第25話 驚き

この短い時間にケリードは何度も大きな衝撃を受けた。


 彼女の中では自分は彼女を嫌っていて、その理由も女性である彼女が男性に混ざって王宮警吏の職に就いており、それを快く思っていないからだという。


 どうしてそんな結論に至ったのだろうか。


 いや、腹いせにチクチクと嫌味を言っている自覚はあったが、彼女が嫌いだからそんなことをしていたわけじゃない。


 嫌味半分、親切心からくる忠告のつもりだった。


 しかし彼女はそれら全てを嫌味だと解釈して自分に対して嫌悪感を募らせていたと知り、自分の口の悪さを反省するしかない。


「まさか男が嫌いだったなんて……」


 この事実にもかなり驚いた。


 リオンの容姿は人目を引くし、異性からのアプローチも多いだろう。

 しかし、女である彼女の能力の高さに嫉妬して彼女を貶したり、貶めようとする輩もいたはずだ。 


 男に対して嫌悪感を抱いても仕方がない。


 具体的に何をされたのか気になったが、それは彼女自分から話してくれるまで待つ方が良い。


 オズマーとの距離があまりにも近くて、親し気に接しているから男性が苦手だということには気付かなかった。


 自分が近づけばビクビクして怯えるくせに、オズマーは許されていると思うと酷く腹が立って、それがリオンに嫌味を言いたくなる原因だった。


 確かに、五年の付き合いがあるオズマーと十年以上の歳月を経て再会した自分では圧倒的に自分の方が不利だ。


 それに、彼女はおそらく自分のことなど覚えていない。


 男が苦手なら少しずつ慣れていけばいい。自分のことを忘れているのであれば、思い出してもらえばいい。


 ケリードはリオンの頬に触れた指先に視線を落とす。


 触れた頬は滑らかで柔らかく、くすぐったいのか目を細めるリオンの表情にケリードは視線を奪われた。


 目を細めてされるがままのリオンの姿は小動物のように愛らしくて、少し無防備で心配になる。


 手を払ったり、逃げようとする素振りを見せなかったことにケリードは安堵した。

 少しずつだ。


 焦ってはいけない。


 彼女を目の前に欲を出せば、彼女を酷く傷付けて取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。


 それだけは御免だ。


 ケリードはきつく拳を握りしめ、やり場のない気持ちを鎮める。


「ケリード」


 廊下を歩いているとアルフレッドから声が掛けられた。


「どうしたの?」


 周囲に人の気配がないことを確認してからアルフレッドはケリードに近づく。


「ジェイス・ケラー弁護士が事務所を襲撃されて死亡した」


 小さな声で耳打ちし、何事もなかったかのようにケリードを追い越して廊下の角に消えた。


 アルフレッドが消えた廊下でケリードは呆然と立ち尽くす。


「今日は驚くことが多いな」

 

 遂にあいつらが動き出した。

 うかうかしてはいられない。


「次は絶対に奪わせない」

 

 誰もいない廊下にケリードの声は溶けるように消えていく。

 しかし、抱いた決意の炎は十三年前から消えることなく、アイスブルーの瞳の奥で燃えていた。

 

 

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