらしてから一か月経ち、少し身体に肉は付いてきたもののまだまだお痩せになっております。しかし、肌艶や髪の艶は見違えるほどになられました。この素材を活かし切れば公爵家のお嬢様として相応しい貴婦人に仕上げられる筈です。


 私達は臙脂色のドレスを選択いたしました。肩や胸にうねるような飾りが付いた重厚なドレスです。全面にびっしりと装飾的な金色の刺繍が入っています。そこらの令嬢ではドレスに負けてしまうような派手なドレスですが、長身かつ主張の強い髪色のお嬢様にはこれくらい押し出しの強い装いの方が合うとの判断です。髪は少し結う他はほとんど後ろに流します。ドレスと溶け合うように緋色の美しい髪が広がります。髪飾りは大きなサファイヤと金を鳥の羽のように象ったものを選択します。ネックレスはあえて小さめのダイヤ。今回は皇妃様がご出席なので、皇族に伝わる品は使いません。そんなものを使ったら「私も皇族になるのよ!皇妃様と同格なのよ!」というアピールになって皇妃様に喧嘩を売る形になるからです。


 仕上がったお嬢様を見て・・・。またやり過ぎたかもしれません。お嬢様は長身でボロ服を着ていてさえ私達を圧倒する様な威厳を出せる方ですので、生半可なドレスではドレスが負けてしまいます。なのでどうしても派手目なドレスを選択するのですが、そうすると迫力が物凄い事になるのです。今回もとんでもない迫力が出てしまいました。私は随伴する私のドレスを急遽紺の地味なものに変え、二人並んだ時になるべく印象を弱めるようにしました。


 馬車に乗って帝宮に向かいます。ソワソワしている私と違ってお嬢様は楽しそうです。


「社交は久しぶりです。知っている令嬢にまたお会いできるかしらね」


 肝が太いのか、社交の恐ろしさを知らないのか。私は少し呆れました。


「仲の良かったご令嬢がいらっしゃるのですか?」


「ええ。公爵様とお付き合いする前には夜会で親しくお話する令嬢が何人かいましたよ。公爵様と一緒にいるようになったら近寄って来なくなってしまいましたけど」


「そうなのですか?お会い出来るのではないでしょうか?そういう方と再度友誼を結ばれて、お茶会など開催されてはいかがですか?旦那様のご許可は必要ですが」


「まぁ、楽しそうですね」


 ふふふ、と笑っておられます。私は一応釘を刺しました。


「お嬢様。お茶会を開催すると言ってもそう簡単な話ではございませんよ?」


「そうなのですか?」


「ええ。社交の主催者になるという事は、お招きしたお客様に対してすべての責任を負うという事です。皆様にお楽しみ頂くのは勿論、安全や健康にも気を配らなければなりません。何かあったら全て主催したお嬢様の責任になってしまうのですよ。事前の調査と入念な準備は欠かせません」


「なるほど。でもその時はエルグリアが手伝ってくれるのでしょう?エルグリアに任せておけば安心ですもの」


「・・・それは勿論お手伝いさせて頂きますが・・・」


 馬車は帝宮のある丘に入りました。私は緊張が高まり、意味も無くお嬢様のドレスを直したり、お嬢様に励ましの言葉を掛けたりしますが、お嬢様本人は帝宮の様子を楽しそうに見ながら泰然自若としたものです。その姿を見ていると自然と私の気持ちも落ち着きました。


 会場の温室庭園に入ると、中にいる貴族夫人、令嬢の視線が一斉にお嬢様に突き刺さりました。思わずたじろぐほどの圧です。あまり好意的な物ではありませんし、ヒソヒソと噂する声も聞こえます。しかしお嬢様は優雅な微笑みを浮かべたまま会場をゆるゆると見まわしながら会場を歩き回っています。ですが、誰も近寄っては来ません。少しくらいは公爵の婚約者であるお嬢様に媚を売ってくる貴族がいるかと思っていましたが、どうやら会場ましお嬢様を無視する構えのようです。私は憤慨し、歯噛みしました。


