第4節

 ――店の中には作業台と数個の魂灯カンテラが天井からぶら下がっており神秘的しんぴてきな光景を生み出していた。

 ノアは魂灯たちに「ただいま」と言い、かばんを作業台のはしに置く。


「さてと、やりますか」


 そして、ノアは仮フレームを作業台に置き鞄から青白いフワフワとした球体――魂を取り出す。


「これで良いか?」

『うん。これ、好き』

「気に入ってくれたなら重畳ちょうじょう

『ありがと』


 魂はノアにそう言い仮フレームの中へと入る。

 すると、フレームのガラスからほのかに光が出始ではじめる。


「よし、仮入れは終わったな。あとは…ああ、そうだった。こっちの調整ちょうせいもしないとか…」


 そして、ノアがカウンターのほうを振り向くとドアが開く。

 ドアの向こうには騎士きしと思しき女性が立っており、ノアに尋ねる。


「リリア様を見かけたか?」

令嬢れいじょうっぽい奴か?」

「むっ…まあ、そうだが」

「なら、知り合いの店で保護してるよ」

「情報、感謝する」


 女騎士はやや不機嫌ふきげんそうに言い、店から出ていく。

 ノアは溜息をつき、客の魂灯を調整していく。

 少しすると、アンナが店へと入ってくる。


「あれ?どうしたの」

「あの、早く来てください!」

「?」

「良いから!」


 アンナの必死な様子を見て只事ただごとではないと判断したノアは懐に魔杖ロッドを入れ、紺色こんいろのローブを羽織はおり、店を閉めてマーヤの店へと急ぐ。

 マーヤの店は凄惨せいさんの一言にきた。

 強化魔術きょうかまじゅつのかけられていた柱以外の一階部分は綺麗きれいさっぱり無くなっており、ノアのさとった通り只事ではなかった。

 呆然ぼうぜんとしたノアを現実に引き戻したのはマーヤの叫び声だった。


「ッ!?」


 マーヤは先程からうめくような声を上げて助けを呼んでいた。

 しかし、周囲を見回せどマーヤの姿は見えない。


幻影魔術げんえいまじゅつか…?」


 ノアは少し考えて幻影突破げんえいとっぱの魔術を周囲一帯にかける。

 すると、店の柱の一本から女騎士から詰問きつもんされるマーヤが居た。

 ノアはそれを見た瞬間、マーヤに防護結界をかけ最大火力で指向性しこうせいを持たせた炎弾えんだんを放つ。

 騎士はそれをギリギリでけ、ノアの方をにらむ。


「貴様、いま何をしたか分かっているのか?」

「ああ。親友を傷つけるクソ野郎やろう制裁せいさいくだそうとした」

「ッ!!」

「言え。お前は何をしていた?」


 ノアは体に響くような低い声を出したずねる。

 しかし、騎士はノアをにらみ付けて斬りかかる。

 ノアはそれを寸前で避け、魔杖ロッドを引き抜く。


「“炎よ、球体となりて、敵を討てエルサ・スィルガア・ヴォルディド”」


 ――瞬間、ノアの周囲に炎の球が現れ騎士へと飛んでいく。

 騎士はそれを切り伏せノアの首をき切らんと剣の切先きっさきがノアへと向かう。

 そして、切先がノアに触れた瞬間――

 騎士の剣が融解ゆうかいする。


「なっ!?」

遅延魔術ディレイマジック――“地獄の炎よ、触れた全てを、溶かせヴェル・フォルディルカ・ルフェルム”」


 ノアは民家の屋根に上がり、騎士を見下みおろす。

 そして、ノアが魔術で騎士をしばると同時に付近に静謐せいひつな声が響き渡る。


「お止めなさい。シャル」


 騎士はその声を聞くなりひざまずく。

 マーヤの店から出てきたのは――

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