第6話 苦手な相手

「私は見たことないから、何とも言えないわね」


 顔の周りにケリードの視線を感じたがリオンは気付かないふりをする。


「ふーん。そう」


 そしてケリードはリオンから視線を外し、ゆったりとした動作で歩き始めた。

 その後ろをリオンはケリードと並ばないようについていく。


 仕方ないのだ。帰る場所が王宮でお互い目的地が同じなのだから。


 少し遅れて、オズマーが小走りで近づいて来た。


「オズマーは飲み会に行くの?」


 ケリードから少し離れようと思い、何気なくオズマーに問い掛けた。


「ああ! 何で二人とも来ないんだよ」


 恨めし気に言うオズマーにケリードが振り向いた。


「どうしても外せない用事なんだ。何か面白い話が聞けたら教えてよ」

「ああ。情報交換も大事だからな」


 ぴくっとリオンはオズマーの言葉に反応する。


「情報交換?」

「ほら、俺達王宮警吏は外の情報に弱いからな。こういう機会に色々話を聞けると、何かあった時に役立つこともあるからな」


 時々、リオンが全く知らない情報を持ってくるオズマーが不思議でならなかったが、こういう飲み会や仲間との付き合いで得ていたのかと今更ながら感心する。


「最近はピエロ達の活動も活発だし、こうして王宮外にも借りだされることも多い。

情報は多い方がいいだろ?」

「確かに……」


 リオンは口元に手を添えて考え込むような仕草をする。


 その姿を見てケリードは眉を顰めた。


「ねぇ、オズマー、やっぱり私も……」


 参加したい、そう言おうとした時だ。


「オズマー、君に確認しておきたいことがあったんだ。一緒に来て」


 リオンの声を掻き消すようにケリードが声を上げる。

 いつも会話をする時よりも声が大きく、リオンはそれが不自然に思えた。


「あ? 分かった後で行くって。リオン、今何か言ったか?」

「うん、私も……」

「急ぎなんだよ。ほら、早く来て」


 リオンの言葉は再びケリードの声に重なり、消滅した。


 ケリードはオズマーの肩を掴んで大股で歩いていく。


 リオンの声はオズマーには届かず、情報収集の機会を逃してしまった。

 二人の背中を見つめて、肩を落とすリオンをケリードが振り返り、再びリオンに歩み寄る。


「ついでだから」


 そう言ってリオンの首元に手を伸ばし、レイニーの頭を掴んでリオンの制服の中から引き摺り出した。


「ちょっと! 乱暴しないでよ!」

「魔獣なんだから死にやしないよ」


 ケリードに頭を掴まれたレイニーは怯えた様子で逃げようともがいている。


「君は飲み会なんかに出ないで大人しくしてるんだね」


 ふんっと、鼻を鳴らし、むすっとした表情で歩き出す。


 何でそんなことを言われなければならないのか。


「あいつ……もしかしてわざとなの?」


 何となく、オズマーとの会話をわざと妨害されたように感じていたリオンは呟く。


 考えすぎか。

 いやでも……。


 先ほどの意地悪そうな顔と鼻で笑うところを見たらもうそうとしか思えない。


 先ほどの一言なんて、決定的ではないか。

 そう考えると腹立たしさが込み上げてくる。


『僕は女だと思ってるんだよねぇ』


 ケリードとの会話を思い出し、肝が冷える感覚を覚えた。


 入隊早々思っていたことだが、リオンはケリードが苦手だ。

 リオンの心を見透かしたような瞳も、リオンの行動を妨げようとする言動も、変に勘が働くところも、全部苦手だ。


 やりにくくて仕方ない。


 いつも嫌味を言ってリオンに突っかかるケリードに心の中で舌打ちをした。


 



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