第26話 通話記録




『マサキ?どうしたの?』


「………こんにちは。弟が世話になってます」


『………お前、誰?』


「正城の実質お兄さん、そして君が大嫌いな都築の男だ。迫水辰くん」


『ああ、昨日の晩に尻尾巻いて逃げた腰抜けだね』


「お家に行ってたら仲良くおしゃべりできたか?」


『まさか』


「それは残念。弟の友達だし、仲良くしたいけどな」


『………』


「正城は部外者じゃない都築の男子だ。もう事情は

話した。うちがやってることもね。で、君は正城のことも嫌いになるのか?」


『ああ、そう。もういい』


「切るなよ。まだお前がやったとは言ってない」


『……』


「もしも、お前が電話を切ったら言う。それじゃ、話くらいしような」


『……チッ』




「誰から教わった?いるんだろう協力者が。術師の家系でも失伝していた呪いの御業、一人でできたわけないよな。

 調べさせてもらったが、早くに亡くなった君の親はただの農家で、三代辿っても変な筋は出てこなかった。ただ迫水の家は因縁の場所と距離が近くてね。そこをつけこまれたんだと…」


『つまり、オレは大人にやらされてるだけって言いたいんだ?お前は。

……冗談じゃない。オレにここまでさせたのはお前たちの卑怯さだよ』


「それは失礼。逃げる気は無いんだ?」


『誰だって選べるならば最善を選ぶだろう?やらなくていいならやらない。やるしかないなら一番要らないやつ、だ。

 悪行だというなら、押し付けたお前達の悪意こそ咎められるべきだ』


「そうせざるをえなかった理由を少しは考えることだな。無能で説明できることにまで悪意を見出してたら、本物の悪意を見逃すことになるかもしれないってことだよ」


『その無能の当事者が何を言う』


「ん、まぁな。

 聞き出せないならもういいか。こいつを頭の片隅に覚えておくことだ。そしたら俺からは正城に黙っておいてやるよ」


『お家の安全を請わなくていいのか?』


「ああいいとも。俺もお前の安全までは保証できないから」


『殺す気があるなら昨日見過ごしたのは命取りになるけどな?』


「…そうやってすぐ極論に走る。子供だな」


『そう、躊躇うんだ?子供を殺すのは気分が悪いね。オレはずーっとやらされてきたけど』


「そこは歳の問題じゃねぇだろうが。じゃあ悪い大人を殺してお前の気分は晴れたか?老いぼれを殺すのは心が穏やかだったか?

 その死に様、ちゃんと見たのか?」


『……病院の患者を犠牲にしたのは失敗だと思ってる。オレが意気地なしのせいで、あと少しの時間を奪ってしまった。最初から、時間があるのにそれを使わせる価値の無い奴らを始末すれば良かった。

 昨日のことに後悔はない。あの麻薬密売人の死に様は知ってるよ。水洗トイレに顔を突っ込んで死んだんだろ?そこまで惨めな死に方まで、こっちでは指定してないからな』


「………」


『あれの辻褄合わせは溺死ならなんでもいいんだ。風呂にでも入っていれば警察も戸惑わずに済んだのに、まさか便所とはね。ははっ、先に小便はしてたのかな?』


「……おかしいよ、お前」


『おかしい?はは、おかしいかって?

何の罪もない子供を呪い殺す夢ばかり見てる人間がまともに育つと思うか?』


「……知らねえよ。仮にも正城と友達やれてたなら昨日まではまだマシだったんだろ。本性隠しきる頭はなさそうだしな」


『ん?やれてた?これからもオレはマサキとは友達だよ。だから二度とお前はこの番号からかけるな』


「はっ、じゃあ非通知でかかってきても出てくれよ」


『いいよ。オレたち仲良くしようか。じゃないと、マサキに嫌われるだろう?』



「………まぁな。お喋りありがとう。じゃ、また後ほど」







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る