 しかしお嬢様は気にしたご様子もありません。楽しそうに珍しいお花を愛でられ、飲み物を美味しそうに飲んでいらっしゃいます。そのご様子はまるで絵画のようで思わず見とれてしまいます。この方は兎に角人目を引く方なのです。良く見ると、お嬢様を見る者の視線が嘲る様なものから興味深く見守る視線に次第に変わっているようでした。


 やがて、皇妃様が入ってきました。数人の取り巻きにがっちりガードされています。取り巻きがお嬢様を見る視線は厳しく、これは難しい事になりそうだと感じました。しかしながらお嬢様は皇妃様の義弟の婚約者です。真っ先にご挨拶に伺うべき方です。私はお嬢様を促しました。


「さぁ。ご挨拶に参りましょう」


 私たちが進み始めると、その前に二人のご令嬢が立ちふさがりました。確かどこかの侯爵家ご令嬢と、伯爵家の令嬢です。私たちが避けようとするとそちらの方にあからさまに動きます。


「無礼な、道を開けなさい!」


 私が一喝しても無視です。お嬢様を睨んで動きません。お嬢様は微笑みながら二人の令嬢を見下ろしていましたが、ちらっと皇妃様を見ると「エルグリア」と私を促して、ゆるりと踵を返しました。いけませんお嬢様。


「お嬢様、あのような無礼を許してはなりません」


 こういう対立した場面で簡単に引くと、周囲の者たちは「負けた」と見做します。それが上下関係に繋がりかねません。ここは公爵様の威を借りてでも押し通らなければならない場面でした。案の定二人の令嬢は鼻息高く笑っています。


 しかし、お嬢様は気にした様子も無く、上品に歩き、会場を横切って隅の方に置いてあるソファーまで来ました。?お疲れにでもなったのでしょうか?いえ、あの体力があるお嬢様がそんな筈は・・・。


 するとお嬢様は崩れ落ちるようにソファーに倒れこみました。


「お嬢様!?」


 私は反射的にお嬢様を助け起こしました。するとその一瞬。お嬢様は私の耳元で囁きました。


「病弱設定で」


 病弱設定?確かにお嬢様は病弱で、10カ月近く臥せっていたという設定ではございますが・・・。あ、もしかして病気で倒れたことにして席を外す作戦なのでしょうか?確かにそれならお嬢様の名誉を守ったまま退席出来ますが、皇妃様とご挨拶出来ないまま退席する事になりますのであまりいい方法とは思えません。しかし、お嬢様がそうおっしゃるのなら仕方がありませんか。私はとりあえずお嬢様の意向に沿う事にしました。


「ああ、何て事でしょう。何ヶ月も臥せっておられたのに無理をなさるからですわ。このご様子では無理ですわね。帰りましょう。お嬢様」


「大丈夫よエルグリア。少し休めば良くなります」


 お嬢様は額に手の甲を当て、辛そうな素振りを見せながらこっそり笑っています。?何でしょう。何かを企んでいるようですけども。


「そちらは大丈夫ですの?カルステン伯爵夫人?」


 突然、背後から声が掛かって驚きました。このお声は・・・。見ると、皇妃様が取り巻きを後ろに従えて傍まで来ていました。何故?・・・あ・・・。私は自分がついさっき言ったセリフを頭に思い浮かべます。


『社交の主催者になるという事は、お招きしたお客様に対してすべての責任を負うという事です。皆様にお楽しみ頂くのは勿論、安全や健康にも気を配らなければなりません。何かあったら全て主催したお嬢様の責任になってしまうのですよ』


 それはたとえ皇妃様でも例外ではありません。いえ、皇妃様だからこそより一層の配慮が求められます。主催した園遊会でよりにもよって義弟の婚約者が倒れて勝手に退場してしまったとなれば皇妃様の大不手際になってしまいます。それを防ぐにはなんとか退場前に一声掛けていたわった姿勢を見せておく必要があります。・・・まさか。


 その瞬間、軽やかにお嬢様は身体を起こし、皇妃様の前に立っていました。そして優雅に臙脂に金の刺繍が入ったスカートを広げてゆっくりと腰を曲げます。


「初めまして。ご挨拶をさせて頂けますでしょうか?」


 私は脳内で悲鳴を上げました。こ、このお嬢様、皇妃様をペテンに掛けましたよ!


