第5節

 ――貴族令嬢きぞくれいじょうだった。


「リリア様、なぜお止めになるんですか?」

「それは私を助けた方達だからです」

「っ!」

「シャル、貴方には失望しつぼうしました」

「で、ですが…」

「私の部下が失礼いたしました。お怪我けがは無いでしょうか?」

「リリア…って言ったか。僕よりもあっちの心配をすべきじゃないのか?そこの騎士様が詰問きつもんしてくれたおかげで死にかけてるしな」

「ッ!! シャル、貴女あなたは…なんていうことを…ッ!」


 リリアは女騎士おんなきし――シャルに向けてなか怒鳴どなるような口調くちょうで言う。

 シャルは跪きながらもノアへと「お前の所為せいだ」とでも言う様な視線を向けてくる。


「まあ、その程度なら良いんですけどね」

「は?」

「“水の聖霊よリーリアかの者の傷をエルシェリオ全て跡形もなくルガディルス治せフィルド”」


 ノアがマーヤに向かい唱えるとたちまちマーヤの傷は無かったかのように治る。

 リリアは目を白黒させる。


「あの…あの傷は治癒魔術ちゆまじゅつでは治らないはず…」

「あの程度のなまくらでられた傷くらい治せますよ」

貴様きさまッ! 国王陛下から直々じきじきに頂いた精剣せいけん愚弄ぐろうするか!」

「シャルっ! 貴女はどこまで醜態しゅうたいをさらせば気が済むのですか?」

「…申し訳ございません」

「ええと…すいません。それで、お名前をうかがっても?」

「ああ、申し遅れました。私はノア・シネルと申します。以後お見知りおきを」

「私はヘルリア侯爵家が長女、リリア・ヘルリアと申します。こちらこそよろしくお願いいたします」


 リリアは貴族然きぞくぜんとしたお辞儀じぎをし、そう名乗る。

 ノアは魔杖ロッドふところへとしまい、マーヤを背負う。


「色々、話したくはありますが…先にこの者を介抱かいほうさせてもらいます」

「ええ。元はと言えばこちらの不手際。百年だろうと待ちましょう」

「お気遣きづかいに感謝いたします」


 ノアはそう言って二階へとどうにか上がり、寝室にマーヤを寝かして一階へと再度降りる。


「“地の聖霊よエーセィル崩壊せし物をフィルァヴァリル修復せよナスィリア”」


 ノアが魔杖を持ち崩れた壁の残骸ざんがいに唱えれば、残骸から橙色だいだいいろに光る球が浮かび上がり壁を修復する。

 そして、ノアは改めてリリアとシャルを店の中に入れ、アンナにマーヤの面倒をまかし席に着く。


「シネル様、此度こたびおろかな我が部下が失礼を働きまして、申し訳ございません!つきましては、何らかの形でつぐないをしたいと考えるのですが…」


 リリアが椅子から立ってノアに頭を下げる。

 すると、ノアの背後から少女の声が聞こえる。

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