第25話 知性

2022年10月16日 日曜日


昨日の陽一とのブレスト以降、洸一はずっと知性について考えていた。


人間が生物として進化を遂げるということは、他のどの生物より(相対的に)大きくなった大脳の能力を飛躍的に高めるということではないか。


それを一言でいえば、知性というのだろうが、知性の定義があいまいだ。


人間らしさを決める要素は知性と感情と意志だと学者は言っているが、どれも明確に定義されている訳ではない。強いて言えば同義反復の言い換えに過ぎないように洸一には思えた。


自分で考えなければならない。


高い知性とは、巷で言うIQのような与えられた問題を如何に速く解くかということにとどまるものではもちろんない。

円周率を1万ケタ暗唱できるとか、特技としては話題になるけれども、頭脳のほんの一部分しか使っていない。


数学とか物理とか化学とかの国際オリンピックで金メダルを獲ると天才とか神童ともてはやされるが、確かに高い能力ではあるけれども、所詮誰かが決めた枠組の中での話に過ぎないのではないか、と洸一は思う。


洸一は小学生の頃から数字が好きで、数学の成績はいつもトップクラスではあったが、大学では数学科には行かなかった。洸一の大学は国立の有名校で、そこの数学科の方針は、10年に一人の天才を輩出することだった。


そして、洸一の同級生には高校時代から全国模試の数学でいつもトップだった人がいて、大学の数学の授業では教授があえて出した難問でも必ず手を挙げて前に出て黒板にすらすら証明を書くのに、洸一は埋めがたい力の差を感じた。


自分が目指すべき高い知性とは、学問として体系だっていないもの、そもそも何が問題かを特定できて、誰も試したことの無い方法で解くこと。そしてそのような問題を解くことで社会を豊かに幸福にすることではないか、と洸一は思う。


社会やビジネスの問題は、到底一人の力で解けるものではなく、多くの人を動かさなければならない。解決に成功したらそれは巨大プロジェクトのサクセス・ストーリーとして語られるものになるだろうが、洸一にとっては称賛や名声よりも、複雑で大規模なプロジェクトを企画し、始動し、どんな困難も克服して推進し結果を出すことができるようになることの方がはるかに魅力的に見えた。


ひょっとしたら陽一も同じことを考えているかもしれないがそれはそれでいい。より具体的なアイデアに進化できるだろう。


洸一はノートを取り出し、自分が高めたい能力について考えを吐き出すことから始めた。

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