 しかしお嬢様は素知らぬ顔で挨拶の口上を述べます。この口上は私が考えたのですが、一回私が言っただけで完璧に覚えてしまわれました。この時も淀みなく歌うように言い切りました。


「皇妃様のご尊顔を拝し奉り恐悦至極に存じます。遠くフレブラント王国よりアルステイン・サザーム・イシリオ様との縁を得てこの地に参りました。皇妃のような尊き方とご面識を授かりますは身に余る光栄でございます。これぞ大女神様のお導きでございましょう。女神ジュバールに感謝と皇妃様のご繁栄をここに祈らせて頂きます。神に祈りを」


 皇妃様もびっくりしておられます。それはそうでしょう。倒れていた筈のお嬢様が突然立ち上がり、こんな長い口上をスラスラと言い切ったら何事が起きたのかと思って不思議はありません。


 それからお嬢様と皇妃様は二言三言言葉を交わされ、穏やかにお別れになりました。私は皇妃様が騙されたとお怒りになられるのではないかと気が気ではありませんでしたが、お嬢様はまるで平気な顔をしていらっしゃいます。何というのでしょうか、図太い?度胸がある?いえ、これは人物が大きいと表現するべきでしょう。


 しかし、皇妃様へのご挨拶という重大な課題は無事に終わりました。後は隅の方で軽食でも食べて帰ってもこの社交は大成功だと言えるでしょう。私は気を抜いていましたが、お嬢様はそれとなく会場を観察していらっしゃったようでした。そして一人の令嬢にスルスルと近寄ります。


「ごきげんよう、レルージュ子爵令嬢」


 茶色の髪をした令嬢が驚愕に灰色の眼を見張りました。それはそうでしょう。会場ごとハブられているお嬢様に声を掛けられるなど厄介事でしかありません。しかしお嬢様は構わず話し掛けています。どうやら旧知の方だったようです。二言三言話しただけで子爵令嬢の表情が和らぎ、直ぐに宝石の話題で二人は楽しくお喋りを始めました。私も思い知ったお嬢様の話術が炸裂です。


 すると、二人の傍に何人かの令嬢がやってきます。お嬢様はにこやかに声を掛けました。


「あら?ルーマリア伯爵令嬢とカキリヤン伯爵令嬢。それとファーメラ伯爵令嬢ではありませんか。ごきげんよう。お久しぶりですね?」


 どういう記憶力でしょうか。お嬢様は彼女らが買ったという宝飾品まで諳んじてみせました。彼女たちは感激の面持ちでお嬢様を見つめています。その視線はアイドルを崇める目です。そしてお嬢様が旦那様とご婚約なさった事を知ると黄色い声で騒ぎ、以前に出た夜会の数々でお嬢様が如何に素敵だったか、旦那様とのダンスが如何に素敵でお似合いだったかを語り始めました。ほうほう。


「こちらのエルグリアは公爵様を幼い頃からお育てしていた、事実上の姉に当たる方ですのよ。公爵様の事なら何でも知っていますわ」


 とお嬢様は私をも巻き込んで旦那様のお話で周囲を盛り上げました。お嬢様の周りにだんだんと令嬢が集まってきます。旦那様は令嬢だけでなく夫人たちにも大人気ですから、公爵様の話を聞きたい夫人達もそれとなく寄り始め、お嬢様に挨拶をして行きます。お嬢様はきちんと一人一人に対応し、初対面で無い方にはきちんとその時の話をして、麗しく華やかな笑みを見せています。挨拶を交わしたご婦人方は概ね好意的な印象を持ったご様子でした。


