第2話 浸食する脅威

「パンによく似た奇妙な生物が、

東京の街中をうろついているとの情報が入ってまいりました」


ヤバいニュースが朝から舞い込んできた。

どうやらあのパンは、4.5日も経たない間に増殖したらしい。

思わずテレビに目が釘付けになる。

傍らのトモも、同様にテレビの画面を凝視していた。


「こちら現場です。私は今、○○地区に来ています。

先ほどからこの辺りを歩いているだけで、既に5匹ほどのパンを発見しました。

……アアッ!見てください!!家族連れが襲われています!!」


レポーターの大きな声と共に、カメラが拡大される。

そこに映し出されていたのは、車から降りようとする人々が襲われる光景だった。


「ね、ねぇトモ……これってあのパン……よね?」


おそるおそる尋ねる。だが、トモは真っ青になって沈黙したまま答えない。

所詮は食材だと。数日であっという間に腐るものだと思い込んでいた。


ニュースは更に続く。

野生化したパンは、全国各地で数を増やしているらしい。

挙句の果てには食料を求めて、各地の工場やショッピングモールを襲撃しているようだ。


わたしは思わず天を仰ぐ。

トモはスマホを操作しながら、なにやら考え込んでいる。

だめだ、これは。現実逃避に入ってしまったようだ。

仕方がない、とわたしは立ち上がった。


「ちょっとアレ退治なんとかしてくる!」


わたしはライフルケースを慣れた手つきで肩から下げる。


「じゃぁ、行ってくるから留守番よろし──」

「待って、ハナちゃん!」


スマホを操作していた手を止めて、トモが静止の声を投げかけた。

なぁに?とわたしは背後のトモへ首を向ける。


「私も行く!」

「なに言ってるの!!」


トモの予想外な発言に、わたしは思わず大声を出してしまった。


「あー……ほら、トモは身体を動かすのとか、大の苦手でしょう?」


慌てて言葉を取り繕う。

トモにだけは危ないことをしてほしくないのだ。

それだけ大事な存在なのだ。


「安心して!私ひとりじゃないから!

有志による対策部隊を組んでいるから!」


はい?と口から思わず戸惑いが漏れた。

思わず「どういうこと?」とにじり寄って尋ねる。


……つまりはわたしが決意を固める以前に、

トモは秘密裏にパンの討伐隊を結成していたようだ。


「だって家からアレが発生したってわかったら、

 世間から非難轟々くらうじゃんっ!」


とりあえず一人で戦う決意を固めていたわたしは、トモにゲンコツを一発食らわせた。


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