第2話 いつもの夜

 西谷大地は両親が寝静まった頃に自分の部屋で幻聴を聞いている。聞いていると言っても、大地が考えることを部分的に幻聴が繰り返し真似して言うのである。

 恵は今、何をしているのだろう?

「何をしている?」

 こんな感じである。

 十代の初めての発症時は幻聴が西谷大地をコントロールすると言った感じで学校生活も難しかった。周囲の人々の支えがあったからなんとか学校生活が送れたということ。

 統合失調症の発症によって、大地は集中力が多少の低下がある。西谷大地と塩田恵は高校時代の図書室で読書と執筆等もしていた。集中力の低下、それでも、大地は読書と執筆を続けている。青年である大地は、そろそろ小説の公募に応募しようと考える。

 落選するのが怖いなぁ。

「落選しろ」

 大地の考えることに幻聴が色々な勝手なことを言うのである。

 大地の携帯電話に着信が鳴る。画面には、塩田恵と表示されている。大地は深呼吸をしてから電話に出る。

「もしもし? 夜にどうしたの?」

「もしもし、大地に教えたいことがあって。小説の公募がちょうどいいのが見つかってね? 短編なんだけど」

 通話するなかで、幻聴は聞こえなくなる。一時的なものだが、西谷大地にとって、夜に塩田恵と通話することが症状を抑える方法でもあるのだ。

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