第31話

目が覚めた時、あたしは薄暗い空を見上げていた。



体が凍えるように寒くて、頭がボーっとしている。



「目が覚めたか?」



その声に反応して顔だけ横へ向けると、びしょ濡れの和人がいた。



「なんで……?」



そう質問すると同時にひどい吐き気に襲われ、その場に吐いてしまった。



出て来たのは水ばかりだ。



「日記を見つけた」



そう言ったのは修人だった。



びしょ濡れの日記をコンクリートの上に置き、ページをライトで照らしながら読んでいるのがわかった。



「咲紀は!?」



水中での出来事を思い出して、あたしはそう言った。



「咲紀なんてどこにもいない。愛菜は日記を掴んだまま溺れてたんだ」



修人にそう説明されて、あたしはホッと胸をなで下ろした。



あれが夢だなんて思えないけれど、とにかく日記は見つかったのだ。



これでなにか前進できるかもしれない。



「日記にはなんて書いてあるの?」



あたしは重たい体を起こして修人へそう気いた。



「俺と和人の2人は部室でタバコを吸って火事を起こして、死ぬって」



その言葉にあたしは和人を見た。



「和人ってタバコ吸うの?」



「少しだけ」



「文芸部の部室は紙が多くて乾燥もしてるから、灰が落ちたらそのまま火が上がるんだろうな」



修人はそう言いながら、ズボンのポケットからタバコとライターを取り出した。



どちらも濡れていて、もう使い物になりそうにない。



それでも、それを川へと投げ捨てた。



和人も同じように、持っていたタバコとライターを投げ捨てる。



「タバコを持っていなければ、書いた通りにはならないだろ」



修人はそう言い、日記を閉じた。



ひとまず2人はこれで安心かもしれない。



だけど問題はこれで終わりではなかった。



あたしは健太郎を殺しているのだから、自殺しなかったとしてもどこにも居場所がないのだ。



2人だって、あたしと一緒にいることで立場は悪くなっているはずだ。



「2人とも、帰らなくていいの?」



空は徐々に明るくなり始めている。



早く帰らないと、家の人に怪しまれてしまう。



そう思ったのだが……。



「俺たちも、もう帰る場所がない」



と、和人が言ったのだ。



「どういうこと?」



そう質問すると、和人がスマホを取り出して操作しはじめた。



「これ、読んで」



そう言われて確認したのは、とあるSNSだった。



そこには健太郎の事件について書かれている。



一瞬目をそらしてしまいそうになったが、現実を受け止めるべく、記事を読むことにした。



《名無し:殺したのは彼女の久林咲紀って女》



《万年ニート:この学校、ちょっと前に自殺者も出ていた模様。しかも、久林咲紀と同じ文芸部》



《名無し:久林咲紀が自殺に追い込んだ可能性でたー!》



《万年ニート:追加情報。文芸部の部員の1人は現在行方不明中。これも久林咲紀が関係してるのか? だとしたらヤバすぎ》



《名無し:行方不明者、すでに死んでから3人の殺害容疑》



「このままじゃ、俺と修人の名前が出るのも時間の問題だ。それで明日香の死体が見つかれば……」



そこまで言って、和人は口を閉じた。



このままでは3人とも捕まってしまう。



せっかく日記を見つけて、死から遠ざかることができたのに……。



「俺は警察に行く」



そう言って立ち上がったのは修人だった。



「修人!?」



あたしは驚いて修人を見上げた。



修人の表情は真剣で、嘘ではないことがわかった。



「なに言ってんだよお前」



そう言って手を伸ばす和人を、修人は振り払った。



「確かに俺は明日香を殺した。でもそれは、愛菜に命令されたからだ」



修人はそう言いあたしを見下ろした。



あたしは信じられない思いで修人を見つめる。

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