第2話

「お父さん! おかえり!」

「ただいま」

 高瀬は、若干ぎこちなく、小学生の息子を抱きしめた。

「なかなか、東京には帰りづらいって、言ってたのに、よかったわね」

 妻が手を拭きながら、台所から出てきた。

「美咲は?」

「部屋にいるんじゃない? 美咲、お父さん帰ってきたわよ」

 この春、高校生になった娘は、自分を避けるようになってきた。難しい年頃だからだろうか、数年前から、洗濯物を父親とは一緒にしないようにと言っていた。

 だが、コロナ禍で、単身赴任先の福岡から、なかなか帰省することもままならず、久しぶりに娘の顔がみたかった。高瀬は遠慮がちに、娘の部屋の戸を叩いた。

「美咲、帰ったよ」

 鍵の開く音がして、ゆっくりとドアが開くと、娘が中から顔をだした。

「おかえり…。……?」

 娘が自分の顔を見上げて、鼻を鳴らしている。納得いかないように、なんども鼻をくんくんさせている。

「お父さん、何か消臭剤使ってるの?」

「あ、いや、ばれちゃったかな? これ、『アバター・ロボ』なんだよ」

「なに、それ?」

「お父さんの本体は、福岡にいるんだ。そこから、遠隔操作してるんだよ」

「アバターなの?」

「知ってるのか?」

「ううん。でも、アバターって言われたら、なんとなく想像つくっていうか…。それ、いいじゃん。お父さん、臭くないし」

 臭い本体より、臭くないロボットのほうがいいと言われた高瀬は、若干寂しさを覚えた。しかし、臭いが自分につくのを気にしていたらしい娘が、遠慮なく自分に抱きついてくれて、ちょっと嬉しかった。

「お父さん、この『アバター・ロボ』って、わたしのお小遣いでも買えそう?」

「そうだな…。随分価格が下がってきたようだから、お年玉貯金でなんとかなるんじゃないかな」

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