 凄いです。これがついさっきまで会場中から嘲られ、無視されていた方なのでしょうか?今や会場の中心は皇妃様ではなくお嬢様であると言っても過言ではありません。


「お話が弾んでいるようですね」


 遂には皇妃様まで引っ張り出しました。何という事でしょう。しかし油断は禁物です。むしろ皇妃様はお嬢様から会の主導権を取り戻しに来たのかも知れないのですから。


 お嬢様は話題をさらりと旦那様から宝石の方に切り替え、皇妃様とお話していましたが、突然、顔をグッと皇妃様の耳元に近付けました。近いです。皇妃様は何事かと固まり、取り巻きが目を剥いて騒ぎ出します。しかしお嬢様は構わず、ジーっと皇妃様の耳元、どうやらイヤリングを観察した後、おもむろにおっしゃっいました。


「皇妃様、こちらのイヤリングは黒真珠ではありませんか?」


 黒真珠?真珠は知っていますが白いものではありませんか。黒いものがあるなど聞いた事がありません。しかし皇妃様は驚きの表情を見せた後、肯定なさいました。幻の宝石で二年間もの間誰も気が付かなかったとおっしゃいます。それは気が付かないでしょう。黒い宝石なら普通はオニキスか黒曜石で大して高価な石ではありません。ブラックダイヤモンドは高価ですが、あのような球の形にはなりません。皇妃様の取り巻きが黒イコール大した石ではないと判断してもおかしくは無いのです。


 自慢の品を認められた皇妃様の表情は一気に柔らかくなりました。そしてお嬢様の手を取っておっしゃったのです。


「流石に私の義弟の婚約者の事だけはあるわね、イルミーレ」


 こ、皇妃様がお嬢様と旦那様のご婚約をお認めになりました。公爵である旦那様と男爵令嬢のお嬢様の貴賤結婚には兄君である皇帝陛下の同意がどうしても必要です。その大障害を乗り越える鍵となる皇妃様の支持を取り付けたのです。お二人は仲良く笑っていらっしゃいますが、皇妃様周辺の大貴族のご婦人達の顔色は青く変わり、お嬢様と仲良くしていた令嬢の顔は輝いています。


 あまりの凄さに私はもう声も出せません。こ、この方は得体が知れないどころか、私の尺度では計り知れないスケールをお持ちの方だったようです。なるほど、旦那様が身分差も国の違いをも乗り越えて執着なさる訳ですよ!


 私はこの日、このお嬢様に一生お仕えしてお支えする事を心に誓いました。お嬢様と旦那様を無事結婚させ、そのお子様を私の手でお育てするのです!




 園遊会後、お茶会に出始めてそこでも順調に社交をこなしていらっしゃったお嬢様ですが、しばらくすると段々と元気が無くなって来てしまいました。特に旦那様の不在期間の長さが話題に上ると帰りの馬車では俯いて顔も上げられ無い程です。


「公爵様に会いたいです」


 そうおっしゃるお嬢様の姿は痛々しくて見ていられません。旦那様の不在が3ヶ月を超えると、お嬢様はもう取り繕う事も出来ないくらい元気を失い、社交にも出掛けられないくらいになってしまいました。食欲も減り、せっかく付いた肉があっという間に落ちてしまいます。私達は何とか食べて頂こうと食事に工夫を凝らします。


 子豚を見ている時さえ上の空です。旦那様から届いた手紙を何回も何回も読み返し、溜め息を吐いています。不寝番の報告では毎晩のように声を殺して泣いていると言います。お労しい。私は悲しくなり、同時に怒りを燃やします。


 婚約者を放置して、何をやっているのですか!旦那様!


