イスバス選手として

 海斗は昴の能力に驚いていた。小学四年生迄の動きとブリスベン五輪バスケでの活躍を思えば、ある程度の想像はついたが、想像を遥かに上回っていた。特にそのスピードとテクニックは、海斗が対戦してきたどの外国選手よりも秀でていると思えた。

 ただ、個人練習や海斗と二人での練習では、昴の能力は際立っていたが、チーム練習では手こずっているようだった。チーム員の能力差は大きい。障害の程度は様々だし、イスバスへの力の注ぎ方も様々だ。昴は個々の能力に合わせようとすると自分の力迄弱らせてしまう。

「能力を合わせるんじゃない」と言うとワンマンプレーになってしまう。

「弱い者に能力を合わせるんじゃなくて、弱い者と力を合わせる」という事が上手く出来ずに苦戦しているようだった。

 その点、海斗は昔からこうした能力に長けていた。血気盛んな二十歳の若者だった頃、小学一年生だった昴を受け入れ、能力をしっかりと引き出してあげていたなんて普通は出来る事ではない。

 個人としては卓越している能力を持っている昴だったが、ドゥーリハリハのチームで海斗から学ぶ事は沢山あった。


 一方、昴は間もなくイスバスのナショナルチーム入りしたが、その練習を通じて海斗が昴から学ぶ事が沢山あった。

 海斗はもう十年以上もイスバスのナショナルチームをキャプテンとして引っ張ってきている。メンバーの一人一人の障害や癖やメンタルなどを把握し、個々が持っている力を最大限に発揮出来るように連携し、チームの和をとても大切にしてきたので、ナショナルチームの雰囲気はとても良い物になっていた。

 昴の加入はそうした安定というか、居心地の良い物を良い意味で壊す物となった。


 ナショナルチームでは、昴は最初から臆する事なく遠慮無くぶち当たっていった。ここはドゥーリハリハのクラブチームとは違い、全員が世界一、パラリンピックチャンピオンを目指すという統一された目標に向かって活動している。勿論障害の程度は様々だし、イスバス意外に各々が抱えている問題はあるが、昴はコートの中での甘えを一切許さなかった。障害を持っているからこれ位しか出来ないという妥協を許さなかった。

 勿論、それぞれの選手に限界があり、障害によってどうにもならない物があるから各選手にポイントが付けられているし、それは昴も充分に分かっている。それでもチーム員の事を障害者としてではなく、スポーツ選手として見ていた。アメリカのハイスクール、ブリスベン五輪の健常者バスケの日本チームと同じような物を求めた。


 その人が今持っている力ではキャッチ出来ないスピードでパスをしたり、追い付けない場所にパスを出したりして、先輩達に何度も怒鳴られた。

「お前のスピードやお前のタイミングでプレーされても、こっちは無理なんだ! もっとオレらに合わせろ!」と。

 それでも昴はひるまない。

「オレのスピード、オレのタイミングでやってるんじゃない。充分合わせてる。それ位出来るはずなんだ」と。

 事実、自分のタイミングではなく、味方の動きを見てのプレーの仕方は、自分の足が思うように動かなくなってから習得してきた。


「一人一人にポイントが付けられていて、オレは一点だからこれ位しか出来ない、これ位でいいんだと思うなよ。もっと出来るんだから。自分で自分の限界を作るな」と。

 先輩選手に対して、そんな口調でズケズケ言ってくるのでチームの雰囲気は一気に変わった。

 それは海斗に対しても同じだった。常に今、持っているよりも高い物を要求してくる。

 海斗も長年プレーをしてきて、知らず知らずのうちに自分の限界を決めてしまっていた所があった。その限界が昴によって打ち砕かれようとしていた。

 チーム内での言い争いは絶えなかったが、昴は人に言うだけではなく、誰よりも自分の限界を上げる努力をしていたので、次第にチーム員にもそれが伝わり、皆の意識もこれ迄以上に高まっていった。
















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