 私が内心怒りの炎を高めていると、また旦那様のお手紙が来ました。今度こそお帰りのお話があれば良い、と期待して手紙を読むお嬢様を見守っていたのですが、どうやらダメだったようです。お嬢様の表情に明らかな落胆が浮かびました。


 すると、お嬢様は手紙を取り落とし、両手で顔を覆ってしまわれました。そしてシクシクと泣き始めます。私達はギョッとしました。貴族女性に痛烈なイヤミをぶつけられても顔色一つ変えず、いつも上品に穏やかに笑っておられるお嬢様が人目を憚らずに涙を流されるなんて!私はお嬢様を抱き寄せてお慰めいたします。するとお嬢様はこんな事をおっしゃいました。


「ねぇ、エルグリア」


「何ですか?お嬢様?」


「私が公爵様に捨てられたら、お屋敷で雇って欲しいの」


「な、何をおっしゃいますか!そんな事あるわけが無いでしょう!」


「こんなに帰って来ないんですもの。きっと公爵様は心替わりなさったのだわ。でも、私はまだ公爵様が好きだから、そばにいたいのです、だから、お屋敷で・・・」


 こんな弱気のお嬢様は初めてです。私はお嬢様がお労しくてお労しくて。反動でメラメラと怒りの炎が燃え上がります。私は叫ぶように言いました。


「お嬢様、ご安心下さい。私が坊ちゃまを叱って差し上げます!」


 私は他の侍女にお嬢様を託すと家に戻りました。出迎えに来た息子が私の顔をみて一目散に逃げ出しましたが構っていられません。私は書類机に向かい、猛然と旦那様への怒りを叩きつける手紙を書き始めました。帰って来たトマスが何か言いたげにしていますが無視します。


 書き上げると旦那様の手紙を持って来た使者を呼びつけ、大至急届けるよう命じます。あの人でなしめ、これで分からないようなら本当に屋敷にいれてやりませんからね!


 幸い私の旦那様はそこまで愚かではありませんでした。帰還するから勘弁しろ屋敷に入れてくれ、との返事が届いたので寛大にも許して上げる事に致しました。何よりお嬢様が大変お喜びになり、お顔が明るくなり食欲も戻られたのが嬉しいです。私達は帰還をお迎えする準備を始めました。兎に角お嬢様をお綺麗に飾って旦那様をビックリさせましょう。


 するとお嬢様は珍しく「緑のドレスが良い」と希望を出されました。緑は旦那様の瞳の色です。旦那様の瞳の色を纏ってお迎えしたいだなんて、可愛いではありませんか。私達はお嬢様のご希望を入れ、ドレスが目立つように他を控え目にする組み立てにする事に致しました。


 そういえばお嬢様は旦那様の事を「公爵様」とお呼びになりますね。私がそれではいけない。アルステイン様とお呼びしてくださいと言うと顔を真っ赤にして盛大に照れています。何ですかこの可愛さは。


 そうしてご帰還当日。お嬢様は輝くようなお姿におなりになりました。変ですね。全く盛っていない筈なのですが。キラキラ輝いて直視出来ない程です。ソワソワして今にもエントランスに駆け出しそうなお嬢様を宥めながら私も自然と笑顔になってしまいます。


 遂に旦那様がお帰りになりました。不眠不休で馬車を走らせたのでしょう。酷い格好です。あのお洒落な旦那様があのような格好で人前に出るなど初めてではありませんかね。よほど早くお嬢様にお会いしたかったのでしょう。


 旦那様は挨拶も何もかも吹っ飛ばしてお嬢様に駆け寄ると、思い切り抱き締めました。力が強過ぎたようでお嬢様が悲鳴を上げています。私が旦那様の肩を叩いて取りなすとやっとお嬢様から腕を緩めましたが、ピッタリと寄り添ったままです。


 は~。私の大事なお二人がようやく一緒になりましたよ。このお二人を無事結婚させ、お子様を生んで頂き、そのお子様を私が育てるのです。私が人生の目標に向け気合いを入れ直しながら見詰める先では、お嬢様がアルステイン様の名前を呼びながら自分から抱き付いていらっしゃいました。


 

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